2017年9月3日日曜日

教科担任制と中学校教育


 今回のPLC便りでは、先月(8月6日)に引き続き、私の経験を通してみた「教科担任制」をとる中学校教育の良さや特徴、課題とその改善案について、考えてみました。 

複数の視点からの「情報共有」による多面的で総合的な生徒理解

 小学校の「学級担任制」と異なり、中学校は「教科担任制」をとっています。国語、社会、音楽、美術、道徳、学級活動、総合的な学習の時間など、13種類(教科)もある授業は、教科によって指導する「教科担任」が変わります。授業を通して子どもたちにかかわるのは、そのクラスの学級担任一人だけではなく、学級担任を含めた約10人もの教師です。子どもたち一人一人の学力や個性、社会性の伸長などに対する責任は、学級担任を中心としてその学級にかかわる「教師集団」全員が負うことになります。 

 しかし、かつての私もそうでしたが、生徒が何か問題行動(例:喫煙や他校の生徒とのケンカ)を起こせば、まず第一に責任を感じるのは、学級担任でした。責任を感じる必要はないのですが、親心というか、自分が受け持っている生徒が問題を起こしたことと自分自身の学級担任としてのかかわり方を引き寄せて考えたときに、学級担任として何かできたのではなかったのかと考えたからです。 

■生徒指導は、生徒理解に始まり、生徒理解に終わる

私が勤務した中学校では、学級担任が子どもたち一人一人の生徒理解を深め、生徒と学級担任との人間関係・信頼関係をつくるために、「構成的グループエンカウンター」や「ピアサポートプログラム」の継続実践を行ったり、「班ノート」や「生活記録ノート」に取り組んだりしていました。 

特に「生活記録ノート」は、子どもたちに家庭や休日の生活について書いてもらい、さらに学習や学校生活に関する「ふりかえり(気づいたことや感じたこと、考えたこと、疑問など)」や「悩み(気になること、困っていること)」などを書いてもらい、学級担任が生徒の相談にのったり、他の教職員と連携したりして子どもたちの学校生活適応促進の支援を行うためのものです。しかし、最近のいじめ報道を見ていると、この機能を十分に生かしきれていない中学校があり、極めて残念です。 

中学校は、教科によって指導者が変わるわけですから、当然、子どもたちは、それぞれの授業ごとに異なる表情を見せたり、違う態度をとったりします。時には、休み時間や放課後に、生徒自身が悩んでいることについて、学級担任以外の教師に話をしてきたりすることもあります。 

教科担任や養護教諭、部活動顧問などからの生徒一人一人に関する情報提供によって、はじめて学級担任は受け持っている子どもたちについて、多面的な生徒理解が可能となります。この意味で、中学校では、「総合的に生徒を理解する」ための「情報共有」が極めて重要になってきます。 

実際に多くの中学校では、毎週、開かれる「学年会」や「生徒指導部会」、「学年主任会」、「職員全体の打ち合わせ」★などで、生徒指導上の情報共有がなされ、すべての教職員が共通実践する内容が確認されます。 

しかし、「いじめ」が大きな問題に発展してしまうような中学校は、生徒指導上の情報共有がきちんとなされていないのだと思います。 

■確実な情報共有の仕方

 私が勤務した中学校における生徒指導上の情報共有について、紹介します。 

教職員全体での「打ち合わせ」を週に2回(月曜日と木曜日の朝15分間)行っていました。月曜日の朝の打ち合わせは、学校行事など教育課程に関する確認や連絡などが中心ですが、木曜日の打ち合わせは、まったく違いました。 

木曜日の朝は、諸連絡は一切行わず、前日の水曜日の3時間目に開かれた生徒指導部会(構成メンバー:生徒指導主任、学年副主任、特別支援教育コーディネーター、養護教諭、スクールカウンセラー、教頭、校長)で出された生徒指導上の問題や課題、気になること、改善策などについて、生徒指導主任が概要を報告し、必要に応じて各学年から補足説明を行い、教職員が共通実践することの確認がなされるといった内容でした。 

