2021年2月21日日曜日

算数ハカセが算数ギライをつくる!?

あなたのクラスには数学が得意な子、または苦手な子はいませんか。

 

その子たちは数学脳を上手に駆使したり、論理的な思考が生まれつき得意な子なのでしょうか。または、数学脳を働かすことができずに数学が嫌いになってしまったのでしょうか。 もしそうだとしたら、いつから数学が苦手になってしまったのでしょうか。「自分には向いている・向いていない」と早々と決定されてしまう教科、それが数学(もちろん算数も含まれますが)です。★

 

しかし、これらはすべて神話の類いであり、そもそも数学脳などというものも存在しません! 繰り返しますが、そんなものはありません! ただの勘違い。私たち大人も数学へ多くのコンプレックスを持っていて、世界では「女性や有色人種は数学が得意ではない」などの固定観念が持たれ、都市伝説のようにひっそりと語り次がれています。なんと人口の約半数もこの神話に感染しているとスタンフォード大学数学教授のジョー・ボアラーは言います。そして恐ろしいことにその固定観念はしだいに信念へと変わり、数学ができなくなるマインドセットをじっくりと育ててしまうのです。それでも、ジョー・ボアラーは「すべての子どもたちには膨大な数学の可能性がある」と希望を語ります。★★

 

“ 数学は公式を覚えて使うような授業ではなく、そしてテストで総括評価するものでもありません。生徒が数を使って考える探究を奨励することで、重要な数感覚を構築します。様々な方法で数学の学習内容を理解するプロセスをつくるため、オープンで創造的な質問を導入しなければなりません。そのためにも、生徒たちの考え方や自分自身の考え方を変えるための時間を費やすことです。 ” edutopiaAre We Teaching the Math Kids Need?」より

 

長年にわたって数学は「伝統的な教え方」、つまり教師が解き方を教え込み、生徒はそれを練習するといった正解/不正解を素早く導き出してテストで厳しく評価されるアプローチが続いてきました。これは、思春期の生徒たちには不評でしかありません。生徒たち一人ひとりは自分の考えを持ちたいと思っています。そして一人の思考者として尊敬されたいと思っています。しかし伝統的アプローチによって、数学は自分らしさを充分に発揮できない教科だと考えてしまい、途中で挫折し諦めてしまう理由の大きな部分を占めてしまっています。

 

この数学嫌いの中心には、早く正解にたどり着いた人こそ数学が得意である! といった「スピードの問題」があります。小学校の教室では日々、繰り返し計算ドリルの復習が課され、子どもたちは早く解けることがよいことだというメッセージを受け取ってしまっています。ボアラーは言います。「計算ドリル問題は最初の5問ほどできれば、その子ができるかどうかはすでにわかる。あとはもっとじっくりと考える問題を解いた方が意味もあり理解が深まる」とし、自身の娘の担任に訴えに行ったエピソードもあるほどです。数学を生業とするプロの数学者たちは、問題解決のスピードが速いということでは決してありません。むしろ逆で一つの問題をじっくりと繰り返し多くの方法で思考する、最も思考の遅い人たちのことなのです。

 

“ 私は生徒たちに「もがいて問題を奮闘してほしい、それはあなたの脳にとって本当に良いことだから」と言います。それが数学におけるひとつの目標と知ることで、生徒は固定化された数学への得意/不得意から解放されると考えています。このことは、毎回の授業で共有し、励まし続けるべきことです。 ” edutopiaAre We Teaching the Math Kids Need?」より

 

ボアラーは生徒たちが良き思考者になるためにも「もがくこと・間違えること」を推奨しています。分かる/分からないギリギリのところで、問題解決が困難な状況の中ではミスを繰り返しながらも修正し前に進みます。そしてまたミスを繰り返すといったその苦労している時や困難に直面している時こそ学習に最適な時であり、脳のシナプスが活性化されているときなのです。★★★

 

生徒には自分の考えを修正するチャンスが常に与えられ、たった一度きりのテストで評価されないことが重要です。できないとき/苦労しもがいているときに「速やかに問題解決することができない生徒」といった間違った評価を下すのであれば、もがくことは良いことだと教えていません。最初にうまくいかなかった場合でももう一度取り組めることは、学習への奮闘が評価される素晴らしいメッセージを送ることができます。これこそが本当の学習のための評価(Assessment for Learning)なのです。

