2018年6月17日日曜日

教育委員会のような大組織に所属してしまうと、人はなぜその組織を変えようとしないのか?


以前に一回性の指導訪問について書きましたが引き続き、そのことを考えています。

1回性の学校指導訪問よりもかかわり続けることを
http://projectbetterschool.blogspot.com/2018/05/blog-post_20.html

「1回性の学校指導訪問よりもかかわり続けることを」には続きがありました
http://projectbetterschool.blogspot.com/2018/05/blog-post_25.html

そもそもなぜ教育委員会といった大きな組織に所属すると、その歯車のように一部となり、連綿と続いてきた一方向の学校指導訪問モデルが繰り返されてしまうのでしょうか。

学校現場で教員として働いているときには、教育行政への健全な批判的思考をもっていたはずです。いざ自分がその行政組織に入ってしまうと、これまでの慣習を変えることから距離を取り、知らず知らずのうちか長いものに巻かれていってしまう。もしくは、進んでその組織の一部となってこれまで同様その組織体質を維持し続けてしまう。これは、一体どのような力が働いているのでしょうか。

そこで「服従の心理」著:S・ミルグラムを読んでいると、大変興味をひく記述がありました。これは、言語テストで間違えたとき、電流を流し続けなければならない罰を与える役割の心理実験についての本。その被験者の詳細な心理記述とその考察がなされていて、読み応えがあります。

 “通常はまっとうで礼儀正しい人物が、なぜこの実験の中では他人に対して残酷に振るまうのか、ということだ。その人がそうするのは、衝動的な攻撃的行動を制御する良心が、ヒエラルキー構造に参加する時点で力を弱められているからなのだ。”S・ミルグラム. 服従の心理(河出文庫) (Kindle の位置No.). 河出書房新社. Kindle .

 “人がエージェント状態にあるというのは、その人が自分について、 地位の高い人物の統御に自分を委ねるような社会状態にあると定義しているということだ。この状態になると、その人は最早自分の行動に責任があるとは考えなくなり、他人の願望を実行する道具にすぎないと己を定義するようになる。”S・ミルグラム. 服従の心理 (河出文庫) (Kindle の位置No.). 河出書房新社. Kindle .

つまり、権威ある組織に所属することで、個々がもつ道徳心や崇高なビジョンよりも、その組織内で自分の能力を認められる「有能感」の承認が優先されてしまうということです。権威に従っている限り、自分の道徳心を傷つけることなく、たんたんとこなせてしまう。それは役割なんだからと、他者の責任にしながら。一方、その組織に所属しながらも、自分の信念を貫き通す人も少ないながらもいます。

 “非服従の代償は、自分が信念を破ったという身を切られるような思いだ。道徳的に正しい行動を選んだとはいえ、被験者は自分が引き起こした社会的秩序の破壊に困惑したままであり、自分が支援を約束した目的を放棄したという感覚を捨て去ることはできない。自分の行動の重荷を感じるのは、従順な被験者ではなく、服従しなかった被験なのである。”S・ミルグラム. 服従の心理 (河出文庫) (Kindle の位置No.). 河出書房新社. Kindle. 

その組織の中にいながらも、自分の信念を保ち続けるにも、ある意味その組織で「浮いている存在」として、違和感をもちつつ、居続けられる心のねばり強さが求められています。この心のもちようは、学校組織でこれまでの学校文脈になかった新しい実践に取り組み続けている教師達の不安心理と共通するものです。こういった集団服従への心理構造を一部理解することでも、自己をメタ認知するひとつの支援となるはずです。

驚くことに、ある市町村委員会では、指導主事が個人として、現場の教員との関わりをすべて禁止しているそうです。メールのやりとりもしかり。公の研修で、講義形式といった集団的な関わりしか認めていません。これではどうやって、個々の先生達のニーズや悩みによりそっていけるのでしょうか。

一方、希望の声も聞こえてきました。信念を持ち続け仕事をしている人がいるということを。以前の勤務先だった市では、一度限りの学校指導訪問を廃し、定期的に市教育委員会からの指導訪問が継続するとの決断を。前回、指摘したようにこれまでと同じような指導訪問が継続するのならば、現場には来てもらってもあまり意味がありません。継続して支援し続けられる、いわゆる形成的評価の支援モデルとしてかかわってもらえるのならば、すばらしい実践となるはずです。大いに期待しているところです。

★このミルグラムの実験は、スタンフォード監獄心理実験のほうが有名です。被実験者を囚人役と看守役とに分けられ、地下にある模擬刑務所で2週間缶詰になって役割実験をしたところ、最初は冗談交じりだったはずが、あまりにもその役にはまりすぎてしまい、途中禁止となってしまった実験です。映画の「es」の人間描写の衝撃は忘れられません。

1 件のコメント:

  1. 今回のテーマ、これまで当ブログで扱ってきた
    http://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=%E8%9D%B6
    とオーバーラップするところが大きいと思いました!
    というか、構造的に同じ問題??

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