2021年8月8日日曜日

テストよりも学びのための評価を

 先月末、福岡市の男性教諭がテスト28回分、昨年度の休校期間中の宿題を放置して処分しようとした際、不審に思った同僚により密告され!?ニュースとなりました。男性教諭は「子どもたちとの時間がほしかった」としていましたが、福岡市教育委員会は「残業も多くなく当然行うべき業務で、教育への信頼を損なった責任は重いとして」として、一ヶ月の停職処分となりました。この記事を読むとどのような文脈でこのようなことが起こったのか、様々な憶測がよぎります。私たちはこの問題をどう受け止めると良いのでしょうか? 

 

このコロナ禍の期間中の課題の量や単元末テストは教員にとって本当に負担のない妥当な残業量だったのでしょうか。これを働き方改革の一環として労働環境の問題として捉えることもできそうです。またはコロナ禍における教員のやるべきことが多すぎて全く手が回らない問題とも受け取れます。授業そのものの準備や研究への時間をどう保障されていたのでしょうか。若手教員の学級事務処理能力の問題として、職場内の教員育成・研修が機能していたのか気になるところでもあります。保護者より集金している業者テストだけに、最後まで全てやりきって返却できなかったことが問題だと管理職は言いそうです。もしそうだとしたら、テストさえ行い、返却さえしていれば、なんら問題がなかったのでしょうか。そしてこのことを行政処分だけで片付けて思考停止してしまっていいものなのか、一度立ち止まって考えてみる必要がありそうです。

 

この男性教諭は「子どもとの時間をとりたかった」と語っていますが、これは私たち教員ならばだれもがもつ同じ願いです。そして、この子どもとのどのような時間をとりたかったのかに焦点を当ててみると「本当はテストなんかでは、子どものことを分かることはできない」と思っていたのではないでしょうか。だからこそ、こっそりを秘密裏にダンボール箱にしまって、車で持ち帰って処分してしまおうと思ったのかもしれません。もちろん、ペーパーである程度の子どもの理解を図ることは可能です。しかしやはりそれは「ある程度」でしかありません。そして、単元末テストでは子どもが自分で学び直すには「もう時、すでに遅し」です。

 

本当に子どもを理解するには、評価についてあらためて捉え直していくことです。最近、読んだスージー・ボス/ジョン・ラーマー著・池田匡史/吉田新一郎訳『プロジェクト学習とは』新評論★★からの「第5章 生徒の学びを評価する」の一節は、決して単元末テストだけに頼ることのない具体的な実践例が豊富であり、私たちの教室の見取り、さらには教え方まで影響を与えてくれる分かりやすいものでした。

 



 

 

それではペーパーテストに変わる評価とは一体どのようなものがあるのでしょうか? 探究学習のPBL(プロジェクト学習)における評価場面は、なによりも「生徒の成長」にこそ向けられるものです。生徒をより高いレベルへ導くためのものであり、落ちこぼれというレッテルを貼るための順位づけをしたり、生徒を能力別に分類したりするためのものでは決してありません。

 

評価には学習を通して頻繁に行われる形成的評価の「学びのための評価」と学習の終わりに行われる総括的評価の「学んだことの評価」があります。単元末のペーパーテストはこの総括的評価ですが、その中の一例に過ぎません。そして効果的な評価方法を計画するために、①評価基準の透明性を保つこと、②形成的評価を強調すること、③個人とチームの評価のバランスをとること、複数の情報源からフィードバックを奨励することの4つが本書で紹介されています。これらの評価は決してプロジェクト学習だけのものではなく、様々な授業においての基礎となります。ぜひ、ご自分の授業に引き寄せて考えてみてください。

 

① 評価基準の透明性を保つこと

教師は学習の全体像を生徒に伝え、それに沿って学習を評価します。本書の例にあるニューバーン先生は、生徒たちに評価基準を既に理解できるよう、クラスのウェブサイトに明確に記載していました。先生はまた、学習の到達点となるような課題の内容や締め切りも事前に知らせていました。生徒たちは学習の最終段階で自分たちが理解したことを行動計画にまとめあげて提案することも分かっていました。このように生徒の評価に関する計画を事前に生徒と共有します。さらに、この評価基準(ルーブリック)を生徒と一緒に作成することで、素晴らしいクラス文化を創り上げていくことができます。自分たちで評価基準を設定することで、質の高い活動とはどういうものなのかを生徒自身が考え、理解することにもなるのです。

 

② 形成的評価を強調すること

既に知っている予備知識を調べ、学習のゴールとなる具体的な課題を与え、生徒の学習進捗状況を観察し、質問します。これはワークショップ授業の肝であるカンファランスを呼ばれるものです。形成的評価には他にも出口チケット(授業の終わりの本時の理解を問う小テストのようなもの)、生徒が自分の学習を振り返るジャーナル、生徒同士でお互いのノートや成果物へのアドバイス(上手くいっていること、困っていること、疑問に思っていることなど)を出し合えるギャラリーウォークなどを駆使します。教師にとっては、これらの情報が次に教えることを計画する貴重な情報源となります。

 

③ 個人とチームの評価のバランスをとること

アクティブラーニングと呼ばれる対話を通して、グループ学習をするには、チームでの協働が重要な役割を示します。チーム学習ではグループとしての全体の評価はできたとしても、一人ひとりの個別評価が難しいと思われがちです。それには個人としての課題とチームとしての課題とを明確に分けて求めることでバランス良く評価することができます。このチーム課題については、生徒がお互いの協働スキルを評価し合い、自分のチームがどの程度うまくいったのか、一緒に活動できたのかを生徒が振り返ることも行います。

 

④ 複数の情報源からフィードバックを奨励すること

これまでは教師からのみ評価することが一般的でしたが、生徒は様々な意見をもらうことで、効果的に学習することができます。自己評価に加え、仲間から、発表を聞いている聴衆から、学習について相談した専門家からなど教師以外のフィードバックを効果的に使います。仲間同士のフィードバック能力を育てるために、あるチームの話し合いや練習を他のチームが観察しアドバイスをするといった「フィッシュボウル(金魚鉢)」と呼ばれる方法もあります。また、学習の途中で相談した専門家からのフィードバックは教師のどんな言葉よりも重みのある言葉となり、生徒たちは学習改善への情熱を燃え上がらせます。

 

 

 

このような形成的な評価をもとにするならばテストを何十枚やるよりも子どもの学習を支援する一番の支えとなるはずです。「子どもとの時間がほしかった」という言葉は、子どもを一番に考えるのならば子どもの学習を見取るために使われるべきです。学習末の単元末テストで測れるものはその中のほんの小さな一部分でしかありません。生徒や教師にとっても負担感の多いテストの呪いから解き放たれるために、私たちには何ができるでしょうか。この夏、2学期の授業準備に形成的評価を取り入れてみませんか? あなたが思うほんとうの評価とは何ですか? 

 

テスト28回分未実施の男性教諭を停職1カ月に 福岡市教委処分(西日本新聞)


テスト行わず宿題も放置…小学校教師を停職1カ月(Yahoo!ニュース)

 

★★

スージー・ボス/ジョン・ラーマー著・池田匡史/吉田新一郎訳『プロジェクト学習とは』新評論


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