 

 

 

“たったひとつの解法とたった1つの正解のある問題をたくさんする必要はありません。生徒が創造的に、視覚的に様々な方法で考えられるようなオープンな質問でもいいのです。もがくことを奨励し、人は何でも学べることを思い出せれば、人の学びに限界はないことがわかっています。隣の子が早く正答にたどり着いたとしても、それは全く問題ではないということを生徒たちは知るべきです。生徒たちは成長したい願いを持って学校に入りますが、それは学校生活を追うごとに低下していきます。他の子を見て「あの子は私より早くできる。私より上手だ」と考えてしまうこともその原因の一つです。このような考えに対抗し、オープンで創造的な数学を導入しなければなりません。そうすれば物事が変わります。”★★★★

 

日本の小学校の授業では、今でも「算数ハカセ」というキーワードを聞きます。「はやくて」「かんたんで」「せいかく」の頭文字をとって「ハカセ」。しかし、数学の真実と照らし合わせてみると、どれも間違いです。むしろ「じっくりと」「いろいろな方法で」「まちがえながら」こそ、本当の算数ハカセなのです。

 

いよいよ学年末。学年末の復習やため込んでいる計算ドリル練習の呪いから今こそ解き放たれるときです。わかりきった計算ドリルを課すことはますます算数ギライを増やしかねません。課題を消化したり、スピードを競い合うことよりも、学んだことを使ったり、他の方法はないか試したり友だちと相談しあったりと、じっくり考える問題に取り組むチャンスです。素早くできないこと、間違えることは深く考えるために不可欠な学び(遊び?)の要素です。学年末、友だちと一緒にもがきながら解いてみる、そんな問題を出してみませんか?★★★★★

 

 

 

 

今回の記事はブログedutopiaの「Are We Teaching the Math Kids Need?」を基にまとめたものです。https://www.edutopia.org/article/are-we-teaching-math-kids-need

 

★★

スタンフォード大学といえば、心理学教授である成長マインドセットのキャロル・ドウェックが有名ですが、ボアラーは成長/固定マインドセットを数学へ関連させる共同研究が行っています。日本と違って、専門分野の垣根を越えていつでもコラボレーションしようと試みようとするのがおもしろいところです。

 

★★★

「間違えこそが分かるの種」といった子どもたちの授業のエピソードを踏まえて語り続けること。これは間違えの文化を教室の中で醸成する一つの強力なツールです。私の教室でも同じように語ってきましたが「間違えてもいいんだよね」とお互いが声を出し、間違いを子ども同士がオープンになり学び合うには、やはり時間がかかります。しかし、間違えこそが理解を深める機会と捉えられるようになった子たちは、どんな問題にも粘り強く考えようとする態度が育っていくことを実感しています。

 

この最良の大人のエピソードが語られているのがオリバー・キーン著/吉田新一郎・山元隆春訳『理解するとはどういうこと〜「わかる」ための方法と「わかる」ことで得られる宝物〜』新曜社の第5章「もがくことを味わい楽しむ」にあります。教師であってもスマートにこなせなくてもいい、もがいていい! と学ぶことを肯定的に捉えられます。

 

★★★★

ジョー・ボウラーのHPyoucubedhttps://www.youcubed.org には、数感覚を養う学習コンテンツが豊富に紹介されています。数学は教え方だけではなく教える内容そのものを刷新しなければならないと、ビッグデータを扱う「データサイエンス」についての教員向けのオンラインコースも昨年より開設されました。データサイエンスは、生徒たちがデータリテラシーを身につけるのにも役立つので非常に刺激的です。この授業では生徒にとって身近なデータグラフを読みとって議論するものです。①データを観察し質問する、②データからパターンをみつける、③そのパターンに意味づける、④それぞれの仮説について議論をします。すでに様々なビッグデータが生活の中に、これは小さな子供でもデータリテラシーを身につける準備をする必要があります。日本の小学校でも「データ活用」の領域が整理され、新設されました。今後の授業実践が期待されるところです。

 

★★★★★

ジョン メイソン、リオン バートン、ケイ ステイスィー著/吉田新一郎訳『教科書では学べない数学的思考「ウーン!」と「アハ!」から学ぶ』新評論には、一つの問題をじっくり考えられるオープンな良問が紹介されています。

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