オンライン授業(あるいはリモート授業)が世界中で行われている。私も4月から、3ヶ月間にわたって自宅の一室から授業を行なってきた。比較的うまくいっていると思う授業もあれば、課題山積と感じている授業もある。まだ、進行中の実践ではあるが、現時点までに起きたことを、なるべくリアルにご報告できればと思っている。
当たり前過ぎる、陳腐な総括だが、分かったことは、授業は対面でなくてもできるということであった。いや、もしかすると対面形式でまだ実現できていなかったこと、例えば、「対話的で、主体的で深い学び」といったようなことが実現される可能性があることに気づかされた。今回のオンライン授業の実施は、緊急事態への対応だったわけだが、そのドタバタの中から、本質的に重要なことが見えてきたように思う。
それは、日本の学校や教師が一番苦手としていた、児童生徒に学びの責任を委ねるということが、オンライン授業で実現してしまったということだろう。
私の勤め先では、入学式の前日に全学生に帰省せよの通知が送られた。入学したばかりの学部1年生諸君は、どのような祝辞も激励も指示も受けることなく(ホームページには掲載された)、キャンパスをひとまず去った。昨年までは、パソコンやワークステーションの使い方、ログインの仕方や情報の入手の仕方、学生生活に必要なツールや手続きについて丁寧なガイダンスやオリエンテーションを受けていたのにである。今年はゼロだ。
しかし、4月中旬には容赦なくオンライン授業が始まった。「容赦なく」と書いたが、それは教員側の思い込みであって、若者たちには乗り越える力があった。もちろん、苦労した学生もいただろう。それでも、画面を通して、学びを得ようするたくましい姿勢を見ることができた。「なんだ、できるじゃないか」と私は思った。
オンライン授業も終盤に差し掛かった7月上旬、Speech Communication(英語のスピーキング)という授業のメーリングリストに届いた、受講生Fさんからのメールには次のように書かれていた。「長らく続けてきたBookClubもいよいよ最後となって、授業の終わりが近づいていることに寂しさを覚えます。」
一度も直接顔を合わせたこともない若者同士が、共通のゴールに向かって歩む中で、ネット上の交流を通して、絆のようなものを育んできているのだ。なぜだろう?私は、不思議に思った。
この授業では、パブリック・スピーキングについて学ぶためのブック・クラブをメーリングリスト上で行いつつ、週1回のオンライン授業では、学生MCのリードにより3つのスピーチ活動を行う。後半はお互いのパフォーマンスについて振り返り、語りあうカンファレンスの時間を30分以上とっている。
90分間、ほぼ私の出る幕はない。
私がやっていることは、このくらい:
1 その日のagendaをつくること
2 計時(タイム・マネジメント)
3 進行が滞った時の介入
4 最後に全体的な講評(フィードバック)をすること
5 個人の振り返りメールに返信して、フィードバックを返すこと
6 ブッククラブへの反応
これはほぼ教室で対面授業をしていた時もあまり変わらない。基本的には学習者の主体性を大切にした組み立てを心がけている。
それが、今年オンラインでやらざるを得なくなって、対面型の授業よりも、この特徴が強化されたように感じるのだ。
では、オンラインと対面で何が異なるのだろうか、
1 基本的に受け身でいたら何も起こらない。教室に座っていたら、スプーンで口に何かを流し込んでくれるのとは全く異なる。基本的な構えとして、主体的になるのかもしれない。
2 仲間とのカンファレンスが充実しているように感じる。教室では、井戸端会議みたいになる気がしていたのだが、しっかりとspeakerに焦点を当てた議論ができている。画面上なので、対象に焦点が当たりやすくなるのだろうか。
3 ブック・クラブと実践のつながりが見えやすくなる。ブック・クラブで読んだことを実践し、評価し、振り返る、こういったサイクルがシームレスにつながっているように見える。教室でやっていた時は、読んできて、口頭で話しっ放しだった。メーリングリストで自分の読後感を文字化せざるを得なくなると、読み方が変わる。さらに、自分自身のスピーチのパフォーマンスを振り返るメールを書く際も、ブッククラブで取り上げた内容に言及される機会が多い。
大人数の講義形式のものであれば、オンラインでも対面でも大差はないのかもしれない。しかし、よりインタラクティブでアクティブな授業を目指すのであれば、教室でやるよりも、生徒の関与の深さ(engagement)が高まる可能性はあると言えそうだ。そう考えると、今回の騒動が終息した後でも、オンラインと対面のハイブリッド授業というのも、一つの選択肢になるかもしれない。
大変な数ヶ月間であったが、予想外に多くの発見もあった。
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