私に教育の世界に入るきっかけをつくってくれた本があります。『ワールド・スタディーズ』(国際理解教育センター翻訳・発行、直販)というタイトルのイギリスで開発された本です。
この本の中には、たくさんいいことが書いてあるのですが、中でも「教えることは、問いかけること」が秀でています。
それを読むまでの私は、ご多分のもれず、研修等では9割方自分が話すような進め方だったのですが、86年に読んだ後は、確実に5割以下、研修時間が長くなれば2割以下に減りました。
あとでわかったことですが、イギリスでワールド・スタディーズの開発に携わった人たちがもっとも影響を受けた一人がカウンセリングで有名なカール・ロジャーズ(本のタイトルは、初版が1963年に出たFreedom to Learn)です。日本でも、この本は訳されています。最新は、カール・ロジャーズが亡くなった後に彼の信奉者が編集した第3版で、日本では2006年に『学習する自由』のタイトルで出ています。
これら2冊の本は、学ぶことはどういうことか(それは、必然的に教えるということはどういうことか)を考えさせてくれるので、教師には必読書と言ってもいいと思います。
「問いかけ」と、日本でよく使われる「発問」には、大きな違いがあると思います。
問いかけは、正解のない質問、教師や管理職が相手の考えていることを本気で知りたくて発する質問なのに対して、発問の方は答えがあるニュアンスが濃厚な気がします。あるいは、教師・管理職のシナリオがすでにあって、それを推し進めるのを助ける質問です。
日本の教師も管理職も、求められているのは「問いかけ」能力です。
「発問」ではありません。
質問の仕方が、答えを決めるというか、思考を左右しますから、問いかけ方は極めて重要です。授業の本質的な改善に向けての問いかけ、学校の課題を解決・改善したい時に発する問いかけなど。発する側がすでに答えをもっていると思わせるような問いかけではなく、真に聞かれた側の考えを知りたいと思ってもらえる質問です。「一緒に考えてほしいんだ」という気持ちが伝わる問いかけです。
質問はまた、相手を「主役」というか、「主体」にする方法でもあります。質問する側がすでに答えをもっているような質問やアドバイスを言ってしまっては、相手を受け身にさせるだけですが、答えのない質問は、主体的に考えて、主体的に行動するきっかけになります。
あなたは、そんな質問を日ごろどれだけ発していますか?
私は、教育の質、社会の質は、問いかけの質で決まると思っているぐらいです。
問題を解決する際も、質問が鍵を握っていることが、「問題解決のサイクル」の図からよくわかります。
問題から直接解決に行ってしまっては、思いもしない副作用を作り出してしまいかねません。鍵は、質問をすることによって、問題をよりよく理解すると同時に、多様な可能性を考慮することです。それらの中からベストを選び出して解決にあたると、必ず新しい課題や問題も見えてきます。延々とは言いませんが、問題解決/改善のサイクルは続くわけです。
直線的に考える方がおかしいのですが、「原子力発電は安全だ!」のように、私たちは直線思考に陥りがちです。似たような思考が教育の世界でも、かなり幅を利かせているのではないでしょうか? 教科、教科書、時間割、単元、指導案、評価、部活動、教員研修、組織体制、家庭との関係など、授業と学校を構成するものすべてがリストアップされてしまうぐらいです。
★関連情報 → ライティング・ワークショップでのカンファランス
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