2021年11月7日日曜日

新刊『国語の未来は「本づくり」』

訳者のマーク・クリスチャンソンさんによる紹介文です(「訳者まえがき」より)。

 

皆様は小学校でどのような国語の授業を受けましたか?

1980年代、私は日米の公立の小学校で数年ずつ学びましたが、どちらの学校でも読むことと書くことは基本的に強制されてやるものでした。

国語は得意だったので「好き」ではありましたが、点数をとること以外、特に学校の読み書きに興味はありませんでした。

指定された教科書や本を読み、テストを受け、指定された題や形式の作文を書いて先生に成績をつけてもらう流れで読み書きを覚えました。

現在の日本の国語教育はどうでしょうか? 今でもその形式が多いと思います。

しかし、それで良いのでしょうか? そして今後はどうあるべきなのでしょうか?

 

と聞かれても「他に方法があるの?」と思う方もいるでしょう。

教師主導の教え方しか経験したことがないと、他の方法をイメージするのは困難です。

私もそうでした。

私は教員になって何年も自分が受けたような一方通行の教え方を(生徒への愛情をもって工夫しつつも)再生することしかできず、生徒全員に基本的に私が決めた同じことをやらせ、同じ基準で優劣の評価をつける授業だけを続けていました。

ただ成績が欲しくて合わせているだけの生徒、退屈そうにしている生徒、完全についていけない生徒がいる現実に違和感を感じつつ。

●「ワークショップの授業」との出会い

皆様はワークショップ(the workshop model)という教え方をご存知でしょうか? (1ページのコラムで概要を説明していますが、日本では「作家の時間」や「読者家の時間」と呼ばれている学習者主体の教え方です。)

私はこの教え方に出合い、自分の教育観が大きく動きました。

2009年、『イン・ザ・ミドル』の原書(当時は未邦訳、訳が出たのは2018年)を全国各地の仲間とオンラインで一緒に読み進めるブッククラブに参加したのですが、その学びの中で目から鱗がポロポロ落ち続けることとなりました。

最初は斬新すぎて理解できず、受け入れられない部分もありました。

「これ、無理でしょ!」という感じでした。

しかし、生徒に自由な選択と主導権を与えて意欲を引き出すことの価値は明らかで、是非自分でもやってみたいと思い、稚拙ながら実践することにしました。

2012年、私は国際基督教大学で教えていたのですが、You: A Course of Personal Writingという英語教育プログラム内の選択科目をつくりました。そして十数人の勇気ある大学生たちが登録してくれ、みんなで試行錯誤しながらワークショップによる作家活動を中心にした学びを行いました。

帰国子女から英語が苦手な生徒まで様々な英語力の生徒が教室に集い、助け合いながら自由に選んだ題材やジャンルの作品づくりに打ち込みました。一学期に三つ以上の作品をクラスのLMS上に「出版」する<このブログは、http://you-personal-writing.blogspot.com/で見られます。>、という基本的な目標以外は自由にさせ、創造力豊かなフィクション、ノン・フィクションの作品ができあがりました。

教員経験15年目にして、初めて学習者に主導権を与えることによって強い学びの意欲と主体性が発生することを体感できました。

●本書を訳そうと思った理由

現在私は小学校で世界市民の養成をしています。慶應義塾横浜初等部の開校時からEnglish for Global Communication(GC英語科)のカリキュラムのデザインをとても優秀な同僚たちと協力しながらさせていただいています。おそらく近い将来にAIがやってくれるようになる外国語としての「英語」よりもさらに大切な地球市民としての意識、課題発見・解決力、異文化理解、そして人間関係づくりと対話の力に重点をおいた授業をつくる方法を模索する毎日です。

専門は英語教育と異文化交流であり、日本の国語科は教えたことがありません。

そのため「国語の未来」を語る本を出すには百年早いと全国の国語の先生たちから怒られそうです。

しかし、日本と英語圏の「橋渡し」は私の教育者としての使命の一つであり、本づくりを通して行われるアメリカのワークショップの読み書き教育の紹介がこのようにできることをとてもうれしく思います。

そして事前に告白しておきます。自分の小学校の授業ではまだ「ワークショップ」を実践していません。(中略)しかし、この本にあるようなアメリカの低学年の「作家の時間」の本づくりを日本の小学生が英語でやる可能性は十分にあると考えています。一人一台のディバイスが配られ、教師に頼らずとも小学生が自分で表現したい英語の語彙や文法を自分で調べて学べる環境はほぼ整いつつあります。それが整えば英語の自由な「本づくり」は十分可能です。

そのようなことを考えている時、本書の原書のEngaging Literate Mindsという魅力的な本のブッククラブへの誘いがあり、その流れで和訳してみることになりました。

本書はアメリカの小学校の国語の教え方を紹介していますが、日本の「国語科の未来」にも「英語科の未来」にも大いに刺激になる内容が詰まっています。

読み書きをどのように教えると子どもたちが夢中になって学ぶのか? その答えを求めているすべての教育者のためにこの本を訳したいと私は思いました。

●この本の三つの魅力

   子どもたちの作品が素晴らしい!

最大の魅力は著者たちの教室にいた低学年(5才から8才)の子どもがつくった実際の物語や詩などの作品とその作品づくりのプロセスがとても分かりやすく紹介されている事です。自分がつくりたい本を自由につくることを許された子どもたちの素晴らしい創造力と思考と成長を知ることができます。

   主体性を引き出す方法が具体的

この本の著者たちは子どもの主体性を徹底的に重んじる教育を追求し実践しています。アクティブ・ラーニングを掲げる多くの教室では教師が用意してきた活動を行い、最終的に教員が設定した学びの着地点に子どもが時間内に到着するように導きます。

教師が前に立って板書している従来の知識偏重のチョーク・アンド・トークよりはアクティブですが、所謂「アクティブ」な活動において子どもの「主体性」は実際にどのぐらいあるのでしょうか? 

この本で紹介されているワークショップの授業では、5歳から子どもが自分で「作家」として、自分が選んだ題材の本をつくります。自分でテーマを決め、他の子どもや教師と相談しながら、自分の中から溢れ出るアイディアを絵と字を合わせて一つの作品にし、出版します。「やらされた読み書き」ではなく、主体的な読み書きをすることによる教育効果の高さをこの本は論じ、方法論を提示しています。主体性(agency)の定義を語るコラムも、21ページにあります。是非、この言葉は探究すると同時に実践してください。

   社会性(と感情)を育む方法が具体的

私たちは一体どのような社会をつくりたいのか、そしてそのためにはどのような市民を学校で育てるべきなのかという本質的な問いもこの本は追求します。

教室は人間社会の小宇宙です。助け合うこと、他の人を大切にすること、認め合う健全な人間関係を読み書きの授業を通してどのように築くことができるのか、という視点が各章に入っています。自由で民主的な社会の市民のあるべき姿をどのように学校を通して具現化できるのか語っています。特に最終章(「人はどうあるべきか?」について子どもと考える)はインパクトがあります。理想的な教育とはどのようなものであるべきなのか多いに考えさせられます。

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