このような生徒指導上の「情報共有」を、毎週、教職員全体で行うことによって、問題行動の防止や改善といった予防的・開発的な生徒指導が可能となるのです。 

■中学校教育のポイントは、学年チームを中心としたチーム指導・チーム支援

中学校では、学校運営のキーパーソンは「学年主任」です。それは、学年主任を中心とした学年職員から構成される「学年チーム」によって、生徒指導・学習指導★★、林間学校や修学旅行などの学校行事の企画・運営が行われるからです。 

また、学年主任は、他の学年との連絡・調整だけでなく、教育課程にかかわること(教務主任)、生徒指導に関すること(生徒指導主任)、研修に関すること(研究主任)、特別支援教育に関すること(特別支援教育コーディネーター)etc.管理職への報告・連絡・相談を含め、様々な校内連携・コーディネーションを果たすことが求められています。 

つまり、学年主任には、学校運営に直結している学年運営に関するマネジメントを行うこととリーダーシップを発揮することだけでなく、コーディネーターとしての役割を果たすことが強く求められているのです。 

 毎週開催される「学年会」では、学年の子どもたちに関する生徒指導上あるいは学習指導上の問題について、それぞれの学級担任や教科担任から出され(情報共有し)、具体的な指導・支援の方針と方法について検討します。「事例検討会(ケース・カンファレンス)」と呼んでよいと思います。ここで大切なことは、学年のメンバーだけで話し合うのではなく、必要に応じて、養護教諭、特別支援教育コーディネーター、スクールカウンセラー、校長・教頭に参加してもらうということです。★★★ 

■課題:生徒指導が前面に出ていて、チームを生かした学習指導が弱い

中学校教育の強みは、「チーム」で子どもたちにかかわれることです。学校行事や生徒指導については、学年主任や生徒指導主任を中心にして、マネジメントやコーディネーションができていますが、こと学習指導に関しては弱いと思います。そこで、中学校教育の弱点である学習指導に関する改善案についての提案です。 

1.現在の教科の枠を取り払い、チームによるカリキュラム開発と授業実践を行う

2.学級複数担任制の実施 

 1について、参考になるのが、新潟県上越市立大手町小学校の取り組みです。大手町小学校では、これまでの11種類ある教科の枠を取り払い、「生活・総合」「ふれあい」「数理」「ことば」「創造・表現」「健康」の6つの学びの領域に編成し直して、カリキュラム開発・単元開発を行ってきたのです。中学校でも、13種類もある教科を7~8つの「学習チーム」に編成し直し、お互いに連携・協同しながら、カリキュラム開発とそれに基づく授業実践を行うことができるのではないでしょうか。 

 2については、これまで多くの中学校では、学級担任と「学年担任(副担任)」がいても朝の会や帰りの会、学級活動、道徳、総合的な学習の時間などは、学級担任が一人で授業を行っていました。これを改め、可能な範囲で学年担任(副担任)も学級担任と一緒にティームティーチングで、これらの教科の学習指導にあたるのです。このことによって、生徒理解もよりいっそう深まります。もちろん、これらの教科のカリキュラム開発・単元開発を学級担任と学年担任(副担任)とが協同で行うのです。 

 1はチャレンジングな提案かもしれませんが、2については、やろうとすればどの中学校でも実現できるものだと思います。 



★ 中学校では、小学校に比べて学級担任以外の「加配教員」の数が多く、「生徒指導部会」や「学年主任会」などは、時間割の中に組み込むことができます。小学校の場合は、これらの情報共有・共通実践の検討・確認を行うための時間を、放課後に設定せざるを得ないのです。ここが小学校と中学校との大きな違いです。 

★★ 学年チームによって行われる学習指導には、総合的な学習の時間のカリキュラム開発と授業実践、進路学習(職業体験学習を含めたキャリア教育)、放課後や夏休みなどに行われる補習・学習支援、学年全体で行う学年道徳や修学旅行などの事前学習などがあります。 

★★★ これは、学校心理学における「チーム援助」の発想です。学校心理学では、生徒のニーズに応じて問題解決を行うために、「自助資源」(その子の強み)と「援助資源」(その子が信頼している友人や教師、養護教諭など)を生かして、「援助チーム」(その子にかかわる人たち:学級担任、教科担任、養護教諭、保護者、スクールカウンセラーetc.)をコーディネーションし、その生徒への支援・援助を行っていくのです。

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