「思考の可視化」は現在、ビジネスの世界においても、新たな製品開発やプラン作成のための有用な開発ツールとして利用される場面が多くなっています。
先月刊行された「子どもの思考が見える21のルーチン」(R.リチャート/ M.チャーチ/K.モリソン著・黒上晴夫/小島亜華里 訳・北大路書房 \3,000+税)を紹介します。
この本には、ハーバード教育大学院のプロジェクトゼロが提唱する学習プログラム「思考の可視化」を中心に、子どもたちの思考の成長を促していくための方法が語られています。
「プロジェクトゼロ」は、1967年にハーバード教育大学院で芸術教育を研究、改善する目的で設立されました。当初は芸術分野が中心でしたが、その後学習のあらゆる分野に対象を広げていきました。このプロジェクトは、人文・科学・芸術分野での学習、思考、創造性を理解・向上させることをねらいとしています。
私たちは、見たり、聞いたりすることで物事を学びます。見たり、聞いたり、模倣して学んだことを自分の興味やスタイルに合わせて取り入れていくことが学びの基本です。お手本を見ることもなく、ダンスやスポーツを学ぶことはできませんし、音を聞くことなく音楽を学ぶことはできません。つまり、思考を学ぶことは、学習することを学ぶことでもあります。
「思考の可視化」学習プログラムを通して、生徒は自分の思考を自分自身、クラスメート、先生に対して目に見える形で表現できるようになり、学習している問題により深く関わることができるようになります。また、生徒の思考が教室で可視化できるようになると、生徒が自分の思考について考えるメタ認知能力が上がります。生徒にとって学校は単に教えられたことを覚えるところではなく、考えを探索する場になります。教師側のメリットとしては、生徒の既得の知識、理解の度合い、論理的思考が明らかになることにより、課題を把握し、生徒の思考を伸ばすことができるようになります。
本書の構成は以下のとおりです。
【第1部 思考についての考え】
第1章 思考とは何か
第2章 思考を教育の中心に
思考に関するブルームの分類を改訂する考え方を説明し、それがより高いレベルの思考を引き出すような教師の質問につながることを解説しています。
第3章 思考ルーチンの導入
第4章 考えの導入と展開のためのルーチン
第5章 考えを総合・整理するためのルーチン
第6章 考えを掘り下げるためのルーチン
様々な形で思考を深めていくためのルーチンをそれぞれ、目的、内容、進める手順等について解説しています。
この実践を始める最も簡単な方法はプログラムの中にあるルーチンを授業の中に取り入れることです。ルーチンとは、実践的で機能的な思考のための質問集で、様々な学年やどんな内容にでも適用することができます。生徒が学習の過程で何度も用いることにより、次第にルーチンを使って考えることがクラスの文化として定着していきます
ルーチンの一つである「SEE THINK WONDER」は次のようなものです。
このルーチンは以下の3つの質問集から成り立っています。
・SEE ・・・・・・・・・・何が見えますか?
・THINK ・・・・・・・・それについてどう考えますか
・WONDER ・・・・・・・何が類推できますか?
それぞれの視点から、順番に思考を深める学習活動を進めていき、その評価を行います。
また、各ルーチンには必ず実践例が添付されており、実際に取り組む際のよい参考になります。
第7章 思考が評価され、可視化され、推奨される場をつくる
第8章 実践記録から
著者のロン・リッチハートは2000年からハーバード教育大学院のプロジェクトゼロ主任研究員です。プロジェクトゼロに参加する以前は、小・中学校の美術や数学などの様々な教科の教師をニュージーランド、アメリカのインディアナ州、コロラド州で経験しました。
彼の教師や研究者としての仕事は、様々な環境での学びにおける思考や理解、創造性を豊かにすることを重視することで一貫性があるものです。
また、共著者のマーク・チャーチは20年来の教育学者であり、生徒たちの思考や学びを豊かにしようと努めている教師や学校の管理職たちの手助けをすることに特別な関心を有してきました。
もう一人のカリン・モリソンは教師と生徒の思考や学びに関心のある情熱的な教育学者です。彼女の仕事は、生徒のより深い思考や理解をサポートするための環境や構成を用意することに焦点化されています。
全体の印象としては、図版が少ないので、文字ばかりの印象が若干残ります。一人でこの本を読み通すにはかなりの集中力が必要だと思われます。(ブッククラブが必要かもしれません)
また、事例も掲載はされているのですが、各ルーチンの手順(ステップ)だけを読んでもすぐに実践するのは難しいかもしれません。でも、興味がある方はぜひこの本を読んでいただき、教科や道徳の時間などで活用してみるとよいと思います。ただし、あくまでここで紹介されたルーチンは手段にすぎませんから、目的化しないことが大切です。
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