若さゆえの、怖いもの知らずだったのか、自信もありました。他の誰よりも、授業の本質を見抜く力があると、確信していました。先生方と、人間関係を築く自信もあった。意気揚々と、使命感と情熱の塊のようになって学校に通い続けました。
1、2年経ったころ、「本当に、先生方が成長するサポートができているだろうか?」という疑問が生まれてきました。もちろん、自分なりには、十分に目配せをしているつもりでした。良いところも見つけ、奨励し、褒め。課題も、指摘し、丁寧な助言も、提案もする。
しかし、実際にやっていたことは、私の気づきを、並べ立てていただけだったのです。「どうだ、こんなことも気づいたぞ。」「なかなかするどく、深い分析だろう。」と。授業者は、突きつけられた課題のリストを、前向きに受け止めてくれてはいましたが、その後、それらにどう取り組んだのか、何がどのように変わったのか、成長できたのかについては、ほとんどフォローできていませんでした。愕然としました。(☆)
このことは、教師の成長につながるフィードバックとはどのようなものかを、根本から考え直す契機となりました。その後、私にとっての重要なテーマであり続けています。
最近出会った、Elena Aguilar (2013) The Art of Coaching, Jossey-Bassという本に、教師への効果的なフィード・バックについての提案が書かれていました(pp.215-217)。これまで、考えてきたことが、見事に整理された、共感のできる提案でした。
1 信頼関係を見極める:クライアント(対象の教員)に対する理解が十分でなく、信頼関係ができていない段階で直接的なフィードバックは避ける。
2 常に、クライアントの意思を尊重する:クライアントの成長や改善が目的であることを明確にするために。
3 教室で観察した事実に基づいてフィードバックを返す。
4 課題の指摘は、1つから2つのキーポイントに限定する:観察した結果と学校やクライアントのゴールを照らし合わせて、適切なものを選ぶことが重要。その作業のために、授業観察と振り返りの会の間に少し時間をとるのが望ましい。
5 言葉を選ぶ:人によって受け止め方は様々。プロのコーチでも、十分に練り、時には書き出したり、リハーサルをしてから望むこともある。そのくらい慎重に。
6 振り返りをうながす:フィードバックをどのように受け止め、次の段階でどのように取り組むかについて、クライアントの振り返りを促す。そして、次のステップに進むために必要なサポートやアイデアなどを提供する。また、クライアントが次のステップに進めるようになるためには、どのように受け止めたか(肯定的に受け止めたのか、否定的に受け止めたのか)についても、注意深く観察する必要がある。
この1〜6の提案は、WWやRWのカンファランス(☆☆)で教師がしていることと同じです。研修で指導役のコーチがすることと、授業で教師がすることは、まるで「入れ子状態」なのです。 教室で、このようなアプローチを実践してきた人であれば、管理職や指導主事になってからも、効果的に教師をサポートできるコーチになりうるのでしょう。
Aguilarさんは、フィードバックの難しさを認めています。一方で、長年の練習を経れば、身につけることのできる技術(art)でもあるとも述べています。この本は、教育におけるプロのコーチの、専門性に裏打ちされた、緻密で周到な仕事ぶりが紹介されていて、とても参考になる本ですが、繰り返し語られるのは、コーチ自身が学び続けることの重要性です。まさに、それがプロたる所以なのでしょう。
☆この時の経験から生まれたのが、アクション・リサーチを使った通年の教員研修の仕組みです。その概要については、「メンターとしての指導主事の成長と悩み」『PLC便り』(2018年7月1日)をご覧ください。http://projectbetterschool.blogspot.com/2018/07/blog-post.html
☆☆このようなアプローチに関心のある方は、ブログ「WW/RW便り」(http://wwletter.blogspot.com)を開いて、左上の検索欄に「カンファランス」を入力すると大量の情報が得られます。
[参考文献]
Elena Aguilar (2013) The Art of Coaching, Jossey-Bass
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