2020年2月9日日曜日

理解を深める6つの試行錯誤ツール



3学期も残すこと30日を切りました。みなさんは年度末に向けて、子どもたちの学習の成果を何で測っていますか? まさかの業者テスト平均80点以上!? 人がものごとを本当に理解したとき、学習が身についたといえるのは、学んだことを別の場面においても活用できること。そのひとつが「学習の転移」と呼ばれています。

WigginsMcTighe2011)は、学習の転移を生じさせるために、教育目標を3つに分類し、効果的な6つの学習者の試行錯誤ツール(mental manipulation)を紹介しています。これらを通して他の文脈においても学習が転移することを可能とし、深い理解が得られます。学習の転移を期待していない学習は、ただの知識のストックにしかなりませんね。

WigginsMcTighe2011)による教育目標の3分類

Acquisition 
基本的な知識と技術の「習得」のことです。この段階では、学習者は、学習内容の基本的なことを自動化できることが目標となります。学習の流暢さがなければ、使えるようにはなりません。例えば、基本的なかけ算九九を流暢に使えなければ、複雑な思考プロセスを要求される3けた÷2桁の小数のわり算の解法へと、効率的に進むことができないからです。ここでの教師の役割は、学習内容を伝達するティーチャーです。

Meaning Making 
物事を深く理解するには、学習者による積極的な知的作業を通した「意味づくり」が必要です。つながりやパターンを探したり、推論を行ったり、理論を形成したり、テストしたりすることです。ここでの教師の役割は、学習者自身の試行錯誤(意味をつくり出すプロセス)をサポートするファリシテーターです。

Transfer 
知識と技能を習得し、その意味を理解したら、別の文脈や新しい状況に効果的に「転移」させる能力のことです。ここでの教師は、陸上競技のコーチのような役となり、学習者自身が自立してやっていくことです。

これらの3分類を意識して授業計画をすることは、学習者が学んだことを長期記憶にとどめておくためにとても効果的とされています。暗記だけでは、学んだことが脳内で他のネットワークにリンクされていないとても弱く孤立している状態で、学習の転移は期待できないということです。★★

理解を深めるための「学習の意味づくり」には高度な思考作業が伴います。この理解は、教師による一方的な情報伝達ではできません。事実や手順といった知識・技能は教えることはできますが、理解そのものは学習者自身が頭の中に自分で構築しなければならないのです。新しい状況に知識を転移して運用できるようにするための効果的な6つの思考作業を以下に紹介します。

理解にむけた思考作業6ツール 〜知識づくりのmental manipulation

1 要約と統合
多くの情報の中から、優先順位の基準を設けて、それらの情報を新しく統合する知的作業のこと。具体例としては、ペア読書したことの要約、Twitterへの学習まとめ投稿、欠席者への学習説明書など。「どのようにあなたはこの知識を使用できますか?」「今まで理解していなかったけれども、今日、あなたが理解したことについて書いてください」

2 類似点と相違点
一定のパターンを認識することにより、その先を容易に「予測」できるようになります。1357・・・とつながる数値からこれまでの数列パターンから予想できます。このパターンを形成する基本的な方法の1つは、類似点と相違点を探すことです。
① 概念の特定
② その概念の例とちがう例を生徒に示させる
③ それらの共通点とちがい
④ +と−の例をさらに追加
⑤ クラス全体で肯定的な例と否定的な例を確認
⑥ その概念を示すデモンストレーションをさせる

3 シンボル化する
学習したことから、ラップをつくる、ボードゲームにする、PowerPointのスライドにする、動画を撮る、学習したことを使ったアート作品への応用など、さまざまな形式に変換します。

4 予想
予想があたると(生存の基本予想が正しいとドーパミンが出て)ますます予想作業は強化されるため、すべての生徒が予測を行うことが重要です。小学校3年生の理科では、子どもたちに、示した物の中でどれが水槽に浮かび、どれが沈むかを予測させてみます。中学校国語教師は、小説の題名に文学的な特徴がどのように反映しているのか生徒に予測させたりします。ミニホワイトボードに予測を書き込んだり、賛成または反対の合図をしたり、スマートフォンアプリを使用もします。全ての生徒は自分の予想が正しいかを知りたがっているからです。

5 図にする
目に見えないものを「見える化」することによって、新しい情報の理解を助けてくれます。マインドマップ、物語構造図、ベン図など、生徒が独自に図式化することで、積極的に意味を構築することができるようになります。

6 質問をする
学習者に、持続的な探究と意味づくりを促進するために、正解が多様でありインターネットで検索することはできない問いを投げかける。「芸術は文化を形作るだけでなく、どのように反映しますか?」「これは誰の「物語」ですか?」「効果的な問題解決者は、スランプになったときに何をしますか?」「技術が変わると誰が勝ち、誰が負けますか?」「老化は病気ですか?」


どうでしたか? 授業のまとめに使えそうなことはありましたか? 理解を深めるために、年度末の学習のまとめに試行錯誤のツールを組み込んで、学習者自身が知識を構築するアウトプットを意識的にデザインしてみることをオススメします。



Jay McTigheJudy WillisUpgrade Your Teaching Understanding by Design Meets Neuroscience」のChapter5 Teaching Toward AMTを参考にまとめてみました。


★★ この本は、脳科学をもとにした学びを体系化したもので、いたるところに学習に関する脳科学の情報が紹介されています。特に、この学習目標では、学習者の事前知識を有効活用することがとても効果的とされています。事前に知っていることが刺激されていないと脳内でリンクするものがなく、記憶に残らないからです。短期記憶は一時的なものでしかなく、精神的に操作(思考)された場合のみ、長期記憶へと変換されます。その際、学習者が読書、聴覚、視覚化、運動など様々な感覚を使って学習する方法が効果的です。このような感覚刺激は、短期記憶の活性化させ(樹状突起、シナプスを介して)、つながりを増やし、長期記憶を構築します。6つのツールを使って、脳内にさらなる精神的な負荷をかけることで短期記憶を統合し、転移可能な知識を備えた長期記憶ネットワークへと結びつけることができるようになります。



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