東京都知事選挙がありました。その投票率は55%。都民の45%が棄権していることは、政治期待への希薄さの現れでしょうか。日々の暮らしの場で民主的に行動する機会をみすみす逃してしまっているそのむなしさは否めません。
時期を同じくして、香港では国家安全維持法が香港にて成立しました。民主化運動を担っていた人々の言論の自由が制限されてしまいました。香港の若い人々は、前の世代の大人たちの政治的無関心がこのような状況を生み出したと痛烈に批判しています。
今、私たちは一人の市民として、ものごとの意思決定に民主的に参加する方法を学ぶことの大切さへ気付く必要があります。そして、未来を担う子どもたちには、民主的に考え行動できるようなその練習を授業で身につけていって欲しいと切に願います。民主主義を学ぶよりよい方法の一つがダン・ロスステインとルース・サンタナの提唱する「質問づくり」です。★
“自分たちで考え、証拠を比較検討し、事実と神話を見分け、話し合い、討論し、分析し、そして優先順位を決めることができる市民の力を育てるための意図的な努力が必要です。” ダン・ロスステイン&ルース・サンタナ著・吉田新一郎訳『たったひとつを変えるだけ』P.238
質問づくりは、これまで教師が発した質問に子どもたちが答えるのではなく、子どもたちが自らの質問を作り出せるように導くことで民主主義の感覚を身につけることができます。互いの質問に耳を傾け、相互に学び合い、話し合い、討論し、必要な異なる種類の譲歩について考え、そして自分たちが必要とする情報の順番を決定します。協力して作業をし続け、投票や合意形成により、最終的には優先順位の高い質問を選び出さなければなりません。
20年に以上にわたる試行錯誤の末、質問づくりの手順は簡素化されて以下の7つの段階で構成されています。
1. 「質問の焦点」は、質問づくりの鍵となる、子ども達が質問を考え出す起点となる言葉や文章などのことで、教師によって事前に設定されます。
2. 質問をつくる際の単純な四つのルールが提示され、子ども達はそれらについて話し合います。
①できるだけたくさんの質問を出す。(質問する許可を与える)
②(それらの質問について)話し合ったり、評価したり、答えを言ったりはしない。(安心・安全な場が提供される)
③発言のとおりに質問を書き出す。(みんな同じレベルで、全ての質問と声が尊重される)
④肯定文として出されたものは疑問形に転換する。(主張するのではなく、質問すること。そのための表現が大切にされる)
3. 子どもたちはルールを意識しながら短い時間でできるだけたくさんの質問を考え出します。
4. 子どもたちは、「はい」か「いいえ」で答えられる「閉じた質問」と、自由に考えを述べられる「開いた質問」の違いを理解したうえで、それらを相互に書き換える練習をします。そうすることで、この二つの異なるタイプの質問を、目的に応じて使いこなせるようになります。
5. 子どもたちは、優先順位の高い質問を1つ〜3つ選択します。ここが、質問づくりのハイライトといえるかもしれません。
6. 優先順位の高い質問を使って、教師と子どもたちは次にすることを計画します。
7. ここまで行ってきたことを、子どもたちが振り返ります。「学んだことは何か?」「どのようにして学んだか?」「学んだことをどのように応用できそうか?」などについてです。
同書 Pⅷを参考
子どもたちが質問をつくり、そしてそれらを使いこなすこと、さらに子どもたちが自分の学びに主体的に取り組むことによってどれだけの学びが起こるか想像できますか? このコロナ禍では対話ベースの授業は難しいと言われています。しかしものはやりようです。教室壁面に模造紙やホワイトボードを掲げ、そこに横一列、壁に向かって記録しながら対話を重ねることだって可能です。もしよりよい方法があったらぜひ、教えてください。
質問づくりは、子どもたちに常に民主主義の習慣を練習させ、スキルを磨く機会を提供してくれます。授業の導入にぜひ挑戦してみませんか。
★ダン ロスステイン (著), ルース サンタナ (著),吉田新一郎(訳)『たった一つを変えるだけ: クラスも教師も自立する「質問づくり」』新評論
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