2024(R6)年8月27日、文部科学省は「「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」という答申を公表しました。★1 教師の働き方改革はここ数年大きな話題となってきましたが、その更なる加速化。教員志願者の急激な減少が引き金となった教師の処遇改善、主に教職調整額の割合の引き上げ。さらには、学校の指導・運営体制の充実など。教師を取り巻く環境整備を、一体的・総合的な推進しようとする政策のパッケージです。
その答申文書の結びには、次のように述べられています:
「我が国の学校教育は、世界トップレベルの学力の育成や、知・徳・体にわたる全人的な教育の提供など国際的にも高く評価されている。このような結果の背景には、自己研鑽や学び合いによる教師のたゆまぬ努力と国際的にも長時間の勤務実態がある。強い使命感や責任感の下で、時に自らを顧みることなく、子供たちのために尽力している教師には、まずもって謝意を伝え、心から敬意を表したい。しかし、その中で教師が疲弊していくのであれば、それは結果として子供のためにはならない。そのような働き方が、教師の心の余裕を失わせ、意図と反して、教育の質を低下させてしまうことがあるとすれば、これほど悲しいことはない。」
この問題意識は、多くの方が共有できるものだと思います。私も賛同します。同時に、相当の危機感も読み取れます。
一連の政策パッケージの中で、目を引いたは「新たな職」の創設という部分でした。
答申の「(4)組織的・機動的なマネジメント体制の構築」の中に「新たな職の設置」という記述があります(p.41):
「現在は、こうした職務を主として教諭という同一の職が校務分掌の1つとして担っているが、若手教師へのサポートの充実を体制面でも支える新たな仕組みの構築も含め、ベテラン・中堅・若手層の教師が専門性を発揮し、効果的に校務を役割分担しながら、知識や経験の共有や継承を行う体制を早急に整備することが必要である。このため、学校の組織的・機動的なマネジメント体制の構築に向けて、若手教師へのサポート機能を抜本的に強化するとともに、子供の抱える課題への対応や学校横断的な取組への対応について、学校内外との連携・調整機能を充実させるため「新たな職」を創設し、中堅層の教師をこの新たな職として学校に配置することができるような仕組みを構築することが必要である。」
しかも、
「なお、こうした職務については、教務主任や学年主任、生徒指導主事等のいわゆる省令主任として位置付けることも考えられるが、各学校において組織的に対応が必要な事柄については、地域や学校の状況により異なるとともに、その時々の状況により変動するため、個別に国が一律に法令上の位置づけを与えるよりも、「新たな職」となる教師に対する校長等の職務命令により地域や学校において柔軟に対応できる仕組みとすることが適当である。また、具体的には第5章において詳述するが、「新たな職」が制度上位置付けられ、配置される場合には、その職務と責任に見合った適切な処遇を図るため、都道府県等において、給料表上、教諭とは異なる新たな級を創設することが必要である。」
各地域や学校が、その状況に応じた、新たな職を考案、創設し、しかも、その処遇についても、相応の仕組みを準備せよと書かれているのです。
これまで、学校における中間管理職的な職が、いたずらに増えてきたように感じていましたが、学校が真に必要とする「新たな職」を、学校が独自に研究し、創設するのであれば、大いに期待できるのではないかと思います。
まさに、このあたりに、私が「PLC便り」で繰り返し主張してきた、インストラクショナル・コーチング導入の糸口(というかチャンス)があるのかもしれません。
『インストラクショナル・コーチング』の筆者ジム・ナイト氏は、その終章「結論:コーチングと豊かな人生」に次のように記しています:★2
「豊かな人生とは、学びのある人生です。そして、学びこそがコーチングの中心にあるものです。私にとっての座右の銘とも言えるピーター・センゲの言葉を紹介しておきましょう。「学習を通じて、私たちは自分自身を再形成する。学習を通じて、以前は決してできなかったことができるようになる。学習を通じて、私たちは、自分の中にある創造する能力や人生の生成プロセスの一部になる能力を伸ばす。私たち一人ひとりの中に、この種の学習に対する深い渇望があるのだ。」コーチは、教室をよりよい学びの場にするために、教師と協力し、この「深い渇望」に働きかけるのです。そして、パートナーシップにより、教師がよりよい学習者に成長することをコーチが後押しするのです。この過程において、コーチ自身も、人や生徒、教え方、コミュニケーションなどについて学び続けるのです。」
先の答申の副題は、「全ての子供たちへのよりよい教育の実現を目指した、学びの専門職としての「働きやすさ」と「働きがい」の両立に向けて」でした。このことの実現に、もっともふさわしい「新しい職」は、このあたりにあるような気がするのです。
今、我々は、教師を取り巻く環境整備の大きなターニング・ポイントにあると言えます。このタイミングで、教師の成長を助け、教師の「働きやすさ」と「働きがい」をサポートしつつ、自らも学び、成長し続ける、そのような「新しい職」を、日本の学校は必要としているのではないでしょうか。
★1「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する
総合的な方策について~全ての子供たちへのよりよい教育の実現を目指した、
学びの専門職としての「働きやすさ」と「働きがい」の両立に向けて~(答申)
(令和6年8月27日)中央教育審議会
★2『インストラクショナル・コーチング』(ジム・ナイト著、図書文化、2024)まもなく発刊予定。
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