30年以上も前のことになりますが、ある中学校の職員室での会話です。
「今年入学してきた1年生は小学校でどんな教育・指導をされてきたんだろうか!?まったく生活面の指導ができていないよ。困ったものだ。」
続いて、別のある小学校の職員室での会話です。
「小学校ではあんなにいい子だったA君が、中学校にいったらあんな不良になるなんて、どうしたのかしら!?」
このような発言は、小学校と中学校でなされている教育・指導の実態を知らない、あるいは理解しようとしない状況から生まれてきます。また、どちらも子どもの発達・成長や思春期の特徴についての無理解、友人やクラスの仲間、教師、家族その他様々な環境との相互作用によって起こる子どもたちの思考・感情・行動の変化に対する無理解、学習面と心理・社会面、進路面、健康面との相互影響関係についての無理解などからくるものです。
8月6日の「学級担任制と小学校教育」と9月3日の「教科担任制と中学校教育」では、それぞれ小学校教育と中学校教育の特徴・良さや課題およびそれを解決・改善するための方策について提案しました。今回は、これらの内容と関連する小学校教育と中学校教育の間にある大きな溝を埋めて、子どもたちが安心して学べるようにするための「小中連携」について考えてみました。
「中1ギャップ」の解消、および教師が義務教育9年間を見通して子どもの発達・成長にかかわることなどを主な目的として、15年ほど前から多くの地域で「小中連携」や「小中一貫教育」が行われています。そのため、さすがに最初に紹介したような発言はほとんどなくなったと思います。
小中連携の取り組みとしてよく行われているのが、小学校6年生が年に2~3回中学校での学校生活を体験する取り組み「体験入学」です。6年生が中学校で、国語や社会、数学、理科、英語、技術などの授業を体験したり、生徒会による全校集会に中学生と一緒に参加したり、部活動の体験をしたりします。これらの取り組みは、小学校6年生の子どもたちの中学校生活に対するレディネスを高めるためのものです。
これらのほかに、さらに、中学校に入学する子どもたち一人一人の学習面や生活・行動面、身体・健康面、運動能力などの情報が、小学校から中学校に伝達されます。★
本質的な意味での小中連携とは、小学校教育と中学校教育を担っている教師同士が互いに対する敬意をもって、お互いの教育実践を理解し、子どもの自己実現を図るための基盤となる信頼に満ちた学級経営と、強みやレディネス、興味関心、学習スタイルなど、一人一人の違いに応じられる授業・学習指導を構築するための連携・協同を実現することではないでしょうか。
それを実現するために中学校区レベルでできる具体的な取り組みは、次の3つです。
1.特別支援教育のニーズのある生徒を含め、学習面や生活面において気になる生徒については、中学校に入学してから少なくとも1年間は、「フォローアップ」の情報交換・学校生活適応のための支援の機会を定期的にもつ(夏休みを含めて年に2~3回程度)。★★
2.夏休みを利用して、教科や総合的な学習、特別活動などにおいて「質問づくり」を生かした子どもの発想や疑問に基づく単元開発、または「「違い」を力に変える学び方・教え方」による一人一人の違いに応じられる単元開発、あるいは「責任の移行モデル」で学習を進めるための単元開発を協同で行う。★★★
3.夏休みを利用して、特別支援教育のニーズのある生徒を含め、学習面や生活面において気になる生徒について、子ども一人一人の興味関心、レディネス、学習スタイル、強み・自助資源、援助資源などに基づいて「個別の指導計画」や「チーム援助計画」を協同で作成する。
1は、義務教育9年間の子どもたち一人一人の発達・成長のために学区の小中学校の教師が力を合わせるという意味で、この「フォローアップ」は重要です。
2については、もちろん『たった一つを変えるだけ~クラスも教師も自立する「質問づくり」』[新評論]、『ようこそ,一人ひとりをいかす教室へ~「違い」を力に変える学び方・教え方』[北大路書房]、『「学びの責任」は誰にあるのか:「責任の移行モデル」で授業が変わる』[新評論]がガイドになります。
3の取り組みを行う上で参考になるのが『石隈・田村式援助シートによる子ども参加型チーム援助』[図書文化]です。今までのチーム援助計画の作成に「当事者」である子ども本人の思い・願い・要望を取り入れて、子どもと一緒に学習や生活について考えていく画期的なものです。
これらの取り組みを通して、学校種の垣根を越えた教師同士の新たなコミュニティができ、様々な学びが生まれるはずです。ぜひチャレンジしてみてください。
★ これらを参考にしながら中学校で新入生のクラス編成をします。最近は、子ども理解ができている小学校の先生方にクラス編成をしてもらったり、中学校でクラス編成した案を小学校の先生に確認してもらったりしています。私の勤務してきた地域では、小学校6年生一人一人に関する情報収集は、中学校3年生の学級担任が小学校6年生の学級担任から聞き取りをして行います。さらに、特別支援学級の学級担任同士、養護教諭同士による情報交換を行います。
★★ 参加メンバーは、小学校6年生のときの学級担任と中学校1年生の学級担任(特別支援学級の担任も含みます)+生徒指導主任、特別支援教育コーディネーター、養護教諭、スクールカウンセラー、管理職です。
★★★ 具体的な進め方は、以下のとおりです。
(1)小学校の教員と中学校の教員が4~5人程度のグループをつくり(ほとんどの中学校区では小学校の教員の方が人数は多くなります)、単元開発する教科などを一つ選択します(小学校の教科でも中学校の教科でもかまいません)。
(2)(1)で選択した教科などで2学期あるいは3学期に学習する単元の中から、①「質問づくり」または②「「違い」を力に変える学び方・教え方」、あるいは③「「責任」の移行モデル」を基にして行う単元を選びます。
(3)(2)で選んだ単元について、単元の目標を考え、それを達成するために①~③のどのアプローチが適しているかを検討し、アプローチの仕方を決定します。
(4)(3)で決定したアプローチ方法に基づいて、単元の具体的な学習の流れ・学習活動についてグループで話し合い、単元の学習指導計画を作成します。
※実際には、(2)と(3)については、単元とアプローチ方法の両方を一緒に考えながら同時進行で選択・決定してよいと思います。
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