今回紹介する教師と学習者の信頼関係の構築★ に関する原則5は、「学習者の自律(立)性を支援する(Support Learner Autonomy)」です。
昨年、関わった研究大会のサブ・テーマは、「児童・生徒がエイジェンシーを発揮できる授業づくり」でした。その大会資料では、エイジェンシーを次のように定義しています。「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力(the capacity to set a goal, reflect and act responsibly to effect change)」(OECDラーニング・コンパス(学びの羅針盤)より)
学習者の自立ということは、今後の日本の教育における最大のテーマの一つと言っても過言ではないでしょう。教師主導で、一方的に知識を伝達する従来型の指導を、どのように変革していくか。児童生徒がエイジェンシーを発揮できる学びの場に学校を変えていくということでしょう。
「学びの責任の移行モデル」★2 は、とても参考になる重要な考え方だと思いますが、実際に教室でこれを実現するのは難しいという声を聞くこともあります。分かっていても、やはりどうしても、教師である自分担ってきた役割を捨てされないと感じてしまうようです。
先にあげた研究大会で、高等学校の英語の公開授業を担当した先生は、キャッシュレス社会に関する賛否を、生徒たちが英語でディスカッションする授業を計画しました。その授業を計画する過程で、「足場はずし(フェーディング)」という考え方を知ったことが、研究のブレイクスルーになったと述べています。生徒たちを、自ら学び続ける学習者に育てたいと考えていたようですが、どうしても、そのプロセスが思い描けなかったそうで、この「足場はずし(フェーディング)」という考え方に出会って、具体的なイメージが湧いてきたそうです。
「足場はずし(フェーディング)」という考え方は、伝統的な徒弟制の考え方をモデルとして、生まれた「認知的徒弟制」の最後のステップと考えられています。認知的徒弟制とは、教師(師匠)の「考え方」や「問題の解き方」、学習の進め方」、「判断の仕方」といった目に見えない思考の過程(認知)を学べるようにしようとしたものです。★3 基本的に4つのステップがあるようです:
ステップ1 モデリング(教師がやり方を示し、モデルとなる。モデルとなる児童生徒のやり方を紹介する)
ステップ2 コーチング(教師がヒントやフィードバックを与えながらやり方を教えていく)
ステップ3 スキャフォールディング(自力で取り組める部分は任せ、難しいところを「足場かけ」する)
ステップ4 フェーディング(教師の支援を減らしていく。)
この一連のプロセスからも明らかなように、自分一人でできるようになることを最終ゴールとして設定しているところにポイントがありそうです。自転車の補助輪はつけるけどれど、最終的には補助輪を外すことを念頭においておくということです。
「足場はずし(フェーディング)」をゴールとして描いておけるかどうか。ここに、学習者の自立性を支援できるどうかの分岐点がありそうです。
★1 サラ・マーサー/ゾルタン・ドルニュイ(2022)『外国語学習者のエンゲージメント』アルク.(原著 Mercer, Sarah and Dörnyei, Zoltán (2020) Engaging Language Learners in Contemporary Classrooms,Cambridge Professional Learning.),p.78.
「教師と学習者の信頼関係を構築するための6つの原則」
原則1 近づきやすさ
原則2 共感的態度で応じる
原則3 学習者の個性を尊重する
原則4 すべての学習者を信じる
原則5 学習者の自律(立)性を支援する
原則6 教師の情熱を示す
注)原則5の「自律性」は”autonomous”の訳語ですが、「自立性」を採用する方が本来の意味に近いと思われます。
★2 ダグラス・フィッシャー&ナンシー・フレイ(2017)『「学びの責任」は誰にあるのかー「責任の移行モデル」で授業が変わる』(新評論)または
https://studylib.net/doc/25543001/kentwood-gradual-release--model-final-june2011#google_vignette
★3. 白杉 亮 (2025)『自己調整につながる学習理論をビジュアルでまとめました』明治図書出版
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