あなたの教室や学校では、「説明ないし指示(instructions)」と「実際の学習(instruction)★★★」のどちらに、どれくらい時間を使っているでしょうか。少し計算してみましょう。
もし中学校や高校の教師が、1コマ50分の授業で毎回10分を説明に使い、それが年間180日続くと、合計で36コマ分が「指示を伝える時間」になります。
また、小学校の教師が、1日の流れを説明するのに5分、学習センター★の説明に10分、さらに算数・理科・社会などでさまざまな課題の説明にもう5分使うと、1日あたり約45分(あるいはそれ以上)が説明に費やされます。これは年間にすると約22日分に相当します。
1回1回の説明や指示は大した時間に見えませんが、積み重ねると、実際の学習以外のことに使われる時間が大きくなってしまうのです。
もちろん、生徒が「自分に何が求められているのか」を知ることは大切であり、課題や期待を説明するために時間を使う必要はあります。もし説明が一度で完全に理解されるのであれば、その時間は良い投資と言えるでしょう。しかし実際にはどうでしょうか。教師が説明を終えた直後に、生徒が確認の質問をしてくることはどれくらいありますか。また、課題や活動、宿題に取り組む途中で、追加の説明を必要とする生徒はどれほどいるでしょうか。
Doug がある3年生のクラスを観察したとき、教師は学習センター★で生徒が何をするのかを説明するのに13分を費やしていました。しかも説明を始めたのは、子どもたちが休み時間から戻ってきて4分後のことでした。これらは生徒にとって初めての課題でした。いざ活動を始めようとしたとき、Marco は「どのセンター★に行けばいいの?」と尋ね、Jiovanni は語彙の課題が理解できず手を挙げ、Karina は自分のジャーナルを探して教室内を歩き回っていました。生徒たちが実際に活動を始められたのは、合計17分が経過した後でした。
一方、別のクラスでは、子どもたちが教室に入った瞬間、教師はすぐに行動に移りました。生徒たちに、すでに慣れているタスクを思い出させ、センター★に移動して作業を始めるよう促しました。その後、4人の生徒の名前を呼び、教師の机に来るように指示しました。生徒たちは教室に入ってから2分以内に学習に取りかかっていました。
生徒が学習に使える時間を最大化するために、優れた教師たちは次の三つのことを実践しています。
- 時間通りに始めること。
- 授業のために割り当てられた時間をすべて使い切ること。
- 生徒が理解し、慣れている一貫した指導方法を活用すること。
最初の二つは、かなり常識的かと思いますので、簡潔バージョンで紹介します。
1. 時間通りに始める
授業の最初の数分をどう使うかは、学習時間の確保に直結します。実際、多くの生徒は授業開始を待つだけの時間を過ごしており、その積み重ねは大きなロスになります。一方、優れた教師は、授業がスタートした瞬間から学習が始まるようにルーティンを整えています。出欠確認が必要でも、(教師の説明を待たずに)「Do Now」やチャレンジ課題、ジャーナルなど、生徒がすぐ取り組める活動を用意し、待ち時間を最小限にしています。こうした工夫が、年間を通して大きな学習時間の差を生むのです。
2. 1分たりともムダにしない
授業が予定より早く終わってしまうことは、誰にでもあります。しかし、そのときに何の準備もなければ、せっかくの学習時間が失われてしまいます。教育者 Madeline Hunter は、この問題に対して「スポンジ活動(sponge activity)」という言葉を作りました。これは「本来失われてしまう貴重な時間を吸収する学習活動」のことです。彼女は、スポンジ活動には次の二つが必要だと考えていました。
- 既習内容の復習に焦点を当てること
- 分散練習(繰り返しの練習)の機会を提供すること
優れた教師は、残り数分を「吸収」するための工夫をいくつも持っています。
3. ルーティンを確立し、それを使い続ける
授業に唯一の正しい方法があるわけではなく、どんな指導法でもすべての生徒に必ず効果があるとは限りません。しかし、指導のルーティンを頻繁に変えると、生徒は混乱し、何をすればよいのかを説明するために貴重な時間を使わざるを得なくなります。特に小学校では、教師がセンター活動を「新鮮さを保つため」に毎週、あるいは隔週で変えることがよくあります。その結果、生徒は活動に慣れる前に次の新しい活動に移ってしまい、上達する機会がほとんどありません。
