2018年1月7日日曜日

『PBL 学びの可能性をひらく授業づくり』


 新年を迎え、第1回目の今回は、探究学習・探究活動に関する次の2冊の比べ読みをしようと思って読み始めました。 

■「探究」を探究する~本気で取り組む高校の探究活動』田村 学・廣瀬志保(編著)[学事出版]★

■『PBL 学びの可能性をひらく授業づくり~日常生活の問題から確かな学力を育成する』L.トープ/S.セージ(著)[北大路書房] 

 本のタイトルと編者の名前に魅かれて1冊目を購入して読みましたが、小中学校の教員の立場から正直に言わせていただくと、あまりにも期待はずれで、比べ読みに耐え得る内容になっていないので、2冊目のPBLの方のみを紹介します。 

 『PBL 学びの可能性をひらく授業づくり』については、既に昨年1112日のPLC便りでも紹介されていますが、探究学習として教科の授業を大きく変える可能性をもつPBLProblem-Based Learning)の実践例と理論的基礎、カリキュラム設計、評価などについて、とてもわかりやすく書かれている本なので、再び取り上げました。 

 この本には、サブタイトル「日常生活の問題から確かな学力を育成する」にあるように、解決策(正解)が一つとは限らない日常生活の問題について、学習者がその問題の当事者(利害関係者)として、仲間と協同しながらその解決策を考えていくという探究学習・PBLについて、その理論と実践が体系的に具体的に書かれています。 

私が最も関心をもって読み進むことができたのは、やはり学校現場でのPBLの実践のための第4章~第7章でした。特に、第6章に書かれている内容は、『「学びの責任」は誰にあるのか~「責任の移行モデル」で授業が変わる』[新評論]の「協働学習」で紹介されている内容とも重なり、本物の探究学習であるPBLの素晴らしさと大きな可能性を感じることができました。 

PBLでの教師の役割(第6章:PBLの実践方法)
 文部科学省の「学習指導要領解説・総合的な学習の時間編」では、教師のかかわり方について、「学習指導の基本的な考え方」や「探究的な学習の指導のポイント」という形でいわゆる「指導上の留意点」が示されていますが、PBLでは学習者の「コーチ」としての教師の役割が、9つのプロセス★★ごとに具体的な行動目標と共に解説されています。それどころか、PBLでは、教師は学習者である子どもたちと一緒に探究のプロセスを歩み、子どもたちの学びを深める「責任」が求められているのです。 

 「コーチ」としての教師の役割について、PBLを実践している先生方の言葉が紹介されています(93ページ)。 

「(前略)私たちが学んだもう一つのことは、自分が説く者ではなく問いかける者としての役割を受け持ち、生徒を自分で考える立場に引き込むよい問いかけをするということです。(中略)生徒たちが自分で考えなければならないような問いを投げかけると、直接教えなくても、学ばせたい内容を生徒たちから引き出すことができました。つまり、生徒たちは自分たちで学習内容を見つけ出すことができるのです。」<フリードリッチ先生・高校> 

 「学習内容を決めているのは教師だ、と私は思います。このことは、学習者がうまく学べなかったとしたらそれは学習者の責任だ、という的はずれなことを意味しているのではありません。そうではなくて、学習内容とは、学習者が問題を展開させる先にある、学ぶべき大切な現実的な調和のことなのです。だから、私はコーチとして、学習者がそれを自分から見つけ出してくれるように、十分に問いかけるのです。」<トンプソン先生・高校>

  PBLにおける「主体的なコーチとしての教師」と「主体的な学習者としての生徒」のそれぞれの役割が、図6.2 学習者の意味構築を促すコーチング として示されています(98ページ)。 


 PBLは、次期学習指導要領が育成を目指すコンピテンシー・ベースの学力を大きく育むことができるものです。『PBL 学びの可能性をひらく授業づくり』は、指導と評価の一体化を含め、総合的な学習の時間だけでなく教科の授業を、本気で子ども主体の「学び」に改革・改善しようと思っている人にとって役に立つ、探究学習の選りすぐりの1冊です。ぜひ多くの先生方に読んでいただきたいと思います。


★  この本は、月刊の教育誌に約5年間連載した高校の探究学習・探究活動の実践からよさそうなものを選んで掲載してある実践事例集でした。その前後に探究に対する考え方と編著者の対談を載せた安易なつくりで、期待していただけに、正直、がっかりしました。 

★★  PBLの学習プロセス(探究のプロセス)は、およそ以下のとおりです。PBLにおける学習活動は、厳密なものでも決まりきったものでもありませんし、それらの配置の順序も決まっているわけではありません。学習者は探究を深める中で、PBLのプロセスのうち、特に「問題記述の明確化」と「情報収集・共有」を何度も行うことになります(4748ページ)。
(1)PBLに取り組む心の準備をする。
(2)問題に出合う。
(3)知っていること、知るべきこと、思いついたことを書き出す。
(4)問題記述を明確化する。
(5)情報を収集し、共有する。
(6)実施可能な解決策をつくり出す。
(7)最適な解決策を選び出す。
(8)解決策を発表する。
(9)全体を振り返る。

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