最近ある教育雑誌の依頼で小学校理科の指導法を解説する原稿を書きました。
テーマは小学校6年生理科の「太陽と月」です。
学習指導要領では、その内容が以下のように示されています。
月と太陽を観察し、月の位置や形と太陽の位置を調べ、月の形の見え方や表面の様子についての考えをもつことができるようにする。
ア 月の輝いている側に太陽があること。また、月の形の見え方は太陽と月の位置関係によって変わること。
イ 月の表面の様子は、太陽と違いがあること。
これを教科書通りに教えるのは面白くありません。
「Nurtiring Inquiry」の著者ピアースの方法から入ることにしました。子どもたちが読んだ本(この場合は、月や宇宙に関する本)をもとにして、議論を行わせます。そこでは、次のような台本に基づいて話し合いを行います。
リーダー:だれか読んだ本の中で一冊紹介してくれませんか。
メンバー:(本について説明する)
リーダー:だれか付け加えることはありますか。
メンバー:(話し合う時間をもらう)
リーダー:次に別な本を紹介してくれませんか。
・・・それまでの繰り返し
リーダー:だれか事実に関する質問をしてくれませんか。
メンバー:(質問が行われ、話し合いが行われる)
リーダー:だれか因果関係に関する質問をしてくれませんか。(以下略)
このような内容で議論が行われ、それが子どもたち自身によるブックレビューになっています。さらに。ピアースは自分たちが探究したことをもとにして、それを一冊の本にまとめるという活動もカリキュラムに組み込んでいます。
これによって無理なく「読む」「話す」「書く」という言語活動が展開されることになります。学習指導要領にも示されているように、学習活動の基盤となるのは,言語に関する能力であり各教科等においても言語活動を充実することが求められているのです。理科は観察・実験が中心の教科ですが、科学読み物などの「読み」も大切にしたいものです。
もう一つ小学校理科の授業実践を紹介します。
月の満ち欠けに関係する実践記録の一部です。
「Teaching Students to Think Like Scientists」
(Maria C.Grant他 2014 Solution Tree Press)に掲載された実践です。
【コア概念】
宇宙のなかの地球の位置を理解する
【授業の目標】
月の満ち欠けについて議論し、太陽。地球・月の位置関係によって月の満ち欠けが起きることを理解する
【焦点化する方略】
大きな声でテキストを朗読し、アイデアを共有するためのウェブページを作成する
【NGSSの関連】
昼と夜の長さが日ごとに変化することや夜空の星が季節的に変わることを図示することでそのパターンを説明できること
【CCSS(Common Core State Standards各州共通基礎スタンダード)との関連】
・「話す」「聞く」のスタンダード
トピックとテキストをもとにして、様々な仲間と一緒に自分や仲間の考えを発展させながら協働的な議論を効果的に進めること
(以下略)
この本に紹介されている授業実践者マルチネスによると、まず導入として「The Moon Book」(Gibbons,1998)とそれに関連する何冊かの本を朗読するそうです。このとき、同時に先ほどの図1のような月の満ち欠けを示す大きなポスターを黒板に掲示します。そして、子どもたちに次のように投げかけるのです。
「昨日の夜はほとんど満月だった。さて、明日の晩や来週は月の形はどうなるのだろう」
この教師は子どもたちにまず本とポスターによって情報を提供したのです。そして、最初の問いを投げかけました。そこで、さらに教師は次のように続けます。
「ポスターから月は地球の周りを回っていることがわかったね。私たちが最初に読んだ「The Moon Book」で太陽の光はこのポスターの右側からやってきていたね。太陽はかなり遠くにあるし、とても大きいからこのポスターには入りきらないので右側に書いてある。私たちが月を見ることができるのは、太陽に照らされているからなのかな。
私が地球上のここに立っていたとしたら(教師は月を観察する地球上の位置を示しながら)、太陽に面していない月のこちら側を見ることができるのかな。(新月の位置を指し示しながら)
これを新月と呼んでいる。新月は太陽の光で照らされている側が地球から見えないので私たちには何も見えないのだ。」
次に子どもたちの月に関するバックグラウンド情報を提供するために、「Glogster」という教材のウェブサイトを利用します。このサイトからは、NASAから提供された月の写真や「Expedition5」という宇宙飛行のミッションで撮影されたビデオクリップの映像などもダウンロードできるのです。こうして様々な映像資料やテキスト資料を利用して、多角的に授業を進めることができます。
まさにこの本のタイトルにある「Think Like Scientists」が可能になるわけです。教室内の閉じた知識ではなく、教室の外の社会とのつながりのある学びが実現できるということです。
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