2024年9月8日日曜日

ネガティブな感情と向き合い、考え続ける力を引き出す 

これまでの学校教育における算数・数学は、本物の数学的思考を育むには十分ではありませんでした。その一因は、算数・数学の学習内容を単に習得することに重点が置かれていたためです。

短時間で手順を覚え、教科書通りに考え、それを他の問題にできるだけ早く適用する。こうした教科書の内容を網羅することを重視する教育では、子どもたちが自ら質問を作り出したり、数学的解決に向けて挑戦したりする機会が十分に与えられていません。さらに、解法の応用や他の問題への活用を深く振り返る時間も確保されていないのが現状です。

果たして、あの膨大な知識量は本当に必要なのでしょうか。むしろ、教える内容を減らし、じっくりと数学的に考える時間と環境を提供することが求められます。理想的には、定期試験や受験問題も、ていねいに数学的思考を問う問題へと変わっていくべきでしょう。

これまで、算数や数学は筋道立てて論理的に考えることを中心に語られてきました。しかし、問題を解く過程では、自分の感情や信念と向き合うことが欠かせません。数学的思考を身につけるためには、この感情に気づき、それを起点にして解決方法を見つけ出すことが重要です。そうすることで、より深い数学的思考を育むことができるのです。このことについて、『教科書では学べない数学的思考』の9章には、多くの示唆を与えてくれるものとなっていますので、ぜひ再読してみてください!




 

問題に行き詰まったときに感じる「わからない」「もうダメかもしれない」といった不安や諦めの感情は、実は思考を深める上で重要な要素なのです。しかし、これらの感情が強すぎると、問題への興味を失い、思考が止まってしまいます。そして問題解決では、あまりこの感情との向き合い方について語られてこなかったのではないでしょうか。このネガティブな感情と向き合い、考え続けるためには、これまでの考えと新たに浮かんだ予想との「ギャップ」を活かすことが重要です。このギャップを埋めようともがくことで、思考が持続するからです。そのためには、問題の「わかっていること(条件文:例えば、何人でわけられますか?)」と「求めること(求答文:例えば、3人で同じ数ずつ分けます)」を再確認することが効果的なのです。これによって、新しい予想や疑問が生まれ、「これはどういうことだろう」「確かめてみよう」と予想がふっと立ち上がり、思考が続いていきます。これが行き詰まった現状と予想から生まれたギャップを埋めるためには必要なのです。そして、このプロセスを実現するには、じっくりと考えるための十分な時間が必要です。より多くの学習内容を身に付けようとする学び方とは相容れません。

 

ここで私たち教師ができるサポートは、子どもが自分で導き出した結論を尊重し、教師がその問題解決のプロセスとそこでの感情を支えることは非常に重要です。湯傷待ったときに思考のギャップを乗り越えるには、心理的な安心感と「やってみたい」「もしかしたら?」という挑戦する気持ち、自信が欠かせません。子どもの思考や興味に敏感になり、その挑戦を励ますことはその場にいる教師にしかできないことなのです。

 

問題解決し、感情に対処できる優れた数学的思考者を育てるためには、「質問すること」「チャレンジすること」「ふりかえること」の3つが重要です。

 

1. 質問すること

 数学的探究において、質問する力を身につけることは非常に大切です。疑問を持つことで、知識や情報に頼らず、自分で思考を深める鍵となります。質問を通じて、予想を立てたり、疑ってみたりする探究心が育まれ、数学的思考が鍛えられます。これは教室に一人しかいない教師に対してする質問よりも、自分自身、もしくは友だち同士で質問し合うことのほうがより効果的です。自問自答することは思考の習慣です。

 

2. チャレンジすること

 予想を立て、それを検証し、修正する過程で数学的思考が発展します。正解を求めるだけでなく、予想を立てて挑戦できる環境を整えることが、子どもたちの成長に繋がります。「やってみよう」と思えるような環境には、ギャップを埋めるために条件文や求答文に立ち返ること、そして考え合える学習環境は欠かせません。

 

3. 振り返ること

 自己批判や異なるアプローチを求める姿勢が大切です。自分の考えを振り返ることで、方向性を修正し、他者との合意を求める力が養われます。「数値や式が正確か」「他の方法はないか」「どこで予想がひらめいたのか」「似たような問題はないか」「他の問題でも同じことがいえるのか」など、常に自分の頭をモニターすることとなります。

 

授業では、正解を求めることよりも、これらの3つの要素を育む文化を作ることが重要です。こうした文化が自然に数学的思考を育てるのです。こういった授業を続けていくと、どんなに美しい解法を見つけたり、どんなに難しい問題を解決したりしても、単に答えを得るだけでは満足できないことがあります。数学的思考の目的は、ただ数学的に考えること自体にあるわけではありません。むしろ、数学的に考える問題解決のプロセスを理解し、それを身につけることで、より広い分野の問題にも応用し、世界の理解を深めるための自己認識(豊かな気づき)を成長させることにあることでしょう。数学的思考は、このように算数・数学を通じて「気づき」を育てる上で非常に効果的な学問なのです。



 

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