2016年10月15日土曜日

先週の話題へのコメント


先週の話題「『ありがとう、さようなら』を読んで」についてコメントします。

 
私もこの記事を見るまで、この本のことは知りませんでした。

早速、取り寄せて読んでみました。
   

しかし、よくも悪くも、日本人が書く学校というのはこのレベルなんだろうな~、と思わされました。 何も変わっていかない、ということも含めて。

➡読んでみて、パートナーがこのような感想を抱いた理由が理解できました。

 
彼女の目はあくまでも作家の目や、なりたい教師になって満足している教師の目であって、よりよいものを子どもたちに提供することに生きがいを感じる教師の目ではないのです。

➡書かれている内容は、ほとんどすべてが授業以外の話です。体育祭、文化祭、修学旅行といった学校行事の様子や生徒会など。確かに、学校行事等で盛り上がったり、生徒と一緒に何かを作り上げたりするという面白さはあると思います。学校行事が果たす役割も重要です。しかし、授業以外は所詮脇役なのです。やはり主役は日々の授業。この授業の楽しさや面白さが語られなければ、学校教育を語ったことにはならないでしょう。
   

たとえば、理科の授業で目の前で起きた現象の裏側の「目に見えない」原理や法則がわかったときの不思議さや面白さ。歴史の授業で、歴史的な出来事の背景にある人々の苦悩や葛藤、思い、不条理なことなどを知ること。そのような場面を仲間とともに学ぶ喜び。あるいは生徒とともに、また保護者や地域の人々のサポートを得ながら学習活動を展開していく授業づくり。本来ならば、そのような授業の場面こそ、学校をテーマにした物語に相応しいと思います。
   

『ありがとう、さようなら』のような本が、世に出る仕組みや構造(=日本の出版のあり方やそれを取り巻く社会のあり方)まで考えさせられてしまいました。

➡授業づくりに関係する翻訳本などを出版することの難しさを知ると、今の出版業界のあり方について考えさせられます。

 
物理教育に長年携わっていた川勝 博さんが書かれた「理科教育法講義」(海鳴社2016)には、理科のカリキュラムづくりに取り組む教師や教師志望の学生たちの様子が描かれていますが、そのような取組が学校の中でもっと広まっていくといいなと思います。
   

※この文章を書きあげた後に、レイフ・エスキス「教師としていちばん大切なこと」を手にすることができたので、少し読み始めました。こちらはやはり授業の中での子供とのやりとりや子供たちのためにどんなことができるのかを懸命に追究した教師の物語が描かれています。彼我の差は大きいです。

 

2016年10月9日日曜日

瀬尾まいこ著『ありがとう、さようなら』を読んで


どういう経緯でこの本を読むことになったのかは 覚えていません。

現役の中学校の国語の先生をしながら、文学賞を3つもとりながら作家・執筆活動をされている方とか。(これを書いた当時は。いまは、執筆業に専念されているようです。)
ウィキペディアには「日常生活のなかにある温かな気持ちを描くのが秀逸で、いずれの作品も読後に じんわりとした感動を与えてくれる」と書いてあります。(いま探しましたが、この引用箇所は見つかりませんでした!)

しかし、よくも悪くも、日本人が書く学校というのはこのレベルなんだろうな~、と思わされました。
何も変わっていかない、ということも含めて。

彼女の目はあくまでも作家の目や、なりたい教師になって満足している教師の目であって、よりよいものを子どもたちに提供することに生きがいを感じる教師の目ではないのです。

たとえば、2冊の翻訳が出ているレイフ・エスキスが書いている本など比較してしまうと...
(ランディ・パウシュの本もかな?)

『ありがとう、さようなら』のような本が、世に出る仕組みや構造(=日本の出版のあり方やそれを取り巻く社会のあり方)まで考えさせられてしまいました。★★★

上に書いたことって、RW★やPLC★★とは関係ないでしょうか?
それとも、関係ありますか?

