本書は、「間違いは誰もがおかし、それを改めることで、学んでいけばいい」という強い思いに貫かれている本です。
下訳段階の原稿を読んでくれた協力者の一人は、この本のキーワードとして次の3つを挙げてくれました。
●「公正な社会」「公正な教育」
「最も印象的な内容は、第9章での『公正な社会』『公正な教育』についてです。同時に、日本の教育で見事に欠落している視点であることに、自分自身や日本の学校の状況に照らして納得しました。とりわけ小学校現場では、真に社会とのつながりを考えた実践が少ないのではないでしょうか。そこが欠けているから、『学校/授業ごっこ』や『正解当てっこゲーム』になるのだと改めて思いました。そして、このような現状を引き起こしている要因の一つに、教師自身が、社会とつながっていない/自立していないことがあるのではないかと。(以下省略)」
「公正な教育」を実現するための具体的な方法を、著者自身紹介してくれていますが、ここでは2つだけを引用しておきます。(123ページ)
・教室に存在する教師(教え手)は大人だけではない、という事実を真剣に捉えるべきである。
・意味をつくり出すことはいいことだが、意味のあることを行うのはさらにいい。
●「ダイナミック・マインドセット」と「固定マインドセット」
「ダイナミック・マインドセットと固定マインドセットの捉え方、およびそれらの影響について興味を持ちました。教師が、ダイナミック・マインドセットの効果(あるいは、固定マインドセットの悪影響)について理解していること、そもそも教師自身がダイナミック・マインドセットの持ち主であることで、当然、教師の質問の質が変わり、子どもたちとのやり取りや関わりの中で、不確実性・探究・主体性・継続(的な対話)といったものを提供することができると思いました。管理職と教職員の間でも同様だと感じ、ぜひ、実践していきたいです。」
この二つのマインドセットは、元々はキャロル・デゥエックによって『マインドセット「やればできる! 」の研究』(今西康子訳、草思社)の中で提示された考え方です。その本よりも、本書の第2~第5章で説明されている方が学校の先生たちにははるかに分かりやすいと思ったのが、本書を訳そうと思った大きな理由の一つでした。その中には、ダイナミック・マインドセットと固定マインドセットを比較しているいくつかの表も含まれます。(2つのマインドセットを別な言葉でいうと、前者は「主体性」や「チェレンジ」、後者は「無力感」と「思考停止」になります。)
それではいったいどうしたら教室や社会に充満している固定マインドセットをダイナミック・マインドセットに転換できるのでしょうか? 本書は、その点に焦点を当てて書かれています。
●「社会的想像力」
「社会的想像力は、私に様々なことを考えるきっかけをくれました。学びは、根本的に社会的な営みであること。基本的なレベルで、生徒が助けを得られなかったり、活動に協力して取り組めなかったりすると、学びが得られない可能性があること。社会的な成長が、知的、感情的、肉体的な健康の基礎になっていること、などです。」
著者は、「カリキュラムを開発する人々は、これらの異なる成長の要素をバラバラなものとして扱っているだけでなく、子どもたちを人間ではないと捉えることで、本来切り離すことのできない一体性を無視してしまっているのです」(67ページ)というふうに、現在学校教育で行われている方法を痛烈に批判する形で、第6章は始めています。
そして著者は、社会的想像力の二つの特徴として、日本人が得意な(?)「場の空気を読む力」ではなく、「人の心を読む力」と、「学業面での成果がより認識しやすい領域のものです。それは、人の行動、意図、感情、考えなどを多様な視点からイメージできたり、判断できたりする力」(71ページ)を挙げています。
学業面だけでなく、人間関係、道徳、自己調整力、問題解決能力の形成など様々な面で、極めて重要であるにも関わらず、「学校教育のなかで社会的想像力を考えることはほとんどありません。しかしながら、社会的想像力は市民社会の基盤となっているものです。それこそが、人間関係が機能するか否かを決定づけ、法や政治的な判断の基礎となっているのです」(72ページ)。
上記の3つ以外にも、紹介したい内容は盛りだくさんです。
ピーター・ジョンストン氏の前著の『言葉を選ぶ、授業が変わる!』(ミネルヴァ書房)もいいですが、この続編はそれと同じか、さらにグレードアップされた内容になっていますので、新任、ベテラン、管理職、すべての教科、学年、学生、指導主事、保護者など、教育にかかわる人や、「公正な社会」「熱中できる生活」「意味のある生活」「主体者意識」をつくり出したいと思っている人すべてのための本です。
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