2022年5月1日日曜日

観察(探究)する力を育てる「ネイチャー・ジャーナリング」

 公立中学校で理科を教える井久保先生が、新刊『見て・考えて・描く自然探究ノート~ネイチャー・ジャーナリング』(ジョン・ミューア・ロウズ著、築地書館)の書評を書いてくれましたので、以下に紹介します。


 本書が紹介する「ネイチャー・ジャーナリング」は、観察者が見たものを、絵と文章で記録するための方法です。そういうと、学校の理科の授業で行った生物スケッチを想像するかもしれません。理科の授業でのスケッチは、全員が同じ対象を同じ視点から観察し、絵を描くにも「輪郭は1本の線で」、「影は描かない」などのルールを教わります。そして、出来上がったスケッチを見返すことはほとんど無く、見返したとしても自分がそのとき何を見たのか、どんなことを考えたのか思い返すことは難しいでしょう。もしかすると、学校のスケッチの時間は、誰にとってもあまり創造的な学びの時間ではなかったかもしれません。

しかし、著者のジョン・ミューア・ロウズが記録したジャーナルを見れば、その想像は見事に打ち砕かれます。ノートに自由に描かれた色彩鮮やかなスケッチと、詳細に記録された絵と文章によって、彼が向き合った自然の素晴らしさと、自然を科学的に探究した過程を追体験することができます。ぜひ私もその場所へ行き、一緒に実物を観察/探究してみたい!と思わせてくれる本です。

「ネイチャー・ジャーナリング」は、観察対象を視覚的に捉えた情報だけでなく、観察者の気付きや感情、疑問、連想したことなど、思考の過程を記録します。その記録方法は様々で、科学的な仮説検証のプロセスに基づく記述もあれば、詩や散文など、文学的な表現技法を使うこともあります。観察者はジャーナルを書くことで、好奇心を持続させながら対象と向き合い、目で見る以上に様々な視点から対象を観察することができるのです。

本来、理科の授業で行うスケッチも、このような観察する力を養うものであるべきではないでしょうか。さらには、社会科(生活科)の町探検や学校探検等にも応用が利きそうです。筆者も本書において以下のように述べています。

「あらゆる科学にとって肝心なことは、飽くなき好奇心と深い観察力といった、最良の学びを導く気質なのです。もっと具体的にいえば、不思議だと思う直感から始まった学びや、理解したいという欲求、そして、観察する力のことなのです(p.7)」

本書では、そのような観察する力を高めるためのスキルやノウハウが余す所なく丁寧に解説されており、誰でも「ネイチャー・ジャーナリング」をすぐに始めることができます。

「ネイチャー・ジャーナリング」の方法を実践すれば、自然観察だけにとどまらず、あなたの身の回りにあるものすべてが観察の対象となり、「見て、考えて、描く」学びの場に変わります。本書を読んだ後は、一冊のノートと少しの画材を持って、外に出かけてみてはいかがでしょうか。

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目次等の詳しい情報は、出版社のホームページ(http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1634-1.html)で見られます。

 https://www.youtube.com/watch?v=9ka9CsCb7D4 でインタビューを受けているフィオナ(17歳)は、13歳からネイチャー・ジャーナリングをはじめたそうです。そのインタビューの中で、強調していたのは

・私のメンターは、本の著者であるジョン・ミューア・ロウズであること

・対象は自然なものだけでなく、社会現象にも応用できること

・ネイチャー・ジャーナリングを通して、質問を容易にたくさんできるようになったこと

などです。


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