ぜひ、反応をお願いします。

★★ http://projectbetterschool.blogspot.jp/ で扱っているテーマのことです。
★★★ 実は、今回紹介している文章のオリジナルを書いたのは6年半前の2010年1月でした。( )は、今回付け足しました。従って、今となっては「『ありがとう、さようなら』のような本」の中には、このブログでも紹介した木村 泰子著の『「みんなの学校」が教えてくれたこと: 学び合いと育ち合いを見届けた3290日』も含まれる気がします。
でも、売れないのを分かっていながら、イギリスの学校の紹介本を出してくれる出版社がまだ存在していることが救いです。
★★★★ 瀬戸さんは作家としては優れていると思います。たくさんの子どもたち(と大人たちも?)の指示を受けていますから。単に、優れた作家=教育の担い手あるいは変革者ではないということだと思います。(しかし、このズレによってつくり出される間違ったイメージを修正することは、容易ではありません。)


2016年10月2日日曜日

授業改善を促す学びの共同体(PLC)


4週間前のPLC便りでは、校長のサーバント・リーダーシップとPLC及び授業改善との関係が取り上げられ、さらに2週間前には、サーバント・リーダーになるための方法が紹介されました。

今回は、教師個々の授業改善に直接の影響を及ぼす学校内のPLC・教師同士の学びの共同体について、考えてみました。

 PLCを形成・構築し、さらに活性化するための条件は、大きく分けて次の4つであると思います。

1 PLCを支える学校組織風土・学校文化の醸成
2 ビジョンの共有
3 授業実践や学習に関する情報共有
4 チームによる学びの推進

 この中の1に関する実践について、私自身の学校現場での経験に基づいて、紹介します。

 教師同士の学びの共同体PLCが形成されるためには、まず、その土台として次のような「学校文化・学校組織風土」が醸成されていることが必要です。
① 教職員一人一人、子どもたち一人一人が、「かけがえのない存在」として大切にされている。
② 初任者やベテラン教師、管理職を含め、良い意味でお互いに何でも言い合える「温かく受容的な人間関係・雰囲気」がある。
授業改善などに関する新しい取り組みやアイディアを受け入れ、「試行錯誤」したり「チャレンジ」したりすることが奨励されている。
教師一人一人が、自分の担当する学級や学年の子どもたちのことだけでなく、学校全体の子どもたちのことを考え、子ども一人一人の「成長と学びに対する責任」を意識している。
⑤ 困っている教職員がいると、学年や教科、分掌を超えて「情報提供」をしたり、親身になって「相談」に応じてくれる仲間がいる。

 以上のことは、それぞれが学校教育を進めていくうえで、「当たり前のこと」「常識」「基本的なこと」であると思われることです。

 しかし、実際の学校現場では、これらの学校教育の「常識」「基本」「当然のこと」と考えられていることが、なかなか実現されていないことが、往々にしてあるのです。

◆学校に勤務する誰もが、学校教育を担う一人のメンバーとして、子どもたちのために、学校のため、誰かのために役に立っているという教職員としての「自己有用感」をもって、日々の教育活動にあたりたいと思っているはずです。そして、教職員一人一人に、「私たちの学校」「うちの学校では」という我々意識、つまり、学校に対する「所属感・帰属意識」をもってもらえるようにすることが、授業改善に直接つながるPLCの形成・構築にとっても、極めて重要なことです。

■私は、校長のときに、学期ごと(正確には、7月、10月、12月、3月の年4回)に、事務職員や栄養士なども含めた教職員全体で、「ありがとうカード」という構成的グループ・エンカウンター(以下、SGE)のエクササイズを実施していました。目的は、教職員一人一人の「自己有用感」を育て、「教職員同士の温かな人間関係」を創ることです。

