2022年12月18日日曜日

『一斉授業をハックする』

ハック・シリーズ(教育・学校・授業の改良・修繕シリーズ)の11冊目、19日発売の『一斉授業をハックする ~ 学校と社会をつなぐ「学習センター」を教室につくる』(スター・サックシュタインとキャレン・ターウィリガー著、新評論)を紹介します。古賀洋一さん(島根県立大学)による「訳者まえがき」の一部です。

 目を閉じて想像してみてください。みなさんがこれまでに受けてきた授業、ドラマや映画で目にした授業とはどのような風景ですか? 多くの方がイメージしたのは、おそらく次のような風景でしょう。

縦横に規則正しく並べられた机に生徒が座り、前を向いています。そこには教師が立っています。何人かの生徒に発表させたり、解説や板書をしたりしながら授業を進めています。あなたは、ほかの生徒の発言や板書の内容を一生懸命ノートに写しています。

こうして見ると、あたかも授業が円滑に進められているかのようです。表面上は確かにそうでしょう。でも、あなたの周りはどうですか? 授業についていけない生徒や、興味をもてない様子で突っ伏してしまっている生徒、飽き足らないのか退屈そうにしている生徒、クラスメイトとのおしゃべりや手紙回し(現在では、隠れてスマホでメッセージの交換)に夢中になっている生徒はいませんか?

 こうした一斉指導(一つの目標に向けて一つの教材を用い、一つの活動計画に沿って進められる授業)には、いくつかの無視できない大きな問題があります。

 まず、「何のために」、「何を」、「どれくらいの時間で」扱うのかについては、教師ないしは教科書がすべてを決めてしまっています。そのため、それぞれの生徒が興味関心やレベル、学ぶスピードや学び方にあった教材や活動を「選択」することができません。

 次に、一斉指導では教師主導となってしまうため、生徒自身が目標や計画を立てることがありません。自らが立てた目標や計画ではないため、やり抜く力(グリット)や困難に対して粘り強く取り組む根気、リーダーシップなどを発揮し、協働して支えあうことがありません。★

 そもそも、受けたくもない授業において、このような能力が発揮されることはないでしょう。となると、一斉指導の問題は想像以上に大きいと言えそうです。生徒一人ひとりに適した教育を提供できないばかりか、生徒が実社会を生きぬくために必要となる力を育てきれないのです。

 本書『一斉指導をハックする (原題:Hacking Learning Centers in Grade 6-12)(仮題)』の著者であるスター・サックシュタインとキャレン・ターウィリガーは、一斉指導の問題点を端的に指摘しています。

教師が管理している教室では一部の生徒だけが授業に参加することになるでしょうが、結局のところ、彼らは何があってもうまくやれる生徒である可能性が高いのです。彼らがうまくやれるのは、あなたの手柄ではありません。では、そのような生徒だけではなく、すべての生徒に手を差し伸べるために、私たちは何を、どのように変えられるでしょうか。(13~14ページ)

 生徒一人ひとりをいかした授業★★を実現するために本書で紹介されているのが、「学習センター」という教え方です。簡単に言えば、「教師の継続的な指示を必要とせずに、生徒が自立的に学べる教材を用意したコーナーを教室内に複数設置した学び方・教え方」★★★です。

訳者の一人(吉田)は、二〇〇〇年頃にオーストラリアの小学校を訪れた際、六年生の授業で学習センターが使われていたことを確認しています。一時間の授業のなかに、読む、書く、算数、理科、コンピューターを学ぶコーナーが設けられており、並行する形で活動が進められていました。それぞれのコーナーで生徒は熱心に取り組み、教師は各コーナーを回りながら、個別ないし各コーナーのメンバーにカンファランス(35ページの注を参照)を行っていました。

このように、学習センターは英語圏やモンテッソーリ教育においてかなりの歴史がある教え方なのです。ただし、本書を読めば分かるように、こうした教え方は幼稚園や小学校低学年が中心となっており、中学校から大学へと上昇するにつれて一斉指導が支配的になっていくという傾向があります。一斉指導からの脱却は、日本のみならず、世界共通の課題だといえるでしょう。とはいえ、本書が出版されているという事実からも、一斉指導からの脱却が日本よりも早く、本格的に進められていることが分かります。

 

 本書は、「まえがき」と「結論」を含む10章から構成されています。

 「ハック1」から「ハック3」では、学習センターのはじめ方や、生徒の「声」を活かした発展方法が扱われています。いってみれば、学習センターの基本をつかむための章です。「ハック4」から「ハック8」では、内向的な生徒がリーダーシップを発揮したり、生徒の自己評価能力を高めたり、実社会と結びついたプロジェクト学習へと発展させるための方法が具体的に述べられています。学習センターがもつ大きな可能性を示してくれる章です。

