2018年10月21日日曜日

学力向上に効果的なフィードバックとは?



作家の時間や読書家の時間などのワークショップ授業では、個別カンファランス(個に応じた指導・相談)が欠かせません。ワークショップ授業の導入時には、子ども達はみるからに意欲的に学習を進め、話し合っています。しかし、教師や子どもたちも、学力がのびている実感をあまりもてないことがあります。その一因に、授業を子どもに任せっぱなしにしてしまい、フィードバックの必要な場面に介入していない。学習者の実態にあわせたフィードバックがおこなわれていないことがあります。

教育の効果の最も高い方法の一つに、フィードバックがあります。★

フィードバックとは、教師や親、友だちなどからの「人」や、教科書や参考書、作品などからの「もの」といった情報を媒体として、学習者の情意面(やる気や集中力など)と認知面(知識や考え方など)に働きかけ、学習者の知識を増やし、その知識を再構築するものです。

現状の教育現場ではフィードバックを誤解されることが多く、あまり効果的に用いられていません。例えば、フィードバックは「たくさん量を増やすほうがいい」「関わりは多いにこしたことはない」と思われていますが、大切なことは決して量だけではありません。学習に効果の高いフィードバックが、子どもの学習に対しておこなわれているかどうかです。それは、学習者同士でもいえることです。子どもたち同士で教え合ったりする授業のやりとりのフィードバックの大方は間違っているとする論文もあります。(Nuthall,2005) 

シールや賞などのご褒美といったフィードバックは、学習の成果に対しておこなわれています。しかし、学習者にとってシールや賞などは学力そのものを伸ばす情報提供とはなっていないため、効果的なフィードバックとはいえません。(Deci,Koestner,&Ryan 1999)また、学習者に向けて「すごいね」「いいね」と人物そのものを褒めてフィードバックすることは、プロセスに対しては何も言っていないので、内発的動機づけを高めるとはいうものの、学習に対してそれほど効果はありません。

大きな誤解の一つは、「フィードバックは教師から、学習者へ(一方的に)与えられるもの」と理解してしまっていることです。フィードバックは、学習者の視点に立つことが何よりも大切です。学習者がどのように教師からのアドバイスを受け取り、その後、学習者がどのように行動したのかが大切なのです。フィードバックは、教師から与えられて決して終わりではありません。

フィードバックが効果的に発揮するためには、情意面において、とくに学習者の「心理的な安心感」が大切です。学習者がよりよく、素直にフィードバックを受け入れるためにも、日頃より関係をつくり、学習の目的へ一緒に向かっていく姿勢が求められます。

その際、フィードバックが学習者の人格に踏み込まず、脅かすことがないとき、学習者の注意はその学習そのものへと安心して向くようになります。教師は、学習者に、できないところを指摘するのではなく、できるようになるためのアドバイスをします。過去との比較でより成長した点を伝える方がより効果が高いことがわかっています。このようにフィードバックを素直に受け取り、学習者が変わっていこうと学び始めるためにも、学級集団がもつ「失敗しても許される、もしくは、歓迎されている」雰囲気を醸成していく必要があります。

認知面を伸ばすには、学習の3つのレベル向けてフィードバックすることです。

レベル1 浅い学びとしての基本的な知識・技能(かけ算九九の仕組みを理解しているか、覚えているか)
レベル2 深い学びとしての考え方や学び方(かけ算九九とこれまでの筆算の形式をつかって、2桁×2桁の筆算を自分でつくろうと、問題解決しているか)
レベル3 自分をふりかえるメタ認知(自分の問題解決をふりかえり、取り組み初めの気持ちや自信、どこで解法のアイデアがひらめいたかなど)

フィードバックは、レベル1の知識・技能からレベル2の考え方・思考法へ、さらにはレベル3のメタ認知へと、より高度なレベルへと適切に与えていきます。

ワークショップ授業における具体的なカンファランス場面では、①~③のステップで取り組むとよいでしょう。
①「今、どんなかんじかな?」とその学習の現状の進み具合を確かめます。
②「何ができるといいの?」とその学習の目的や到達度を問いかけ、現状とのギャップを見つけます。
③「じゃぁ、何をしようか?」とそのギャップを埋めるために、具体的に次の行動目標を示すことです。この際、レベル1〜3に応じて、知識・技能を理解するためのアドバイスや、問題解決のプロセスの仕方への援助、ふりかえりの視点をフィードバックしていきます。


学習の認知面において、学習がそもそも挑戦しがいのある適度な難易度のある課題となっているかによって、フィードバックの効果が大きく左右されます。すでに計算技能のある学習者に対して、「計算ドリルを3回!おわらせましょう」といった課題では、学習者に効果的にははたらきません。

また、基本的な浅い知識として学習内容を理解していない場合では、フィードバックを与える関わりよりも基礎的なことをしっかりと指導したほうが効果的です。かけ算九九を理解していない子は、かけ算九九を理解して覚えるところから始めようということです。

このように、学力者の成長プロセスには、効果的なフィードバックが欠かせません。継続的に学習を支援し、形成的評価はフィードバックと言い切れるぐらいに大切なものです。ぜひ、これを機に、ふりかえってみてください。

★「教育の効果 メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化」ジョン・ハッティ(著) 山森光陽(監訳)の第8章「フィードバックを重視する指導」より

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