2017年8月6日日曜日

学級担任制と小学校教育


 私は、これまで、限られた地域ですが、7校の中学校と3校の小学校に勤務してきました。今回は、私の経験を通してみた「学級担任制」をとる小学校教育の良さや特徴、課題とその改善案について、改めて考えてみました。 

小学校教育のきめ細やかさと学級担任の責任の重大さ、多面的で総合的な子ども理解

 小学校教育は、中学校教育に比べ「きめ細やか」です。授業の進め方や板書の文字、教室環境・掲示物、言葉遣いなど、中学校と比較すると小学校の方がより丁寧です。 

また、公立小学校では、ほんの一部の国立大学の附属小学校を除いて、「学級担任制」をとっています。朝学習・朝読書を含め、朝の会から授業、給食指導、清掃指導、帰りの会、そして下校指導まで、一人の学級担任が、1日のほとんどの時間を子どもたちと一緒に過ごし、彼らの学校生活に深く関わっています。授業も、一人の学級担任が、音楽などの一部の教科を除き、すべての教科と道徳、学級活動などの授業を担当します。 

そのため、子どもたち一人一人の学力や個性、社会性の伸長など、学級担任が子どもたちに及ぼす影響ははかり知れません。この意味で、学級担任の責任は極めて重大です。 

学級担任が、子どもたち一人一人について、授業やそれ以外の活動場面といういくつもの窓から「多面的」に見て「総合的」に深く理解することができるのが、学級担任制の良さだと思います。学習指導に関しても、一人の先生がいろいろな教科を教えるので、教科相互の関連に基づくカリキュラム・マネジメントもやりやすいですし、教科横断的な総合的な視点をもちやすいという良さ・特徴もあります。 

小学校現場の人的配置の少なさと忙しさ

しかし、学級担任に極めて重大な責任を果たすことが求められているにもかかわらず、小学校の先生方の学校生活は、休憩時間にゆっくりとお茶を飲んだり、トイレに行く時間もなかなかとれなかったりするほどの超過密スケジュールなのです。 

 公立学校の場合、国の「学級編成及び教職員定数の標準に関する法律」★によって、学級編成の基準や学級数に対する学級担任以外の「加配教員」と呼ばれる教員の数が決められています。小学校は、中学校や高校に比べて、この加配教員の数が圧倒的に少ないのです。 

都道府県によって異なりますが、私が勤務した地域では、例えば、各学年3学級、全校で18学級の規模の小学校と同じ規模の中学校を比較した場合、どちらも、副校長または教頭が1人、学級担任が18人、養護教諭が1人います。違いは、学級を担任しない教員の数です。小学校は2人(教務主任と音楽専科)しかいないのに、中学校は10人います。教務主任と学年ごとに3人ずつ計9人の「副担任(学年担任)」がいます。このような教員数の違いにより、小学校では、1日の中で、職員室に誰も教職員がいなくなる時間があるくらいです。 

中学校では、授業を担当しない時間いわゆる「空き時間」が、1日に1~2時間程度あります。しかし、小学校では中学校のように「副担任(学年担任)」がいないため、朝から子どもたちが下校するまで、学級担任はほっと息をつく暇もないほど忙しいのです。 

■協同実践と情報共有による学級王国的な閉鎖的意識の打破

中学校は「教科担任制」をとっています。中学校教育の基本は、「学年主任を中心としたチームワークによる連携・協同」です。中学校では、学年職員から構成される「学年チーム」によって、生徒指導・学習指導、林間学校や修学旅行などの学校行事の企画・運営が行われます。学年主任には、学年経営に対してリーダーシップを発揮することが強く求められます。 

 しかし、小学校では、自分の学級や学年を越えて学習指導や生徒指導を行う機会が、それほど多くありません。そのため、小学校の先生方は「学級王国」と表現されるような閉鎖的な意識になりやすいのです。小学校は「学級担任制」と「人的配置の少なさ」という組織的制約によって、目の前の学級の子どもたちにかかわることが精いっぱいで、他のクラスや他学年の子どもたちに目を向ける余裕がなく、現実的に「チーム」で協力して動くことが難しいのです。 

 この学級王国的な閉鎖的な意識を打ち破るためには、学年あるいは低・中・高学年の学団による次のような「協同実践」が有効だと思います。

1.学年によるカリキュラム開発と共通実践、カリキュラム評価を行う。

2.学習指導および生徒指導に関する情報共有を週に1回行う。 

 1については、先月のPLC便りで紹介した『たった一つを変えるだけ』[新評論]や『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』[北大路書房]、『教科と総合学習のカリキュラム設計』[図書文化]などを参考にしながら、学年の先生方が協同で、自分たちの学年の子どもたちの興味関心、レディネス、学習履歴などの実態に応じた教科や総合的な学習の時間のカリキュラムを開発し、共通実践、評価を行うのです。もちろん、すべての教科でこれを同時に行うことは現実的に難しいでしょうから、例えば、次の①~⑨のような順番で取り組んでみたらどうでしょう。挑戦してみたい方には相談に乗りますのでpro.workshop@gmail.comへご一報ください。 

①【1学期ⅰ】学年として、この取り組みをやってみたいと思う教科と単元を一つ選び、協同してカリキュラム開発、共通実践、評価を行う。

②【1学期ⅱ】学年の取り組みについて、学年会においてふりかえりを行い、成果と課題、疑問点などを明らかにしておく。この一連の取り組みについてA4用紙2ページにまとめ、他学年に情報発信する(他学年の先生方からフィードバックをもらうために、レポートの最後にハガキの1/3程度の小さな欄を設けておく。さらに、校長先生と研究主任にお願いをし、夏休みの校内研修会の中で時間をもらって、学年の取り組みについて、全体に報告を行う)。

③【夏休み】1学期に学年で取り組んだ経験を基にして、それぞれの学級担任が、2学期に取り組む教科と単元を選び、評価項目、評価基準、評価方法を含めたカリキュラムの原案を作成する。各学級担任が作成したカリキュラム案について、学年で検討し、実践可能なものに仕上げる。

④【2学期ⅰ】夏休みに作成したカリキュラムに基づいて、それぞれの学級で実践する。

⑤【2学期ⅱ】各学級で実践した取り組みについて、ふりかえりを行い、成果と課題、疑問点などを明らかにする。この一連の取り組みについてA4用紙2ページにまとめ、学年内での実践交流・意見交換を行う。また、他学年にも情報発信する。

⑥【冬休み】1・2学期での取り組みを基にして、各学級担任が3学期に取り組む教科と単元を選び、評価項目や評価歩基準、評価方法を含めたカリキュラムの原案を作成する。

⑦【3学期ⅰ】各学級担任が作成したカリキュラム案について、学年で検討し、実践可能なものに仕上げる。

⑧【3学期ⅱ】作成したカリキュラムに基づいて、それぞれの学級で実践する。

⑨【3学期ⅲ】⑤と同じ 

 2については、週に1回40分以内の学年会または学団会を開き、特に「気になる子ども」の学習面や生活面に関する情報共有を行い、援助方針を立てたり、具体的な支援策について話し合ったりするのです。できる限り管理職にも同席してもらいましょう。学級担任を孤立させないためにも大切なことです。 


★  「学級編成及び教職員定数の標準に関する法律」は、60年近く前に作られたもので、その後も学級編成に関する部分は、50人学級→45人学級→40人学級と改正されてきましたが、「加配教員」については、ほとんど変わっていません。特に、現在の小学校の状況にマッチしていないと思います。「一人ひとりの違いをいかす教え方」を実現するためにも、小学校の加配教員の数を、中学校水準近くに引き上げる必要があると考えています。

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