2023年10月15日日曜日

生徒が自分の最適な「学習ゾーン」を見つけられるようにする

生徒一人ひとりは(教師一人ひとりも!)、「学習ゾーン」(図を参照)と呼ばれる3つのゾーンをもっています。

ゾーンは、個々人のそれまでの体験や蓄積および置かれている状況などに応じて刻々と変化することも表しています。つまり、あるテーマを授業で扱っている時、ある生徒たちは快適(簡単すぎたり、容易に扱える=ほとんど学びが起こらない)ゾーンに、他の生徒たちはチャレンジ(適度の学習が起こる)ゾーンに、さらに別の生徒たちは過度のリスク(難しくて歯が立たない=学習が起こらない)ゾーンにいる可能性があるということです。このような状況では、すべての生徒があたかも同じレベルにいると仮定する一斉授業は成立しません。教師の役割は、一人ひとりの生徒がリスクを冒してでも自分のコンフォートゾーン(快適な領域)を超えて、適度のチェレンジゾーンで学べるようにすることです。一方で、過度のリスクでパニックを起こしている生徒にも適度のリスクを提供することで、適度のチャレンジを実現することです。

常に教師に助けられないと動けないのでは困りますから、生徒が、いま自分がどのゾーンにいるのかを理解して、それに応じた目標を設定し、達成に向けて進捗状況を振り返れるように、教師はサポートすることも大切です。これは、練習次第で小学校低学年でも可能でしょう。なお、学習ゾーンは「成長マインドセット」とも大いに関係します。以下は、『SELを成功に導くための五つの要素』の120~1ページからの引用です。

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 アメリカの心理学者であるキャロル・ドゥエック(Carol S. Dweck)は、著書『マインドセット~「やればできる!」の研究』(今西康子訳、草思社)のなかで、学習ゾーンにうまく向きあうことがもつ別の重要な点について説明をしています。彼女は、生徒は自分が何者で、自分には何ができるのかについて固定観念をもってしまっているとリスクを冒したがらず、難しいと感じることはすぐに諦めてしまいがちとなり、辞めたがると指摘しています。しかし、私たち教師は生徒に対して「成長マインドセット」をもち続けるように励まし、サポートすることができます。

「成長マインドセット」については、「人間が生まれもった資質は、努力によって洗練させられると信じること」と、彼女は定義しています。さらに彼女は、「先天的な才能や適性、興味、気質などは人によって異なるかもしれないが、応用と経験を通して、誰もが変化して成長することができる」とも述べています。

 生徒に対して、学習ゾーンを把握してそれと向きあうように促すことは、生徒が外的リソース(入手できる資料・情報や、得られる人的な助けなど)と内的リソース(性質・能力・関心・嗜好など)をうまく扱い、レジリエンスを高め、自分が思っている限界(例えば、「このクラスではCしか取れません」や「私が数学を得意になることは決してないだろう」など)の先へと進む能力を育成することにつながります。

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 ちなみに、学習ゾーンの図は、ヴィゴツキーの「発達の最近接領域(英語訳は、Zone of proximal developmentZPD)」と同じで、成長するのに最適なゾーンのことです。「発達の最近接領域」を分かりやすく言うと、「今日誰かの助けでできることは、明日一人でできるようになる」です。 https://projectbetterschool.blogspot.com/2022/10/blog-post_23.htmlhttps://wwletter.blogspot.com/search?q=%5CZPD を参照ください。

また、「学習ゾーン」や「発達の最近接領域(ZPD)」と似た図をもう一つ紹介します。これは、生徒が学習に取り組んでいる様子を分析した結果から得られた知見を、生徒の学習に対するやる気や無気力・無関心に対処する画期的な方法を開発する過程で考え出されたものです。

 この図と「学習ゾーン」を比較すると、「積極的に取り組」んでいるのは、チャレンジ・ゾーンにいる生徒たちとなります。「見せかけの努力」をしているのは、過度のリスクゾーンの一部と快適ゾーンのほぼ全員です。そして、「持続的な挫折」をしているのは、過度のリスクゾーンのほぼすべてとなります。こちらも、クラスにいる生徒たちを均一の生徒と捉えるのではなく、様々なやる気や関心をもった存在であり、それへの対処法も異なることを表しています。興味をもたれた方は、『挫折ポイント』(アダム・チェインバーリンほか著)を参照してください。

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