例えば、ある2年生の教師はリスニング(聴くことで学ぶ)センターを導入し、毎日同じ手順で使い続けました。変えるのは内容だけで、活動そのものは変えませんでした。教師は最初に、機器の使い方や求められる成果物について丁寧に説明し、生徒が理解できるように時間をかけました。しかし、その後はもう説明する必要がなくなり、何週間も生徒たちは追加説明なしでリスニング・センターに取り組むことができました。
学校全体でルーティンを統一している場合もあり、一度生徒が覚えれば、どの教師でも同じ方法を使うことができます。私たちが知っているある小学校では、学年ごとに協働学習のルーティンを三つ決め、同じ学年の教師全員がその三つを必ず教えることに合意しました。ほかのルーティンを教えることは自由ですが、この三つは必須とされました。
たとえば、幼稚園年長チーム(日本の小1に相当)が採用したルーティンは次の三つです。
● Busy bees(忙しい蜂たち)
子どもたちはハチの羽音やゆっくりした動きをまねしながら教室内を歩き回り、パートナーを探します。教師が「Busy bees, fly!」と言うと動き始め、「Busy bees, land!」と言った瞬間に近くにいる子がパートナーになります。その相手と、意見交換・質問への回答・簡単な算数などの短い学習活動を行います。
● Language experience(言葉の体験)
子どもたちは、絵や共通体験を説明する言葉やフレーズを出し合い、教師がそれを模造紙に書き留めます。ペアでその言葉を使って文を作り、教師が記録します。次に、教師が文を並べ替えて段落にまとめる過程を示し、子どもたちは発音練習・音読・書き写しを行います。文をカードに書いて段落を組み立て直したり、単語に切り分けて再構成したり、新しい段落を作ったりすることもできます。
● Inside/outside circles(内側と外側のサークル)
内側と外側の二重円をつくり、向かい合って立つ(または座る)活動です。教師が質問を出し、向かい合ったペアが短く意見を交わします。合図があったら外側の円が一つ左に回り、新しい相手と話します。これを数回繰り返します。毎回同じ質問でも、関連する別の質問でもよく、教師のねらいに応じて調整できます。
子どもたちがこの三つのルーティンをしっかり学び、練習していたおかげで、この学校の幼稚園チームは、代替教員が来た日でも授業が途切れずスムーズに進むことに気づきました。さらに、メディア・スペシャリスト(図書担当)や美術の先生も、同じルーティンをそのまま活用できました。
時間がたつにつれ、チームは翌年の1年生の初日がより効率的になることにも気づきました。どの先生のクラスに進級しても、子どもたちはすでに協働の仕方を理解しているため、学習がスムーズに始められるからです。
別の例として、サンディエゴの
Health Sciences High(健康科学を重視した高校;筆者二人がディレクターを務めている)の教師たちは、生徒全員が身につけるべき五つの協働学習ルーティンを決めました。もちろん、教師が他のルーティンを使うこともできますが、そのたびに説明が必要になり、貴重な時間が失われてしまいます。そこで、次の五つを共通ルーティンとして選びました。
● Reciprocal teaching(互いに教え合う)
4人グループで同じ文章を読み、各自が「要約者」「質問者」「明確化する人」「予測する人」という役割を担当します。これらの役割は、説明文を理解するために必要な方法★★に対応しています。文章は短い区切りに分けられ、グループはその都度立ち止まって話し合います。
● Jigsaw(ジグソー)
生徒は「ホームグループ」と「専門家グループ」の二つに所属します。まずホームグループで文章を分担し、同じ担当をもつ生徒同士が専門家グループに集まります。専門家グループでは自分の担当部分を読み、理解し、ホームグループでどのように教えるかを練習します。その後ホームグループに戻り、互いに専門家グループで学んだことを教え合い、最後に再び専門家グループに戻って、自分の担当が全体の中でどう位置づけられたかを話し合います。
● Discussion roundtable(意見交換ラウンド)
4人グループになり、紙を四つの区画に折ります。まず左上に(読書や動画の感想などの)自分の考えを書き、その後、他のメンバーが話した内容を残りの3区画にメモします。最終的に、グループ全員の視点が一枚の紙に整理されます。
