2023年12月30日土曜日

探究力を育む理科の授業とは

 

 今回は2020年出版の『だれもが<科学者>になれる!』(新評論)を手掛かりに「探究力を育む理科の授業」について考えてみたいと思います。

 第1章「探究―次のフロンティア―」の最後に「探究実践例」として「火星に生命は存在するのか?」が紹介されています。1997年にアメリカの火星探査機によって、火星の表面にかつて大量の水が存在したことがそこで撮影された写真から判明しました。実は、この本の著者であるチャールズ・ピアス先生の小学校5年生の教え子の二人が、その5年前に浸食模型を自分たちで作って、その模型の川床の写真とそれ以前に撮影された火星表面の写真の間に類似性があることに気づきました。そればかりでなく、彼らは水があれば堆積岩があると推測し、生命の痕跡があればその堆積岩の中にあることも示唆していたのです。その5年後に探査機が送ってきた写真は太古の川床と堆積岩らしい岩石があることを示していました。まさに本物の科学者の研究と言っても過言ではありません。これが小学校の理科の時間に子どもたちの探究活動によって生み出されたものなのです。

 私も長年、中学校で理科を担当しましたが、中学校理科はどうしても高校入試を意識して、教え込みの授業スタイルが多くなってしまいがちです。今でもこの点は変わらないように思いますが、「本物の科学者」として生徒が探究する授業づくりは机上の空論なのでしょうか。

 理科の時間を探究中心に変えていくためには、それなりの準備が必要になります。

 まず、「問い」づくりから始めるのがよいでしょう。『だれもが<科学者>になれる!』によると、ここで「クエスチョン・ボード」という仕掛けを用意します。これは教室の一角にホワイトボードを用意して、子どもたちがマーカーを使って自由に思いついた「問い」を書けるようにしたものです。こうすることで、ふと思いついた問いをすぐに書きこめるわけですから、そこにはいろいろな問いが集まってくると思います。それをそのままにしておいては宝の持ち腐れです。

 次にやるべきことは、このボードに書かれた問いを「調べてわかる問い」と「実証できる問い」に分けることです。「調べてわかる問い」とは、本やウェブのなかで、その答えを見つけることができるものです。最初はここに分類される問いの方が多いかもしれません。もう一つの「実証できる問い」とは、子どもたちが観察することや簡単な実験で答えが見つかるものです。この二つをきちんと分類できる力を子どもたちが身に付けていくことは、次の段階で「探究活動」を実践していくために、欠くことのできない力となります。これまでの総合的な学習などで行われてきた活動の多くは「調べてわかる問い」が圧倒的に多かったように思います。日本でも優れた教育実践者はこの「問い」の重要性に気づき、大切にしてきた歴史があります。私が若いころに参考にさせてもらった有田和正さんなどの授業はまさにそうした問いから生まれたものでした。

 私も40代のころ、「問い」の研究に夢中になっていた時がありました。教師の仕事の面白さは授業にあると思いますが、特によい「問い」を見つけられ、私も生徒も前のめりの感じで授業が進んでいった時の喜びは何にも替えがたいものでした。

それから20年以上も経ちますが、かつて考えていた「問い」を思い出すことがあります。以前に理科の教師をしていたときからの問いの一つは次のようなものです。

 

「恐竜が繫栄した白亜紀には大量の植物が地球上を覆いつくしていたが、その原料となる炭素はどこから供給されたのか」

 

その問いを解くカギが最近偶然わかりました。東京大学大気海洋研究所名誉教授の川幡穂高(かわばた・ほたか)さんが『週刊ダイヤモンド』(2023/11/25)の「大人のための最先端理科」に寄稿されていた記事のなかで紹介されていました。

その内容はおおよそ次のようなものです。

地球の表面を覆う地殻の下には、マントルという岩石でできている層があります。これは岩石と言いながらも移動するので、それが大規模に上昇すると地表では火山活動が活発になるという関係があります。ちょうど白亜紀中期はこの活動により当時の大気中には火山から噴出した二酸化炭素で充満していたようです。現在は大気中の二酸化炭素は0.04%程度ですが、当時は0.1%を超えており、これが大量の植物の光合成の原材料となっていたようです。結果として、植物が繁茂し、それを餌にする恐竜が大型化したとのことです。

また、この時代の二酸化炭素過剰の現象が「石油」生成へとつながりました。現在の石油資源の半分はこの白亜紀につくられたもののようです。それを現代の私たちが消費し、その結果、二酸化炭素を大気に放出し、温暖化問題を引き起こしているというわけです。そして、川幡さんのこの記事はこのように締めくくられています。

 

カーボンニュートラルとは、「人類による地球白亜紀化」の流れをストップする活動なのだ。

『週刊ダイヤモンド』(2023/11/25号、73ページ)

 

こういう見方もあったのかと改めて科学(理科)の面白さに気づかされます。およそ1億年前のできごとと現在を結びつけるスケールの大きな問いを理科の授業で扱ってみたいものです。一般的には地質時代ごとの特徴的な化石を順番に確認して終りで済ませてしまうのが定番ですが、「中生代の二酸化炭素濃度の上昇」という切り口から、植物と動物、地球環境・資源などいくつもの視点から問いを追究していくことができます。社会科との関連で言えば、石油資源の偏在による経済の非対称性や先進国とグローバル・サウスとの関係など、まさに今日的な課題にも切り込むことが可能です。

このように「問い」は探究活動の出発点です。ふだんから問いを大切にした授業づくりを考えていきたいものです。

今年1年「PLC便り」をお読みいただきありがとうございました。

また、来年もよろしくお願いします。

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