2023年7月2日日曜日

生徒中心の学びは「一人ひとりの生徒を他のレンズで見る」ことからはじめよう

  多くの学校で生徒たちが、ふるいにかけられ、選別されています。私たちは無意識のうちに(そして、残念なことに意識して)生徒たちを「できる子」「何とかなるかもしれない子」「救いようのない子」と見なしていないでしょうか。その結果、特別な才能を見出された生徒にはギフテッドのためのプログラムが用意され、学業に秀でていると認められた生徒には上級クラスで学ぶ機会が与えられ、スポーツの才能がある生徒は選抜チームに招集されます。そうでない生徒たちが背中を押してもらう機会はほとんどありません。当たり前のように行われている習熟度別のクラス編成も、一人ひとりの生徒のための個別最適な学習機会を確保するためというよりは、教師が集団に対して教科書をカバーするための仕組みになっているだけのように思われます。

また、小学六年生と中学三年生を対象に毎年実施されている「全国学力テスト」で結果を出すために、授業時間を削り過去の問題を解かせるなど、行きすぎた対策をしている学校があるというニュースは記憶に新しいですが、正直なところ、教育関係者の多くはそれほど驚かなかったはずです。つまり、標準学力テスト対策、入試対策、次の学校に行く準備が学校の存在理由になってしまっているということです。

しかし、本書のテーマである「生徒中心の学び」は、ただ単に才能のある生徒を見出して、その才能を磨き上げることではありませんし、テストや次の学校に向けてひたすら準備をさせることでもありません。それは、一人ひとりの生徒がもつ才能や興味関心を丁寧に発見し、孵化させ、育み、そして大きく伸ばすことです。そして、これは私たち教師や子どもと関わる大人たちが実現したいと心から願っていることです。

この「生徒中心の学び」は、教師が教える内容ではなく、生徒に注意を向け、生徒を尊重することから始まります。そして、生徒中心のクラスの教師は少なくとも次の4つの方法によって生徒を尊重していると、著者のトムリンソンは述べています。

・一人ひとりの生徒をありのままに受け入れ、肯定する。

・一人ひとりの生徒が成長し、成功する能力をもっていると信じる。

・一人ひとりの生徒についての多面的な知識を広げる。

・一人ひとりの生徒の成長を最大化するように行動し、計画し、対応する。(84ページ)

 

これだけを見ると、果たして自分にできるだろうかと不安になってしまうかもしれません。当たり前のことですが、現実世界にはさまざまな生徒がいて、ありのままに受け入れ、その成長を手放しで信じることが難しい場合もあります。実際、私も何度となく生徒とぶつかり、心ない一言をつい口にしてしまったり、どんなに話しかけても打ち解けてもらえなかったり、限られた行動だけを見て、勝手に問題児のレッテルを貼り、向き合うことを諦めてしまったこともあります。その度に、こんな自分が教師をしていていいのかと自己嫌悪に苛まれました。しかし、トムリンソンは「本能的に・・・愛情を感じられる教師もいれば、そのような気持ちを抱くために、やめるべき習慣、克服すべき偏見、向き合わねばならない経験をもつ教師もいます。もし、あなたが生徒に対して前向きな気持ちになっていないとしても、それは学ぶことで身につけられるものです。要するに、他のレンズを通して生徒を見ればよいだけです」(85ページ)とも述べています。この部分を読んで、私は大いに勇気付けられました。教師も人間です。最初から、どんな状況でも、どんな生徒でも、すぐに受け入れられる、心を開いてもらえるというわけではありません。自分の傾向を認め、自己嫌悪から抜け出し、具対的な方法を学び、実践していけばいいのだと気持ちを新たにすることができたのです。続くページにある具体的な方法のリストを辿りながら、自分が毎日学校で出会う生徒たちの顔を思い浮かべ、他のレンズで一人ひとりを見直すことで自分の中に起こる変化を感じています。

本書では、生徒中心の学びに欠くことのできない「教師」がもつべき倫理観と、その教師が尊重しようとする存在である「生徒」を深く知るための方法についてはじめに丁寧に検討しています。その後、生徒中心の学びを実現するための核となる四つの要素~学習環境、カリキュラム、評価、教え方について順に検討しています。これらは、どんな教師でも日々の実践の中で無意識のうちに心に留めている大事な要素です。自分が課題を感じている要素から目を通してもいいでしょうし、本書が投げかけてくれる数多くの問いに自分なりに答えながら読んでいくのもいいでしょう。本書を読んで、自身の実践を振り返り、紹介されている具体的な方法を試し、生徒中心の教室をより深く理解して、教師という難しくも、世界に必要な大切な仕事を着実に進めていく人が増え続けていくことを心から願っています。そして、私自身がその一人となり、たくさんの生徒たちと共に羽ばたけるよう、精一杯取り組んでいこうと思います(谷田美尾)。

なお、紙幅の都合で割愛した第8章では教育哲学的な部分が述懐されていますが、あまりの捨て難さに、インターネット上で公開していますので、ぜひご覧ください。 https://docs.google.com/document/d/1NLGVsiRh8x0I6F0zA900PpteAIXA6JKGagGyLslQ4ec/edit

 

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