● Text rendering(重要表現の抽出と共有)
文章を読み、重要な点に注目します。読み終えたら、まず「理解に役立つ一文章」を共有し、次に「印象に残ったフレーズ」、最後に「心に響いた一つの言葉」を共有します(それぞれ記録します)。その後、出てきた文章・フレーズ・言葉をもとにグループで内容を深めます。
● Five-word summary(五つの言葉で要約)
文章を読み、内容を表す五つの言葉を選びます。まずペアで話し合って五つの言葉に合意し、次に別のペアと合流して四人で再度五つ言葉を決めます。最後に、その五つの言葉を使ってグループとしての要約文を作成します。
ここで大事なのは、紹介した特定のルーティンをそのまま真似することではありません。むしろ、ルーティンが「instruction(教えること)」と「instructions(やり方の説明)」のバランスにどんな影響を与えるかを考えることです。生徒が「何をすればよいのか」を理解していれば、授業の“やり方”の説明ではなく、“学ぶ内容”に集中しやすくなります。
時間を味方につける授業 ~ 教師の説明よりも生徒の学びに時間を使う
学習成果を高めるための新しいアイディアは世の中にたくさんあります。しかし、上で紹介したアイディアは、一見シンプルに見えても、実は非常に価値があります。熟練した教師は、時間がどれほど貴重かを理解しており、時間の使い方には自分の価値観や期待が表れることを知っています。説明に時間を掛けすぎたり、もっと悪いのは、生徒を「何かが始まるのを待つだけの時間」に置いてしまうことです。これでは、「学びが大切だ」「与えられた時間を大事にしている」というメッセージは伝わりません。優れた教師は、時間を味方につける方法を理解しており、その結果、生徒はより多くのことを学べるようになるのです。
*****
ここでのポイントは、もちろん、教師の説明よりも生徒の学びに時間を使う授業を心がけるということですが、同じレベルで、いくつもの事例で紹介されているように協同/協働学習(日本流に言えば、「対話的(協働的な学び)」)をとってつけたように実践するのではなく、ルーティン化しておくことかと思います。付け足し的な位置づけでは、「対話的(協働的な学び)」の効力は発揮しませんから、やるのが当たり前のレベルに落とし込んでおく必要があります(それこそ、ルーティン化して!)。その意味でも、『「学びの責任」は誰にあるのか』の①焦点を絞った指導、②教師がガイドする指導、③協働学習、④個別学習のバランスが大切になります。 https://projectbetterschool.blogspot.com/2017/11/blog-post_19.html
このバランスを見いだすことが、「個別最適な学び」と「協働的な学び」が相乗的に機能する状態になるとさえ言えます(そのほかの方法は、考えられますか?)。
★学習センターは、教室内に複数(人数にもよりますが、1グループが3~5人ぐらいになるように)の学習センターを設置し、生徒が選んで学べるようにする学習方法です。詳しくは、『一斉授業をハックする』を参照ください。「個別最適な学び」と「協働的な学び」を同時に実現する手立てと考えられるかもしれません。
★★理解(解釈)のための方法には、関連づける、イメージする、質問する、推測する、要約する、何が重要かを判断する、自分の理解をモニタリングし続ける、クリティカルに読むなどが含まれます。詳しく紹介されている本に、『「読む力」はこうしてつける』と『理解するってどういうこと?』があります。
また、生徒が「互いに教え合う」方法については、同じ著者たちによる『「学びの責任」は誰にあるのか』の145~150ページで詳しく紹介されています。
★★★後者のinstructionは「実際の学習」と訳しましたが、「生徒の学び」の方が理解しやすいと思います。
出典・https://www.ascd.org/el/articles/no-instructional-minute-wasted
執筆者の二人は、共にサンディエゴ州立大学の教育リーダーシップの教授であると同時に、Health Sciences High(健康科学を重視した高校)のディレクター=共同校長を務めており、『「学びの責任」はだれにあるのか』や『学びは、すべてSEL』などの共著者です。
0 件のコメント:
コメントを投稿