このエクササイズは、ご存知の方も多いと思いますが、教職員それそれが、その学期をふりかえり、他の仲間(同僚:先輩・後輩、管理職)とのそれまでの「かかわり」を思い出して、仲間からの「言葉かけ」や「してもらったこと」、「助けてもらったこと」、「嬉しかったこと」などを、一人につき1枚ずつ「ありがとうカード」に書いていくのです。そして、そのカードを、「ありがとう!」「ありがとうございます!という感謝の言葉と一緒に仲間に手渡しするというものです。学級担任のときは、もちろん、このエクササイズを自分のクラスで、学期ごと、さらに学校行事の「ふりかえり」として行ってきました。

■もう一つ、年度の途中10月から、私が校長として勤務していた学校に初めて赴任してきた転入職員(学級担任としての経験もほとんどない講師)が、学校のシステムや子どもたちの実態を早く知り、学校教育を推進していく大切なメンバーの一人として、見通しをもって、不安なく学級担任として、力を発揮してもらうために行ったことがあります。

それは、毎日、放課後30分程度、学年職員全員(といってもわずか3名の学級担任、うち一人は初任者)が校長室に集まり、学年主任(校内事情で10から初めて学年主任をすることになった30代前半の教師)が中心となって、その日の各学級担任の「ふりかえり」と「明日の授業実践や学年の動き・学校行事の確認」を行い、転入職員からの質問を受けて、わからないことや不安なことがないようにするというものでした。

校長の私は、自分の椅子に座っていて、たまに私がわかないことを質問する程度で、ほとんど見守っているだけでした。校長室での放課後の毎日のこの取り組みは、1カ月ほど行いましたが、その後は、学年職員だけで転入職員の教室や学年主任の教室で継続して、年度末まで行われました。

2016年9月25日日曜日

博物館の日


先日の三連休でシンガポールに行ってきました。

National Gallery Singaporeという美術館を見学したのですが、ここは旧裁判所と旧市庁舎の建物を改装して昨年11月にオープンした施設です。展示されている美術品も素晴らしいのですが、かつての裁判所などの建物をうまく活用していて、それ自体が一つの美術品のようなものでした。
 
 旅行記はそれぐらいにして本題に入りますが、その美術館の中を歩いているときに、ふと思い出したのが、かつてここでも紹介した『イギリス教育の未来を拓く小学校』(大修館書店2015)の中の「博物館の日」の一節でした。 

この学校のサイモン先生が自分のクラス(6年生)で、下級生と博物館を一緒に訪問する活動を計画しました。その訪問では下級生に6年生が活動を提供するというプログラムです。子供たちは「理科」と「歴史」に関連する活動を考え、放課後、博物館の学芸員に連絡を取り、自分たちのアイデアが実行可能で、使いたいと思っているものが利用可能かどうかを確認するのです。訪問当日、サイモン先生のクラスの子供たちは下級生のために資料を配ったり、活動の説明をしたり、案内をしたりと、すべて彼らだけでやり遂げたのです。

その結果、この活動に参加したすべての人が満足し、大成功をおさめたそうです。 

この活動終了後、インタビューを受けたサイモン先生のクラスの子供は「初めてミル・グリーン博物館に行ったとき、『聞いて学ぶ博物館』だろうと思っていました。でも、関わり始めて、面白くてわくわくするところだと気づきました。・・・」(同書78)

このように博物館の利用もただ見学して説明を聞くだけでなく、子供自身が自ら学びの主体となる学習の場とすることもできるわけです。この考え方は学校の教育活動の様々な場面で応用できるものだと思います。確かに、教科書に頼る授業をやっているほうが教師にとっては手間もかからず楽です。それでは、「学びから逃げていく」子供たちを減らすことはできません。それが学校内外で様々な問題行動を引き起こしていることはみなさんご存じの通りです。

では、何から手をつけるべきか。まずは本を読むことをお薦めします。

カリキュラムをベースにした授業を作り上げていくためには、教師自身の幅広い教養が必要です。もちろん教科の専門性も必要でしょう。それと合わせて「教養」が大切です。

子供たちがわくわくするような授業を作るためには、時にはその教科だけではなく、いくつかの教科を横断するような学習を構想する場面があると思います。そのようなときに日頃の読書からのヒントや示唆が役立つのです。自分一人で、読書を続けるのが苦手な人は、数人のグループで読書会のような形で進めるのもよいのではないでしょうか。

