2023年7月23日日曜日

『子どもの誇りに灯をともす』を読んで

 埼玉県の公立小学校の清水先生が『子どもの誇りに灯をともす』(ロン・バーガー著/塚越悦子訳、英治出版、2023年)の書評を書いてくれましたので紹介します。

「私の息子は変わりました。いくらテストの結果が振るわなくても、息子は自分が勉強のできない生徒だと思わなくなりました。あのプロジェクトを成し遂げたのだから、自分にはそれだけの能力があると信じているのです。」

これは、本の中に出てくる子どもの保護者の言葉です。私は、自分の担任するクラスの保護者にこのように思ってもらえるような授業やクラスをつくりたいと願っています。この本の中に出てくる保護者は、なぜこのような言葉を言う状態にまでなったのでしょうか。

それは、本書を読むことによって伝わってきます。『分かる』ではなく、『伝わる』という言葉を使ったのは、この本はノウハウの本ではないからです。この本は、プロジェクトを中核にした学びを大事にする教師の思いや、プロジェクトに正面から向き合う子どもたちをどのように見てきたのか、またどう支えてきたのか、そして、なにを大事にしてきたかが子どもたちとのエピソードとともに、ビシビシ伝わる本でした。

おそらく、この本は読む人によって伝わってくることがだいぶ変わるでしょうし、同じ人が読んでも、違うタイミングで読めば、また伝わることは違ってくるのではないかと思うのです。

さらっと読んでしまうことがもったいなさすぎて、読んでは自分自身の経験や想いとつなぎ合わせ、じっくり、じっくりと噛み締めながら読んでいました。まるでスルメを味わうかのように。ドッグイヤー(いいなと思ったページの本のはじを折ること)が55ページ連続する本と、私は今までに出会ったことがありません。この本は私の大切な本の一つになりそうです。

私がこの本を読んで感じたキーワードは、「作品★の質を求める」でした。

「作品の質を求める」とはどういうことでしょうか。

私は公立小学校の教員ですが、今まで、テストの点数を求めていた自分がいました。質よりも提出期限を子どもたちに求めることを優先している自分もいました。テストの点数だけではその人の全てを評価することはできないと思うようになってからは、子どもたちに作品をつくってもらうことをするようになりましたが、どうしても学校でやらなければならないたくさんのことや、学力テストの点数にとらわれすぎていて、作品の質にこだわることは、正直この本に書かれているようにはできていませんでした。

テストの点数で子どもが自信をなくすことなく、その子が自分の人生に希望を持ち、その子の学びが未来につながるためにはどうしたらいいのだろうか。という自分自身の中の大きな問いに対して、「子どもの作品の質を求める」という一つの答えをこの本からもらいました。

また、本書では、子どもの作品の質を求めるために私たち大人(教師)はどうしたらよいのか、様々なヒントがありました。

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・子どもがその作品を作りたいと本気で思う環境を、大人(教師)がつくること

・子どもがつくる作品が世の中に本当に影響を及ぼすことを体験できるように、大人(教師)がつくること

など

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子どもが自分自身でつくる作品が、世の中に本当に影響を及ぼすことを知ると、子どもたちは、作品をよりよくするために何度も草案をつくりなおすことを求めるようになるとのことでした。そのためにクラスのみんなで批評をしあって、より良いものをつくろうとしていました。プロジェクトを授業の中核にすることで、これらのことが可能になるというロン・バーガーさんの提案でした。

公立学校にいると、やらなければならないことが多すぎて、なかなか作品の質を求めるということができていなかったなと、自分自身の今までをふりかえり、ハッとさせられました。

勉強を一生懸命にすることが当たり前の文化のコミュニティにいると、勉強をすることが当たり前になりやすいという話が本に書いてありましたが、教室で質を求めることが当たり前の文化をつくりだすことは、教師としての大きな仕事なのだと感じました。

つまり、何かを身につけるために、教え手の義務感で教えるのではなく、いいものをつくりたいと思える環境をつくりだすことが大切だということをこの本から学びました。

キーワードとは別ですが、子どもの誇りに灯をともすために、教員の誇りにも灯をともす必要がある、という教員の働き方改革へのヒントも見えてきた本でした。本を読みながら、「そうそう」と、頷けるところが本当にたくさんありました。

ここ最近、日本の学校では、プロジェクト学習や探究学習などに取り組む学校が増えているように思います。しかし、それらの取り組みは難しい取り組みだから、私立や国立などの優秀な子たちだからできるのではないか、その辺の公立小学校では無理ではないかと思ってしまいがちですが、公立小学校だからこそ取り組む価値があるのだと強く思わせてくれる本でした。というのも、この本の中で、「学習が苦手な子」や「落ち着きのない子」たちが、自分達の作品に誇りを持ち、変わっていく姿が伝わってくるのです。

自分自身が大事にしようとしていることと、重なることが多く、勇気づけられるとともに、自分自身がまだできていなくて、この本を読んだからこそ、改めて気付かされるところもたくさんありました。この本は、ぜひ同僚とブッククラブをしたい本でした。

 

★紹介されている本ではもちろん、紹介者も作品を生徒たちがつくり出すことを前提にした授業として描いています。しかし、成果物(生徒の作品やパフォーマンス)を授業中につくり出す授業や、それらに対する評価は、日本ではこれまでほとんどしてきませんでした。それに対して、教育界の傾向は、テストに向けての授業や、テスト以外に評価方法は考えられないという「偽の教え方」や「偽の評価」から、「本物の教え方」や「本物の評価」に転換する要として、作品/成果物が位置づけられています。この点で参考になる本には、今回紹介されている本以外に、『学びの中心はやっぱり生徒だ!』『一人ひとりを大切にする学校』『みんな羽ばたいて ~ 生徒中心の学びのエッセンス』『あなたの授業が子どもと世界を変える』『だれもが科学者になれる』および下のhttps://docs.google.com/document/d/1FPuGUOEtCb-sd-_FH-18Iv1WCDpooEewLedBTFAIao4/editにリストアップされた「作家の時間」や「読書家の時間」に関連したものがあります。それらのなかでは、本物の作品/成果物やその発表の対象なしの学びは、「生徒中心の学び」とは言えない、という主張が貫かれています。プロジェクト学習には、https://wwletter.blogspot.com/2021/08/wwrw.html がおすすめです。以上のなかから一冊でも、二冊でも、夏休みの間に読む一冊にぜひ加えてください。

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