2017年10月1日日曜日

教師の本務とは何か?~部活指導から考えたこと~

 昨年度から勤務している小学校では、月曜日から金曜日まで部活動の朝練習と放課後の活動が行われています。さすがに小学校ですから、コンクールや大会を除いて土曜日や日曜日の活動はありませんが、ほぼ毎日活動しています。放課後は、4月から9月の間は16:30頃まで活動しています。顧問の先生たちは、退勤時刻(16:40)が過ぎてから、授業の準備やテストの採点などを行うのです。当然、学校を出るのは19:00を過ぎます。 

この状況には、正直、びっくりしました。私から見れば、先生方にとってまったくと言ってよいほど、「ゆとり」がありません。 

以前勤務していた別の市の小学校では、月曜日など休みの翌日の朝の部活動はありませんでした。先生方も子どもたちも、ゆとりをもって1週間のスタートをきるためです。もちろん、月曜日の放課後の練習もありません。さらに、木曜日の放課後の活動も15:45までで終了でした。それぞれ、先生たちの研修や学年会、職員会議、教材研究・授業の準備などに充てていました。 

現任校の先生たちにとっては、おそらく今の学校の状況が「当たり前」の状況なのでしょう。あるいは、以前からこのような状況の中で勤務してきた人にとっては、なんの違和感も疑問も感じないのかもしれません。 

学校で気をつけなくてはいけないことの一つは、この「前からやっているから」という前例主義です。これにとらわれていると、目の前の問題点に気がつかない、いわゆる思考停止に陥りやすくなります。もちろん、これは部活動だけに限ったことではありませんが。 

 小学校でも加熱気味になっている部活動ですが、中学校になると、これが子どもたちの学校生活と彼らの意識においてもっと大きな比重をしめてきます。朝練習からはじまり、放課後の練習、休みの土曜日や日曜日の練習・練習試合と、部活動に費やす時間とエネルギーはものすごく大きなものになっています。 

文科省の調査によれば、ある県では、1週間の運動部の活動時間(男女平均)が、なんと1,121分、19時間近くにもなっているのです。★ 50分授業に換算すると、1週間で約23コマ分もの授業になります。5時間授業をおよそ5日間行うことに相当します。授業の時間と部活動の時間がほぼ同じなのです。これは本当に驚きです!! 

 中学校の教師の間では、「部活動は、生徒指導の機能や役割を果たしている」とよく言います。授業や学級とは違って、部活動は生徒自身が選択して行っているものです。レギュラーとして試合に出場するといった「個人の目標」を設定し、その実現のために、生徒が自分なりに工夫・努力もできます。また、部の仲間と力を合わせてその実現を目指す「集団の目標」、例えば市内大会優勝や県大会出場など、も明確です。この集団の目標の実現に向かって、創意工夫したり、励まし合ったりしながら集団としての凝集性や協調性、連帯感も高まります。さらに、学級・学年を越えた人間関係の広がりもあります。体力や技術の向上だけでなく、我慢強さ・やり抜く力も身につきます。教科書をカバーするだけの退屈な授業に比べれば、部活動は魅力的なところがたくさんあります。 

 しかし、部活動に参加している子どもたち全員が、膨大な時間を部活動の練習などに費やすことを心の底から望んでいるのでしょうか。部活動が、子どもたち自身による本当の意味で主体的な活動になっているかどうかが最も重要な問題だと考えています。顧問教師と先輩や部全体からの同調圧力によって、仕方なく活動しているのでは、せっかくの活動も意味がありません。 

 これまでも何回かPLC便りで取り上げられていますが、子どもたちが主体的に生き生きと目を輝かせて、運動や芸術に取り組むようになるための魅力的な指導のあり方が、NHKの番組「奇跡のレッスン」で紹介されています。どれも子どもたち一人一人の主体性や意欲を育てることを大切にしています。部活動の顧問をしている先生方には、ぜひ見て部活指導に生かしてほしいと思います。

 部活動には、様々な教育的な意義や効果があります。しかし、最近、多くの中学校で見られる毎日の朝練習や1カ月の間に休みがほとんどないような過度な練習が、本当に必要なのでしょうか。★★ これは部活動を指導する顧問教師から見れば、「長時間労働」という大きな社会問題にもなっています。部活動に対する保護者のニーズも様々で、休養日を求める保護者もいれば、反対に休みの日にも活動を要求する保護者もいて、さらに問題を複雑にしています。しかし、少なくとも公立の小中学校は、決してアスリート養成機関ではありません。

 特に義務教育段階で大切なことは、社会で人に対する敬意をもって他者と協同しながら生きていくための「知、徳、体のバランスのとれた経験と学び」です。やはり「教師の本務」は、教育課程内の学習指導・授業と学級経営・生徒指導です。第一優先でこの部分に最も多くのエネルギーと時間を費やすのが学校教育の本筋です。このことを忘れて、貴重なエネルギーと時間を第一優先で部活動に注いでいては、学校教育として本末転倒です。★★★ 

 部活指導にやりがいと生きがいを感じている先生たちが「教師の本務」に目覚め、それに力を注ぐようになるためには、次の2つのことが重要です。

1 教師自身が、学ぶことの楽しさ、醍醐味、喜びを味わう機会をもつ。

2 学校の授業を、教師が教えることから子どもたちが学ぶことへ転換する。

1を実現するには、このブログで何度も取り上げられている「教員研修」の改革・改善が必要です。2については、子どもたちが主体的な学び手になるための具体的な手立てが示されている本:ダグラス・フィッシャー&ナンシー・フレイ著Better Learning Through Structured Teaching(2nd Edition日本語タイトルは『「学び」の責任はにあるのか?(仮題)を吉田さんが翻訳しています。出版が待ち遠しい限りです。

★  部活動の1週間の平均活動時間を1カ月に換算すると、19時間×4週間余り80時間になります。さらに、部活指導の後に授業の準備や事務処理等を1日あたり1時間だけ行うとすると、教師やサラリーマンの時間外労働の「過労死ライン」である100時間を超えてしまうのです。

★★  2016年に行われたスポーツ庁の調査では、土日に休養日を1日も設けていない中学校が、全国で約26%もあることがわかっています。今までも、部活動の顧問の負担は問題となっていて、文科省は1997年に「中学の運動部は週2日以上、高校は週1日以上の休養日を設定する」との指針を策定していますが、まったく現場には浸透していません。また、大阪市にある高校で起きた体罰事件を受けて、2013年には文科省が「運動部活動での指導のガイドライン」を作成しました。さらに、2017年の1月には、教員の長時間労働を減らすため、運動部の部活動で「休養日」を設けるよう求める通知を全国の教育委員会に出しています。しかし、学校現場はほとんど何も変わっていないのが実態です。思考停止状態が続いています。 

★★★  長野県では、2014年から部活動の朝練習を原則禁止にしました。また、9月に静岡市では、中学校の部活動について、1週間の中で休みの日を日間(うち1日は土曜日か日曜日)設けるようにとのガイドラインを作成し、市民からの意見募集(パブリックコメント)をしています。部活動における教師や子どもたちの負担を軽減するという意味では、画期的なものだと思います。しかし、文科省や教育委員会からのトップダウンだけで、学校現場の先生方の意識が変わり、「教師の本務」に主体的に意欲的にエネルギーを注ぎ始め、授業を子どもたちにとって魅力的なものに改善できるのでしょうか??

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