先日、ある会合で、地域の高校の校長が次のようなことを言っていました。
「近年、「連帯」が不足しているのではないかと感じます。どういうことかというと、我々の時代には、体育祭のようなイベントの最後にフォークダンスを踊ったり、ファイアーストームをやったりしたものです。あのような人と人とをつなぐようなものが欠けてきているんじゃないかと。」
この校長は、一人一人の個性を尊重し、特性を理解して、個に応じた対応が不可欠だということは分かる。その一方で、人と人とが切り離されているように感じてしまうと言いたかったとのこと。その場に居合わせた私たちは、(同世代でもあり)フォークダンスやファイアーストームという言葉に、思わず微笑んでしまいましたが、同時に、今の若者が抱える深刻な状況が垣間見える気がしたのです。
その発言に対して、大学の事務局に勤める参加者からも、興味深い発言がありました。
「コロナ禍が始まったころ、感染者の感染源をたどるために、一人一人に丁寧に聞き取りをしていました。感染源としてもっとも多かったのが部活動関連。部活動仲間は一緒に行動していることが多いことが分かった。次に多かったのが、バイト先での感染。一方で、もっと驚いたのは、感染源をたどれない学生がかなりの数いたことでした。まったく、他人と接触していない若者です。」
コロナ禍で、人と人との接触が大幅に制限されていた時期ではありましたが、よくよく聞いてみると、普段から食事も1人で食べることが多く、人と一緒にいることが少ないという学生がかなり多くいたことに驚いていました。
濃密なコミュニケーションをもてている若者と個の中に埋没してしまっている若者の間に大きな格差が生まれてきているのではないかと思えました。人との良い関係を築ける若者がいる一方で、それがうまく築けない若者がかなりいるのではないか。日頃、10代、20代の若者と接している人たちは、ある程度、そのような感覚をもっているのかもしれません。
近年、ソフトスキルの重要性が注目されています。★1
ソフトスキルとは、仕事をする上でベースとなる個人の性格特性や行動に関わるスキルのことで、コミュニケーション力、リーダーシップ、問題解決力、柔軟性、協調性などが含まれています。一方で、ハードスキルとは、資格や技術、専門知識など、教育や訓練で獲得した能力のことを言います。
ソフトスキルが求められる背景として、1) 働き方改革の進行 2)AIの進化 3) エンゲージメントの低さがあると指摘しています。1)は、ソフトスキルが生産性を向上させ、働き方改革の実現につながるということ。2)は、AIが進化すればするほど、AIにはない、強調性や柔軟性、創造性など、人間ならではの能力が重要になるということ。3)のエンゲージメントは、ここでは会社や仕事に対しての愛情や思い入れのことを指しています。同サイトの説明によると、「エンゲージメントが低い会社では、業績や定着率、社員のモチベーションの低下、組織の衰退などが起きていると言います。ソフトスキルが高まることで、仕事に対するモチベーションやチャレンジ精神なども向上しやすくなると言われています。」と述べています。
世界最大のIT企業の一つであるグーグルの人材の採用基準について論じた、エリカ・アンダーソンさんの記事は、この問題と大きく関連しているように思います。★2 この記事があげている、グーグルの採用基準のトップ5は次のとおりです。
5 専門知識(Expertise)
4 自分事として捉えられる/取り組もうとする姿勢、マインドセット(Ownership)
3 謙虚さ(Humility)
2 リーダーシップ(Leadership)
1 学ぶ能力(Ability to Learn)
このリストは、例えば、謙虚さといった項目が意外性もあり面白いですが(自分よりも素晴らしい考えをもっている人がいたら、率直にそれを認めるようにしようという意味のようです)、あげられた項目よりも、その順序がとても興味深く感じます。
プログラミングなどの専門知識がもっとも求められそうな企業において、主体性や謙虚さ、リーダーシップなどの方が上位にきているのです。そして、もっとも重視しているのが「学ぶ能力」。その説明の中に、ここで言う「学ぶ能力」をよく言い表している一節があるので引用しておきます。
すべての会社は、好奇心にあふれ、間違えたり、危険を犯すことをおそれず、バカバカしい質問でも平気で聞く、そうやって新しい能力を磨き、新しい解決策を見出していくことができる人材を求めているのです。そして、そうやって組織は成長し、未来に向けて伸びていいけるのです。」
(原文 Every company needs employees who are curious, who are willing to make mistakes and go out on a limb and ask dumb questions in order to develop new capabilities and new solutions - that's how organizations will thrive and grow into the future.)
我が国の学校教育は、長年に渡り、ハードスキルを追い求めてきたように思えます。ハードスキル一辺倒であったと言えなくもない。もちろん、授業以外の場面、例えば、部活動や学校行事などでは、ソフトスキルを育むことのできる場面はあったと思います。
このソフトスキルをどうとらえ、どう学校教育の中に組み込んでいくのか。これが、今後の重要なテーマの一つになるように思えます。
★1 ソフトスキルとは? 具体例一覧と鍛え方、ハードスキルとの違い, カオナビ
https://www.kaonavi.jp/dictionary/soft-skill/
★2 「Googleの人材採用基準とは?」
Erika Andersen, How Google Picks New Employees (Hint: It's Not About Your Degree), Apr 07, 2014.
https://www.forbes.com/sites/erikaandersen/2014/04/07/how-google-picks-new-employees-hint-its-not-about-your-degree/?sh=6ae1775f25e4
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