 

2016年9月18日日曜日

サーバント・リーダーになる一つの確実な方法


2週間前のサーバント・リーダーシップには、かなりのリーチ数 がありました。

それは、言葉が目新しかったからでしょうか?
図が分かりやすかったからでしょうか?
校長への期待からでしょうか?
サーバント・リーダーに求められるものが提示されていたからでしょうか?
(身近な校長は、どの項目はすでに抑えていたでしょうか? これらの項目というか資質の抑え方は大事ですね。項目だけでは、なかなか自分のものにできない人が多いので!)

今回は、その分かりやすかった図(図1を参照)に焦点を当てて解説をしてみます。

まず、この図から分かることは、
サーバント・リーダー的な校長がいないと、学校をPLCプロの教師集団として学び続けるコミュニティ)にすることはできず、従って教師一人ひとりの授業改善も実現しないことを意味します。

①それでは、サーバント・リーダーといえる校長が日本の小・中・高にどれくらいいるかというと、残念ながらウン十人に一人いるかいないかが現状です。
「だから授業改善が一向に進まないのか!」と、皆さん納得してしまったでしょうか!

②従って、PLCはなかなか築けません。
それどころか、以下のような悲しい課題群(図2を参照=出典は『校長先生という仕事』の130ページ)を抱えたままです。
PLCが築けていませんから、いくら校内研究(授業研究)・校内研修に時間を費やしても、授業改善にはつながりません。授業改善は、イベントでは到底無理なので。

それでは、この図を実現する方法はあるのか?

あります。

少し時間は掛かりますが、確実な方法が。(唯一の方法ではありませんが、その容易さからして、最も確率の高い方法だと思います。)
それは、皆さんが教師であるうちからライティング・ワークショップ(作家の時間=WW)とリーディング・ワークショップ(読書家の時間=RW)を実践することです。★
これらは、図に描かれていることを確実に教室単位で毎週2~3回やり続ける(=練習し続ける)ことだからです。★★

①まず、WWRWを実践するということは、教師がサーバント・リーダーにならないとできません。はっきりと主役の転換が求められるのです。主役が教師か教科書である限りは、WWRWは成立しません。

②次に、PLCの代わりに、SLC=Student Learning Community=生徒たちの書き手/読み手/学び手が確実に築かれます。
http://wwletter.blogspot.jp/2010/05/ww.html の5番目と3番目の要素をご覧ください。(残りの要素も、各自が確実に自立した書き手/読み手/学び手になるのに不可欠です。)

③そのような学びが頻繁に起こっていると、自ずと生徒たち一人ひとりの学びの質と量は格段に向上する(WWの場合は書く力がつき、RWの場合は読む力がつく)と同時に、教師の授業力も向上し続けます。

以上は、国語の場合ですが、WWRWは容易に他教科に転用できますので、すべての教科で実践できます。★★★

サーバント・リーダーに興味をもたれた/なりたい方で、まだWWRW関連の本を読まれていない方は、『リーディング・ワークショップ』『読書家の時間』『ライティング・ワークショップ』『作家の時間』そして『理解するってどういうこと?』をぜひお読みください。


★ その対極にあるのが校長研修です。校長になってからサーバント・リーダーを期待しても無理です。また、校長研修の前に行われるたくさんの義務研修ももちろん役に立ちません。

★★ それほど授業と学校運営は同じことなの(=入れ子状態になっているの)ですが、そのようには理解されていないところに、学校が変われない原因があるのかもしれません。それとも、まずい学校運営=リーダーシップの練習を長年まずい授業でやり続けているということでしょうか? でも、それじゃ、好循環の逆の悪循環をあえてしていることになりますね! (ここでの最も重要なポイントは、「サイクルを回し続ける」ということです。)

★★★ ちなみに、親との関係(PTA)にさえ転用可能です。というか、いまのままのPTAでは、あまりにも貴重な才能の無駄遣いをし続けるだけに過ぎません。もったいないこと極まりないです。親との関係においても、主役は誰か、脇役は誰かを考えてみたら、どういう関係を築いて、どういうことをしていくのがいい/どういうことが具体的にできるのか、自ずと明らかになります。最初のボタンの掛け違えがあると、ずっとおかしなことをやり続けたままです。


2016年9月11日日曜日

ブログを書こう!


