2011年10月16日日曜日

職場感情について

前回の最後に、次の文章を紹介しました。


 「こうしたチームを機能させる際に大切なことは、お互いを大切にし合う文化というか習慣を学校に根づかせることで、これこそが校長のもっとも大切な役割の一つといえる。」(吉田新一郎「校長先生という仕事」平凡社新書p.183




 このような組織を作るためにまず校長がやることは、実態の把握です。


 要は「働きやすい職場」を作ることが企業と同様に求められているわけです。


 この点で参考になるのが、「職場は感情で変わる」(高橋克徳・講談社新書2009) 


です。この本の中で著者の高橋さんは次のように述べています。


組織にも感情がある。そう思ったことはないでしょうか。組織は人間ではないし、生物学的な意味での感情というものを持っているわけではありません。でも、組織自体が何か"ある種の感情"を持っているかのように感じたことはないでしょうか。たとえば、職場で見られる具体的な"感情"には、以下のようなパターンがあります。


・皆、元気がなくて、職場全体が暗くなっている。
・お互いにイライラして、攻撃的になっている。

・皆が保守的になっていて、殻に閉じこもっている感じがする。

・皆、イキイキとしていて、新しいことに取り組もうという活気がある。

・お互いを尊重しあい、助け合おうという温かい雰囲気がある。」



 「攻撃的な職場」において私も働いた経験があります。これは精神的にかなりきついですね。


 また、逆に「ぬるま湯的で」お互いに「馴れ合いの関係」になっている職場。確かに、気持ちは楽なのですが、これも人としての進歩がありません。


 そんな関係を、高橋さんはに4つに分類しました。(同書,p.18


・ギスギス感情  ・冷え冷え感情 


・あたたか感情  ・イキイキ感情  


 これは職場の実態を分類するときにとても役に立つと思います。


 「あたたかい」職場が行き過ぎると、「ぬるま湯」になります。


 また、一見すると一番よい「イキイキ感情」が行き過ぎると、その中の成員の一部が「燃え尽き感情」をもつようになってしまいます。


 校長は、職員との日常のコミュニケーションから自校がどのような「感情」に支配されているかをまず知ることが大切だと思います。そして、マイナス感情に支配されているときは、その原因を突き止めて、対処することが求められるでしょう。


 かつて勤務したある学校は、「ぬるま湯感情」に支配されていました。そこで、「あたたかさ」は残しつつも、「ピリッとした相互批判」のある人間関係を作り出すために校内研究会において、「批判的な友だち」という手法を持ち込んで自由にお互いの意見が言える関係を作るようにしてみました。(「批判的な友だち」については、たとえば「効果10倍の<学び>の技法」吉田新一郎・岩瀬直樹,PHP新書p.23を参照してください。)


 これによって次第に「ぬるま湯」状態が改善されていきました。


また、校長自身の人間性も重要な要素です。職員には厳しく言っても、自分自身の勤務態度や日ごろの行動がいい加減ではだれもついてこないでしょう。




 さて、「働きやすい職場」になっただけでは十分ではありません。


 次は、校長のリーダーシップです。これについても若干誤解している方がいるように思います。「リーダーシップ」というと、辣腕のリーダーが部下をぐいぐい引っ張っていくという典型的なイメージがありますが、それだけではないと思います。


企業経営では、「双方向性のリーダーシップ」が注目されているようですが、参考になると思います。(「ラーニング・リーダーシップ入門」牛尾奈緒美他・日本経済新聞出版社)部下が管理職からの一方的な指示で動くだけでなく、部下からの意見や提案も管理職に直接届くような「双方向性」が特徴です。学校は、何と言っても「学びの実現」が主たる目標ですから、校長が「学びを大切にする姿勢」を見せることが、リーダーシップの第一歩であると考えます。つまり、「学びのリーダーとしての校長」です。




「校長は自分が大切にしていることを、絶えずメッセージとして発信し続ける役割も担っています。まさに、動く広告塔でなければなりません。」(「効果10倍の<学び>の技法・吉田新一郎・PHP新書p.58




 つまり、「校長のリーダーシップ」は「自分が大切にしていること」を部下職員、児童生徒に対して、いつでもPRすることからスタートします。この姿勢が学校全体に影響するのだと思います。


 次に、先ほどの「双方向性」の考え方も含めて風通しのよい職場にするために、校長は部下職員とのコミュニケーションを大切にして、よりよい人間関係づくりに努めることが求められます。


 さらに、日々の仕事の中では、部下職員に対して、優先順位を明らかにしておくことが必要です。限られた時間と人材で、年々増加する事務量をこなしつつ、子どもたちへの指導にもあたるわけですから、「優先順位」の提示は大切です。私は年度始めに、たとえば諸計画の中で、これとこれは重要視するとはっきり宣言することにしています。それ以外は、計画がないのは困りますが、書類として揃っていれば「良し」とするということです。


この点をはっきりさせれば、職員は安心して仕事を重点化させられます。


 また、校務分掌の職務遂行にあたって、多くの教員は自分で考えて自主的に進められるか、少しアドバイスをすれば支障なく仕事ができる人がほとんどです。しかし、中には注意して見ていないと、うまく仕事を進められない人がいます。このタイプは放って置くと必ず大きな問題になります。ここは丁寧に助言や支援をしていくことが求められる場面です。この見極めが学校経営のポイントの一つと言ってもいいでしょう。


 最後に、学校は本来とても創造的な場であると思います。ところが、現実にはなかなかそのようにはなっていません。この「創造性」を引き出すには、「職場内で自由に発言できる雰囲気」が重要です。この自由な雰囲気をかもし出すのは学びのリーダーである校長の責任です。特に中学校、高校は概して、良くも悪くも個性的な教員が多いと感じます。その「個性」を生かせるかどうか、この点も校長という仕事の面白さであると思います。


 

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