 訳者として注目していただきたいのは次の点です。

 まず、センターの使い方にはさまざまなヴァリエーションがあるという事実です。コーナーごとに独立した目標と活動が並行し、それらをローテーションしながら複数の指導事項を達成していくパターンや、あるプロジェクトがいくつかの部分に分解されてコーナーに割り当てられ、それらをローテーションしながら最終的な目標が達成されていくパターン、身につけさせたい読み方が全体の目標としてあり、コーナーごとに異なる難易度やテーマの本が用意されるといったパターンなどです。

これらは、一般に「教科の壁が高い」と言われている中学校以上でも取り入れやすいものとなっています。

 次に、学習センターは、「生徒主体」ではあっても決して「生徒任せ」ではないという点です。国や州が定める到達目標(スタンダード)を達成することは、世の東西を問わず、シビアに求められています。特徴的なのは、それらの到達目標が生徒と積極的に共有されている点です。求められる到達目標を生徒自身が理解し、そのうえで興味関心や学び方に応じた学習を進めていこう、というのが学習センターの考え方なのです。

 このように説明すると、読者のなかには、いわゆる習熟度別クラス編成や、AIによって個別最適化された学習を思い浮かべる人がいるかもしれません。しかし、それらと学習センターは似て非なるものです。本書で提案されている学習センターでは、国や州の定める到達目標の達成だけではなく、目標や計画を立案・修正する力やリーダーシップを一人ひとりの生徒に育むことが大変重視されています。とくに前者については、繰り返し強調されています。

生徒がコーナーで自分のアイディアを試してみたいと言ってきたときに「ダメだ」と言うのではなく、「ぜひ、そうしよう!」と言ってみましょう。生徒がいつ、何を、どのように学ぶのかについて、自分のアイディアを駆使することを許すのです。たとえ、彼らの提案はうまくいかないだろうと分かっていたとしても、リスクを負わせるのです。

変化を求めるのであれば、失敗も必要です。生徒は失敗を経験したときに、別の方法を探す必然性にかられるのです。失敗することが授業のなかで奨励されていれば、生徒はそれを目標達成のための必要なステップとみなし、それをバネにして成長していきます。(18~19ページ)

もっとも重要なのは、生徒が挑戦し、失敗し、それの修正機会があるということです。(217ページ)

学習センターは、定められた内容を効率的に消化させるためだけのものではありません。自立した存在として実社会を生きぬいていく力を育てるためのものです。それゆえ、授業の活動や計画は生徒と一緒につくりあげていきます。もし、それがうまくいかなかったときは、安易に教師が修正を加えるのではなく、生徒自身が振り返りを行い、現状を分析し、次にいかしていくことが大切にされています。こうした活動を通して、「失敗は学びへの道である」(19ページ)と生徒に伝えているのです。

このように考えてくると、中学校以上を対象として、学習センターの考え方や具体的な方法、可能性の大きさを解説した本書は、まさに「教育の未来を切り拓く」一冊だと言えます。また、本書では難解な用語や理論がほとんど述べられていません。読者自身の教室風景や担当の生徒、授業への取り入れ方をイメージできるように、数々のエピソードや写真、生徒の様子、そして明日からでも取り組める方法が豊富に示されています。

   (中略)

 本書の内容が、読者一人ひとりを「挑戦に誘い、そっと寄り添い、アイディアとひらめき」を与えてくれる(8ページ)ことを心から願っています。

 

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グリットや好奇心、マインドセットなどは「非認知能力」とも総称され、私たちが健康かつ幸福に生きていくうえにおいて欠かせない能力として大きな注目を集めています。訳者がおすすめするのは、『感情と社会性を育む学び(SEL)』、『成績だけが評価じゃない』、『学びは、すべてSEL(仮題・近刊)』、『エンゲージ・ティーチング(仮題・近刊)』です。次の段落には、『学びの中心はやっぱり生徒だ!―個別化された学びと「思考の習慣」(仮題・近刊)が最適の本です。これらのテーマで情報を集めたい方は、pro.workshop@gmail.comにお問い合わせください。

★★「生徒一人ひとりをいかす教え方」については、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』で詳しく紹介されています。そのなかでは多様な理論と方法が紹介されていますが、一番ページが割かれている方法は、センターとコーナーについてです。

★★★学習センターの実際の教室風景は、本書61~70ページの写真およびhttp://sites.stenhouse.com/findout/chapter-5/ や https://www.youtube.com/watch?v=Kg38A1ggYiEでその様子が視聴できます。

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