 ブログを書き続けることのメリットは、書き続ける本人にとってはもちろんのこと、それを読む読者たちにとっても極めて大きなものがあります。

・まず自分の実践を文字化/見える化することで、客観的になれます。分析的になれるというか。
・常に考え続けることにもなります。何を書くか。
・想定する読者のことも意識します。
・よりいいことを書きたいので、よりいい実践をすることを自分に課すことになります。

ここまで書いて、似たようなリストを前につくったことを思い出しました。
『「学び」で組織は成長する』の第1章「一人でできる学び」の最初の事例として紹介した「ジャーナル」の中にありました。
以下は、その(36~37ページ)コピーです。

ジャーナルは非公開ですが、ブログは公開という大きな違いはありますが、得るものはほとんど同じと言っていいと思います。(読者からの反応があるのは、ブログの大きなメリットです!)

従って、書かない限りは、これらはすべて得られないことを意味します。
それは、極めてもったいないです!
(イヤ、書かなくても、似たようなことは考えているとは思います。しかし、記録に残さないので、記憶にも残らないだけ、という気がします。従って、記憶に残すためにも、書くことは大切です。記憶に残らなくても、いつでも、見返すことができます! そしてブログなら、自分だけの財産ではなく、共有の財産になるのですから、恩恵を受ける人の数はジャーナルの比ではありません!)

38~39ページには、書き方のアドバイスまでしてありました。


ブログを書くことで、近い将来子どもたちがもつことになる電子ポートフォリオ(紙媒体のものをファイルに入れた従来のポートフォリオではなく、すべてを電子化したもの★)のモデルづくりの練習にもなります。

今回の記事を書く気になったのは、
を見たからです。★★
なんと、教師によるブログの賞まであるというのです。
ブログの質は、確実に実践の質を反映し(あるいは、影響し)、それが共有されることで全体の教育の質に影響していきます。
逆に、その数が少なかったり、質が高くないと、逆の状況に陥っていることを意味します。
そうならないためにも、皆さん、ぜひブログを書きましょう。それも高品質のものを目指して。


★ ちなみに、これがあると従来の成績表が必要なくなります。(いまも、すでに価値をほとんど失っており、教師を多忙にしているだけですが・・・だから「なくしましょう」と言っても、なくなるはずもなく・・・しかし、①子どもたちの学びに貢献し、②教師の指導を改善し、③成績表よりもはるかに保護者たちにも分かりやすく、④教師のものは人事考課にそのまま使うことができる媒体が登場したら、誰も反対のしようがありません!)

★★ 他にも、「blogs by writing teachers」「blogs by reading teachers」「blogs by school principals」「blogs by school leaders」などで検索すると、おもしろいブログがたくさん見つかります。 (当然のことながら、これだけあると、見極める力が求められます。どれは読む価値があって、どれはないかの。もちろん、その前提としての英語力もですが。)日本語でも、これらと争うような内容のものが早く増えることを祈っています。




2016年9月4日日曜日

校長のサーバント・リーダーシップと授業改善


学校組織に関する研究によれば、校長のリーダーシップ(リーダーとしての行動)が、教職員のやる気・モチベーションを高めたり、授業改善を促進したりするということが、かなり以前から明らかになっています。 

直感的に考えれば、これは、当然のことと思われることですが、それを校長や教師、保護者、児童生徒に対する質問紙調査(量的研究)やインタビュー調査(質的研究)などによって、明らかにしようとする実証的な研究が、国内外で行われています。 

