2022年2月20日日曜日

『社会科ワークショップ』を読んで、実践に挑戦

 『社会科ワークショップ』のメインのライターの横浜の冨田明広さんが、その本のオンライン・ブッククラブで出会った大阪の永井健太さんにお願いして、書いてもらった単なる本の感想ではなく、実際に本を実践に移してしまった記録を紹介します。(その記録に添付された冨田さんの下線部分へのコメントも追加で一番下に紹介します!)永井さんは、1986年生まれで、教師歴13年の公立校の先生。「コロナ禍の休校期間中に学びを自走させられない子どもたちの姿を目の当たりにし、自分の授業を見直し始める。そこから『自立した学び手』を育てることについて学びながら、日々実践している」とのことです。

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同じ本を3回読んだ目的


 2021年の夏に『社会科ワークショップ』が発刊されてからこれまでに3回読みました。読むたびに自分のマインドセット(考え方)が変わっていくことを実感すると共に、ワークショップ初心者の僕にも分かりやすく、丁寧な本だなと感じました。

 1回目は「ワークショップで学ぶ」シリーズの社会科版が出たということで、興味津々で読み進めました。2回目は社会科ワークショップを教室で形にするために、実践に必要なことを集めるという目的で読みました。3回目は社会科ワークショップの実践を振り返ると共に、今後どのようにブラッシュアップしていけばよいかを模索するために読みました。それぞれに目的が違っていたので、読むたびに新しい発見がありましたし、この先読み返した時にはまた新しい気づきが生まれるのだろうと思います。



1回目は「憧れ」


 これまで一斉指導の形で授業を進めていた自分にとって、ワークショップで社会科の学習を進めるということが理解できず、初めは「これは社会科の学習といえるのか」「必要な知識を獲得することができるのか」と正直逃げ腰でした。しかし、本書に紹介されいてる子どもたちの様子★1 と自分の社会科授業を受ける子どもたちの様子を比べると、その違いは瞭然で、本書に登場するような学びを教室につくりたいと願っている自分もいました。おそらく「自分にできるのか?」「失敗したらどうしよう」という不安★2 から先程のような言い訳をつくってしまっていたのだと思います。

 そんな僕の不安を取り除くように、本書には新米教師からの視点で眺めたワークショップの様子(第1章)や本来のゴールから外れていく子どもに対する西田先生の戸惑い(第6章)などが描かれており、内容を飲み込んでいくうちに「思い切ってやってみよう」「できることからスタートしてみよう」と少しずつ前向きになっていきました。そして読み終えた時には、自分の授業を変えて「自立した学び手」を育てたいという強い思いをもつようになっていました。


2回目は「実践」を意識して


 実践すると覚悟を決めた時、社会科ワークショップを通して、探究することやその中で友達と協働することを楽しむ「自立した学び手」を育てたいという僕の思いは最高潮に達していました。ちょうどその頃は4年生「県内の伝統や文化」の学習に向けて、教材となる天神祭について調べていた時期で、子どもたちにとって身近だけれどあまり知らない天神祭について探究するのはおもしろそうだとワクワク感も高まっていきました。

 実践を形にするためにもう一度本を手に取り、具体的な進め方に関する内容をピックアップしながら読んでいきました。その時に作成した箇条書きのメモを見返すと「①ユニットのゴール設定、②ユニットシートの作成、③探究サイクルの説明、④テーマの卵に関するロング・レッスン、⑤1時間のサイクルの説明、⑥カンファランス、⑦共有」とあります。本書には、どれに関しても説明と事例や実際の子どもたちとのやり取りが載せられているので、実践のイメージがしやすく、構想を練るのにとても参考になりました。わからないところは、何度も読み返しながら準備を進めていきました。


子どもの変化


 しかし、実際の授業は上手く進みませんでした。★3 初めのロング・レッスンの時は勢いがあった子どもたちも、時間を重ねるうちに進め方がわからず悩んだり、教室をただウロウロしたりする姿も見られるようになりました。また一斉指導であれば数十分で解決できそうな内容にとても時間がかかり、なかなか学習が前に進まない様子も見られました。これまでの自分の授業がいかに「与えるもの」になっていたのかを痛感しました。でも、その痛みは自分の実践をさらに前に進めようという刺激となり、「もっとよい学びをつくりたい」「自立した学び手に近づける支援がしたい」と思いを新たにしました。

 ワークショップを始めて数時間が経ったある日、嬉しいことがありました。これまで「社会が一番嫌い」と言っていた千穂(仮名)が、猛烈にメモをとっている様子に気がつきました。近くに寄って「今どんな感じ?」と尋ねると「今めちゃくちゃおもしろい。また次の時間も早く探究がしたい」と伝えてくれたのです。千穂は休み時間もずっと、自分で見つけた資料を読みながらメモをとっていました。後で聞いたところ「自分のハテナを自分で見つけた情報で解決できるのがスッキリするから気持ちいい」ということでした。一斉指導を続けていたらおそらく見られなかった姿だと感じると共に、ワークショップのパワーやそれを受けて変化する子どもの姿に驚きました。


