2025年11月2日日曜日

教師と学習者の信頼関係の構築 原則3 学習者の個性を尊重する

サラ・マーサーさんとゾルタン・ドルニュイさんの著書『外国語学習者のエンゲージメント』から、教師と学習者の信頼関係を構築するための6つの原則を紹介しています。★1 第3回目の今回は、原則3「学習者の個性を尊重する(原著では”Be Responsive to Learner Individuality”)」です。

「学習者の個性を尊重する」というのは、あまりに当たり前過ぎて、具体的には教師のどのような行動を指しているのか、やや漠然としているようにも感じます。原著では、Be responsiveという言葉が使われています。responsiveという言葉の定義を見ると、”responding readily and with interest or enthusiasm”(自ら進んで、そして、興味と情熱をもって応える)とあります。この定義で、少しイメージしやすくなります。★2

同書では、個々の学習者の固有の特徴に注目するということは、「個々の児童・生徒・学生を、教室の外の世界にも生活の場がある一人の人間として、あるいはすでに一定の知識と経験を備えた一人の学習者として理解すること」であると述べています。

また、一人一人と意思疎通を図り、信頼関係を深めるには、さまざまな段階があるとして、その一番の基本は、「学習者の名前を覚える」ことであるとしているのが興味深く感じます。学習者が帰属意識を実感し、大事にされていると思えるからであるとしています。

これ以外にも、個々の学習者との信頼関係を築くための方法がいくつか紹介されています:

  • あいさつを交わし、名前を覚える。
  • 一人ひとりの学習者の個性を把握し、折に触れてそれを伝える。
  • 趣味や学校外での生活について尋ねる。
  • 誕生日を覚える。
  • 授業内容を話し合うときに、個人的な話題や事例を含める。
  • 欠席した学習者にメモや課題を伝達する。

みなさんは、年度当初、生徒たちとの新しい関係を構築するために、どのようなことをされていますか?

私は名前を覚えることが苦手です。顔と名前が一致するまでにとても時間がかかる。直接やりとりをしたり、発言する機会を与えて、それを聞くなど、一人一人と何らかの形で接触する機会をもたないと、記憶に残らないのです。

ここで提案されている方法をみてみても、顔と名前を丸暗記するのではなく、まずは、あいさつを交わして名前を覚えたり、学習者の個性を見極めそれを折に触れて伝えるなど、何らかのやりとりをして、そのプロセスで記憶に残そうとしているように感じます。関与の深さを上げることがキーではないかと思います。

同書には、ルヴィエ=デイヴィスという人の言葉が引用されています。

「時間をかけて、学習者を知り、受け入れ、能力を正しく評価することは、彼ら一人一人との絆を深めるのに大いに役立つ」

この言葉の中に、学習者の個性を尊重することの本質が語られているように思えます。


★1 サラ・マーサー/ゾルタン・ドルニュイ(2022)『外国語学習者のエンゲージメント』アルク.(原著 Mercer, Sarah and Dörnyei, Zoltán (2020) Engaging Language Learners in Contemporary Classrooms,Cambridge Professional Learning.),p.78.

「教師と学習者の信頼関係を構築するための6つの原則」

原則1 近づきやすさ

原則2 共感的態度で応じる

原則3 学習者の個性を尊重する

原則4 すべての学習者を信じる

原則5 学習者の自律(立)性を支援する

原則6 教師の情熱を示す

注)原則5の「自律性」は”autonomous”の訳語ですが、「自立性」を採用する方が本来の意味に近いと思われます。

★2. Responsive Teachingについては、これまでもPLC便りで取り上げています。参考になさってください。PLC便り: responsive teachingの検索結果  

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