「話し合いは横並びで!」 お互いの呼気に気をつけるようグループ活動を行っていても、子どもたちはいつのまにか輪になってしまいます。休み時間や外遊び、放課後の様子を見ていればなおさらのこと。本来、人とはそういうものです。自然と身体距離を縮めながらつながりあって関わります。それがオンラインのリモート学習では無理なことだったことが痛いほどわかるこの一年間でした。頭を寄せ合ってその場の空気を共につくり、共有しながら過ごすことが本来の自然な子どもの姿。
今年度を振り返ってみて、どれだけ子どもたちとソーシャルディスタンスを気にせずに話し合えてこられたのでしょうか。輪になって親密に笑い合い、ゆずったり譲られたりしながら話し合うその機会がことごとく失ってしまったことは大きな反省です。
教室の子どもたちは、日々、トラブルの宝庫。意地悪を言われた。無視された。ルールを守らないでたたいてきたなど、対応に追われがち。しかし、それらは先生だけが率先して解決するものでは決してなく、トラブルは子どもたちにとっての成長のチャンスでもあります。この日々の問題を自分たちの手で解決し、お互い育ち合うコミュニティを築いていける強力なツールが「サークル」です。
海外の学校では日本だけに限らず、問題行動を起こした子どもは別の教室に移動させられることがあります。クラスのみんなと関係修復や自らの責任を持つ機会が遠のいてしまいます。それでは、問題行動は教室から出られる方法だと間違った学習をする子もでてくるかもしれません。大切なことは、クラス集団の中で起こったことをそのクラスの中で修復できるように話し合うことです。
サークルは輪になって集まること。クラス全員がお互いに見えるように輪になって座り、オープンで率直なコミュ二ケーションをします。このサークルは心理的にも身体的にも安全かつサポーティブな場です。ここでは誰もが教室での困りごとや失敗を種にして、取り扱いの難しい話題についても自由に話し合え、多様な考えや気持ちを受け止めながら、集団としての合意形成を図る場です。
このサークルの詳しいやり方をコミュニティづくり・集団づくりの視点から紹介した本は、ネイサン・メイナード、ブラッド・ワインスタイン著、高見佐知、中井悠加、吉田新一郎訳『生徒指導をハックする: 育ちあうコミュニティーをつくる「関係修復のアプローチ」』(新評論)です。
その中の「ハック2 サークルになりましょう 問題が起こったところですぐに対応する」に詳しく載っています。タイトルに生徒指導とありますが、問題行動解消のためにフォーカスしたものだけではなく、民主的な集団づくりに効果的な具体手法がまとめられています。
サークルのやり方(同書P.41より)
・ クラス全員が輪になって座ります。
・ 教師は経営者としてではなく、ファシリテーター及び生徒の発言の聞き手として輪の中に入ります。
・ 最初は、チェックインの質問から始めましょう。例えば「昨日、読んだもので面白かったものは何ですか?」などです。
・ もし、必要と感じれば、緊張状態を取り除くためにマインドフルネスの簡単なエクササイズ★を付け加えましょう。生徒たちの緊張を和らげ、意識を「今、ここ」に持ってきます。
・ 最初は毎朝少なくとも5分間のサークルから始めて、生徒が徐々に慣れてきたら時間を増やしていきましょう。
・ サークルで発言したくない場合は、常にパスをできることを伝えてください。関係修復のアプローチは、常に「尊重し合うこと」を基本にしていることを忘れないでください。
もしあなたがこれから初めてサークルに取り組むには、以下のステップ(本書P.48〜P.50)を使ってみてください。また、改めて始める人にとってもサークル実践の質を振り返るよい規準となるはずです。
① 安心安全なスペースを作る。
お互いの顔が見えるように内側を向いて輪になって座ります。このサークルでは何かを判断したり評価したりする場ではありません。生徒の思い込みや主観的な発言から自由になり、身体的な安全が守られ、安心できる場でもあります。もし守れない場合は、サークルに参加することができません。この約束はとても効果的です。
② 「期待」を根付かせる★★
話し手が何か手に持てる「話し手のしるし」を用意します。これがあることで、みんな同時に話すことが防げます。さらに、事実(出来事も感情も含まれる)だけを話すように徹底します。その際、「私は〜の時、〜ように感じます。なぜなら〜だからです」といったように、肯定的な「私メッセージ」の話型を使います。
③ コミュニケーションを促進する
素直な気持ちを明らかにしたり前向きな話し合いには、励まして一緒に参加するみんなに感謝を伝えていきます。肯定する事は積極的に取り組もうとする意欲につながります。
④ 共感を促進する
共感が大切であるという意識を育むために、生徒が共感を示したときは取り上げて認めます。自分の気持ちや相手の気持ちを認識することで感情リテラシーが向上し、サークルの中で共感の輪を広げるのに役立ちます。これは生徒が他の場で共感を使うときの練習にもなります。
⑤ サークルを終わりにする
サークルの最後には、何が話し合われたのかについて要約します。計画とステップが決まっていればそのことについても説明します。
サークルは子どもたちが協力し意見を出し合って、問題に向き合う機会が提供できるとてもパワフルなツールです。一日を前向きにスタートするためにも使いますし、問題解決に向けて前向きなコミュニケーションを図る力も高めることになります。
しかしサークルの成果はすぐに現れるものでもありませんし、決して労力のかからないものでもありません。実際に行ってみるとわかりますが、明らかに問題解決のサークルを行う回数が減っていきます。子どもたちがこのプロセスから学び、不必要な問題行動を起こさないようになるということです。
人と一緒に生活することでトラブルは絶えませんが、自分たちなりの規範をつくり、守り維持して、さらにはよりよいものへ変えていく、誰もが納得できるものに磨いていけることを知っています。そして、ルールとともに、話し合う技術、自分の主張だけでなく、相手の話をしっかりと分かろう聴き取ろうとする気持ちが育ってくることも知っています。
コロナ禍のこの一年間のうちの半分以上はサークルになることなく終わってしまいました。
年度末の学級じまいには、子どもたちが一人一言、語る場面があるかと思います。ぜひサークルでやってみませんか? 換気をしながらマスク越しではありますが、サークルでは、話す人だけではなく、話を聞いている他の子の様子も見られ、安心してその場にいることができます。コロナに負けずに来年度に向けても、ぜひ計画してみてください。
★教室の中のマインドフルネスには、6秒間かけて息をゆっくり吸って吐く。教室の中を見回して「ありがたい」とか「すばらしい」と思える気づきを共有する。日々の生活の中で感謝したいことを1つずつ発表してもらうなどがあります。
★★本書では「期待」となっていますが、日本では「話し合いのルール」といったニュアンスでしょうか。しかし「期待」と「ルール」の違いは大きすぎます! この違いに興味のある方は、本書ハック4「ルールを期待に置き換える」を読んでください。この転換できないと、ひょっとしたら教育自体が変わらない可能性すらあります。
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