露口(2012によれば、校長のサーバント・リーダーシップ(校長の児童生徒・保護者・教職員に対する奉仕・貢献志向のリーダーとしての行動)が、校内の教師同士・教育の専門家による学習共同体(professional learning community:以下PLC)の形成と機能を促進し、そのPLCを媒介として(PLCでの様々な活動や教師同士のコミュニケーションなどによる相互作用を通して)、教師個々の授業改善が図られるというのです。 

もちろん、このことは、既に『「学び」で組織は成長する』(吉田新一郎)の第5章「学びのリーダーに求められること」や『校長先生という仕事』(同上)の中で、具体的な事例や方法論と共に述べられていることです。

 露口の調査研究で得られたこと(影響関係)を単純化して図示すると、次のとおりです。

校長のサーバント・リーダーシップは、以下の10個の要素に分けられます。★★

1 傾聴:人の話をしっかりと聴く。

2 共感:人の気持ちを理解し、共感する。

3 安心感:学校における精神的・情緒的な問題を解決・克服する。

4 気づき:自分自身と所属組織・学校を正確に理解する。

5 説得:職務権限や強制力を使用しないで、人を納得させる。

6 概念化:希望の見えるビジョンを示す。

7 先見性:未来を予測する。

8 貢献の美徳:個人または学校組織による社会貢献の価値を説く。

9 成長への関与:教職員と児童生徒の成長を支援する。

10  コミュニティの創造:学校組織における共同体意識を創造する。 

 「傾聴」と「共感」、は、教職員や児童生徒、保護者との「信頼関係」をつくるうえで、最も重要なものです。また、「安心感」のある学校、すなわち教職員や子どもたちが安心して学校生活を送れるということは、学校における学びを豊かにするための基本・土台です。 

自分たちの学校の「現在地」を明らかにし、目指すべき「目的地」を教職員・児童生徒・保護者と共有し、現在地から目的地への「移行手段」を、教職員を中心として、児童生徒・保護者とも協同して創出するためには、上記の「傾聴」「共感」と併せて「気づき」「説得」「概念化」「先見性」は、学校のリーダーとして必要な能力です。 

成長への関与」は、子どもたちの成長・発達促進という学校の使命から考えれば、当たり前のことです。ここでのポイントは、授業や学校行事などを通して、子どもたちの成長に直接かかわる「教師の成長を支援すること」だと思います。 

そして、「貢献の美徳」と「コミュニティの創造」が、学びの共同体PLCの形成・活性化を促進するうえで、極めて重要です。 

人は、お互いに困っている人を助け合ったり、支援したり【他者貢献・利他・相互支援】、新たなカリキュラムを開発したり、子どもたちの学びを促進するためのアクションリサーチを行うなど、何かを力を合わせて一緒に創り出したりすること【連携・協同】を通して、「同僚性」や「共同体感覚」が生まれてくるからです。 

校長という存在は、良い意味でも悪い意味でも、教職員や子どもたち、そして保護者に対する「影響力」をもっています。「校長のサーバント・リーダーシップ」の10個の要素が、互いに学び合う学校をつくるという目的地に向かって、校長自身が良い影響力を及ぼすための手がかりの一つになると思います。 

PLCの形成と機能の活性化を促進するための具体的な手立てについては、『「学び」で組織は成長する』や『校長先生という仕事』のパート3「学校改革の担い手としての校長先生の仕事」に書かれていることが、とても参考になり実際に役に立ちます。 

 露口健司(2012)『学校組織の信頼』大学教育出版, 特に、第9章「授業力を高める組織とリーダーシップ」及び第10章「授業改善のためのリーダーシップ実践」 

★★ 小島弘道・淵上克義・露口健司(2010)『スクールリーダーシップ』学文社,150-153,原典:SpearsL.C.1998Insights of leadershipServicestewardshipspirit and servant-leadership NYJohn Wiley & Sons