その他の実際の授業の様子については、ブログに簡単にまとめております。https://nagaken.hatenablog.jp/entry/2022/01/23/152704をご覧ください。


3回目は「振り返り」


 生き生きと活動する子どもたちの姿に励まされながらユニットを締め括ることができましたが、色々と課題が浮き彫りになりました。これまでの自分の授業がいかに教師主導で誘導的なものであったのかを思い知りました★4 が、ここがスタート地点だと自分に言い聞かせ、自分の実践に何が足りないのかを知って次に活かすために、もう一度本を手に取りました。

 1回目、2回目に読んだ時よりも細かな描写に着目している自分がいました。例えば191ページの西田先生のミニ・レッスンではクラス全体へのメッセージでありながら、和明くんに推測することの大切さに気づいてほしいという思いが込められています。またその後のカンファランスでも和明くんに直接問いかけており、それが結果として探究を加速させることにつながっていました。ここには和明くんの見取りから、どのような支援が適切かを考え、実際の関わりへとつなげる細やかな対応があります。★5

 このように、さりげないけれどワークショップの中核になるような部分が「読める」ようになっていった感覚をもてたのが3回目でした。


大切な、教師自身の探究


 振り返りを通して自分に足りないものが見えてきました。大きくは二つあり、一つ目は「テーマを育てることへの支援が足りないこと」です。これまでの一斉指導でもハテナを大切にすることは伝えてきたのですが、「このハテナを解決したから次のハテナの解決へ」というようにハテナを次々に消費させてしまっていたことに気がつきました。今後は一つのハテナを追究する中で出会った事実から自分の考えをもつようにし、その考えから次のハテナへとつなげていくようにしていきたいと考えています。よく言われる「目に見えることから目に見えないことに迫る」という社会科学習のポイントを子どもたちとも共有していこうと思います。

 もう一つは「子どもたちの探究をおもしろがる」ということです。まだまだ自分は教え導くという意識が強く、結局カンファランスの内容も教える要素が強いということに気づきました。まずは子どもたちの関心に寄り添って一緒におもしろがっていこうと思います。教えることを手放すには覚悟と勇気が必要ですが、自分も一緒に探究をするという意識で取り組んでみます。★6

 「子どもたちの探究」を探究する。そんな教師でありたいと思わせてくれたこの本に心から感謝しています。これからも子どもたちと共にワークショップを楽しんでいこうと思います。


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 最後に、教えること、学ぶこと、学校という場所のことを考えるのに役立つ、永井さんがすすめる5冊をリストアップしてもらいました。こちらも参考にしてください。


  ①上田薫『人間の生きている授業』黎明書房


  ②平野朝久『はじめに子どもありき』東洋館出版社


  ③中村高康/松岡亮二『現場で使える教育社会学』日本標準


  ④マイクエンダーソン 吉田新一郎『教育のプロがすすめる 選択する学び』新評論


  ⑤西村佳哲『かかわり方のまなび方』筑摩書房

 

 

◆永井さんの実践記録に対する冨田さんのコメント


★1 私たちが書く上で大切にしたのが、子どもたちの元気な姿、楽しそうに学習を行う姿でした。くどくど理論的な小難しい話を重ねるよりも、先生たちを刺激するのは、子どもたちの姿以外にはないと思ったので。


★2 まさに、探究を始める前の子どもたちの心境だと思います。これを経験するからこそ、子どもに優しい声かけができるのだと思います。『改訂版・読書家の時間』に同じようなことを書いています。


★3 そうですよね。ここでやめてしまう人も多いと思います。「上手く進む」の考え方がちょっと違います。子どもがウンウンうなづいて先生の話を聞いてくれるとか、先生の出した課題に子どもがワシワシ取り組むとか、そういう感じが上手く進むではないですから。だから、より自分のやりたいことを選びやすい生活科の段階から、問いを発する力を子どもたちに譲り渡す必要があるように思っています。


★4 ワークショップも子どもへどの程度委ねていくか、枠組みで調整することができます。子どもたちが混乱しない程度に、少しずつ枠組みを広げていって、最終的には広い公園のようなところ(しかし、公園という境界はある!)で探究という活動をのびのびできるようにしてあげるといいですね。


★5 ここが、たくさんあるワークショップによる授業の最も大きな特徴かもしれません。見取りが大切とは言われますが、一斉指導ではそれを実際に行うことは至難です。でもワークショップならば、個々の子どもの見取りおよびそれを踏まえた支援や対応が容易になります。それこそが、多くの教師が求めている本来の教える姿ではないでしょうか。


★6 一単元で子どもの学ぶ力が格段にアップすることはないので、同じような枠組みで繰り返すことが大事です。永井先生の見方や感覚で社会科ワークショップをチューンナップして、新しい形を作っていってほしいです。



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