2026年11月1日日曜日

計画性と偶然性

20世紀の名スピーチの一つに数えられるのが、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチだと思います。★1 クロージングで、“Stay hungry, Stay foolish.”(貪欲であれ、常識にとらわれず挑戦せよ)と問いかけ、若者たちに、自らの心に従って、生きよというメッセージを力強く発しました。

彼が語った3つのエピソードの中で、特に印象に残っているが、「点と点をつなぐ(Connecting the Dots)」です。入学したばかりの大学に意義を見出せず、専攻とは関係のない授業に潜り込んだ。その一つが書道(Calligraphy)だったというのです。その美しさに魅せられて、夢中になって学んだと語っています。その後、Apple社を創設し、次々と革新的なディバイスを世に出していきます。マッケントッシュ(世界初のパソコン=パーソナルコンピューター)を作る時、その画面のフォントを決めるのに、その時の書道がとても役に立ったというのです。あの時に、書道の授業に潜り込んでいなければ、現在世の中にあるコンピューター画面は、今のように見やすい文字表記を実現できていなかっただろうと。

「そんな先々のことまで考えて点と点をつなげてみるようなことはできませんでした。しかし10年後からふり返ってみると、非常にはっきりと見えるわけです。繰り返しますが、先を読んで点と点をつなぐことはできません。後からふり返って初めてできるわけです。」(原文: Of course it was impossible to connect the dots looking forward when I was in college. But it was very, very clear looking backwards ten years later.Again, you can't connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. )

なので、先のことを考えて、今やろうとすることを放棄するな!今、目の前にある、心惹かれるものに、そして、自分の心に従うべきだと。

ジョブズの提案は、一般的に言われているキャリア・プランニングとは、正反対のことですね。キャリア教育では、自分の将来の理想像やなりたい姿から逆算して、いつまでに・どのような経験やスキルを積み上げていくかという道筋を描くことが大切だとする考え方がある。

むしろ、私たちは、どちらの道筋もあるということを認識しておく必要があるのかもしれません。

ジョブズの「点と点をつなぐ」というエピソードを聞いて、思い出したのが「プランド・ハップンスタンス(Planned Happenstance)という考え方でした。★2 「計画された偶然性」という意味で、幸運な偶然が起きやすくなる行動特性があるという考え方です。スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した比較的新しいキャリア論らしく、偶発性とキャリア形成の関係を示すものとして注目を集めました。

このような幸運な偶然が起きやすくなる行動特性として、次のようなものが挙げられています。 

好奇心(Curiosity):新しいことに興味を持ち続ける 
持続性(Persistence):失敗してもあきらめずに努力する 
楽観性(Optimism):何事もポジティブに考える 
柔軟性(Flexibility):こだわりすぎずに柔軟な姿勢をとる 
冒険心(Risk Taking):結果がわからなくても挑戦する 

計画通りに、緻密に歩める人もいます。一方で、新しい事にチャレンジしながら、新しい自分を発見し、成長していく人もいる。一つの道筋に決めつける事なく、共に歩みながら、見守っていくことが求められるのではないでしょうか。

人生が咲き誇るまでの道筋はさまざまでいい。


★1 Steve Jobs, Stanford Commencement Address, 2005 

https://youtu.be/RWsFs6yTiGQ?si=MVNTEmIwQhTmK5DH

★2 山崎亮(2012)『コミュニティデザインの時代』中公新書,p.223-226.
J.D.クランボルツ&A.S.レビン(2005)『幸運は偶然ではないんです!』ダイヤモンド社

0 件のコメント:

コメントを投稿