2026年3月29日日曜日

なぜ研修は役立たないのか? では、何が本当に効果を生むのか?

  『教師のためのアート・オブ・コーチング』の著者のエリーナ・アギラーさんが、つい先日、上記のタイトルの論考を書いていたので紹介します。

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忘れてしまう研修と、教師を変える(成長させる)研修を分けるのは、たった三つの要因です。

ある研修で、教師が私の方へ身を寄せて小声で言いました。「明日すぐに使えることを一つだけでいいから知りたいです」。この思いは、ここ20年ずっと聞き続けてきたものです。そしてこれは、多くの研究が示している事実とも一致しています。多くの研修が効果を発揮しないのは、教師に意欲や好奇心がないからではなく、対象のことを考えずに設計されているからです。

教師の学びに関する900以上の研究をまとめた大規模メタ分析では、効果的な研修は「焦点が明確で、継続的で、教師の目の前のニーズに直接関係している」ことが示されています(Darling-Hammond ほか, 2017)。しかし実際の研修の多くはその逆で、短時間に内容を詰め込みすぎ、成果が不明確で、情報を受け取る教師たちの感情面や認知面への配慮がほとんどなく、フォローアップもありません。

研修をうまく機能させるには、もっと早い段階から取り組み、まず対象に焦点を当てる必要があります。

1. 対象を知ること

研修をどのように計画しているかを担当者に尋ねると、多くはまず「扱うべき内容」を挙げます。教育現場のプレッシャーを考えれば理解できる反応ですが、生産的な出発点ではありません。本来の最初の問いはこうです。「今日、目の前にいる学び手は誰で、彼らが今もっとも必要としているものは何か?」

これは「曖昧で非科学的な話」ではなく、認知科学に根ざした考え方です。Malcolm Knowles1984)や Patricia Cranton2006)といった成人学習の理論家たちは、何十年にもわたり、大人は「尊重され、感情的に安心し、扱われる内容とつながりを感じられるとき」に最もよく学ぶことを示してきました。神経科学もこれを裏づけており、ストレスや過負荷、情緒の乱れは新しい情報を取り入れる脳の働きを弱めます。場にいる人々を理解しないまま内容に飛び込むと、学びが始まる前にその土台を損なってしまっています。

「対象を知る」ことを怠ると、いくつかの予測可能な問題が生じます。

  • 認知的過負荷:参加者の事前知識や心の準備状態を把握しないまま進めるため、内容が詰め込みすぎになる。
  • 学習目標の不明確さ:教師が何を最も必要としているかが見えないため、すべてを扱おうとして結局どれも定着しない。
  • 関連性の低さ:どれほど優れた方法でも、教師が自分の文脈や学年・教科等の現実と結びつけられなければ効果が出ない。

解決策はシンプルです。関連を見いだすことから始めるのです。

3〜5分ほどの短いチェックインをするだけで、学びの場は大きく変わります。たとえば、今どんな気持ちでこの場に来ているかを一言で表してもらったり、この研修に「参加してよかった」と感じられるために必要なことを挙げてもらったりするのです。経験値を把握するために、ペアでの短い共有や挙手を求めてもよいでしょう。大事なのは形式ではなく、「そこで得た情報に応じて応える姿勢」です。★

 

2. 焦点を絞る

次に大切な要因は、驚くほどシンプルです。学習到達目標を一つだけ決めることです。そう、たった一つです。

時間が足りず、プレッシャーの大きい教育現場では直感に反するように感じられるかもしれません。しかし、しかし、広く浅くよりも、狭く深く掘るほうが力になるのです。私は『教師のためのアート・オブ・コーチング』の後に書いた『The PD Book: 7 Habits that Transform Professional Development』のなかで、教師が研修後に「一つのアイディア」——一つのプロトコル、一つのルーティン、生徒作品の見方の一つ——を覚え、実践できることのほうが、20のアイディアを聞いて何も定着しないよりはるかに変革的だと強調しています。

目標を一つに絞ると、すべてが良い方向にゆっくりと進みます。ファシリテーターの目的が明確になり、参加者の認知的負荷が減ります。情報を整理し、質問し、練習するための余裕が生まれます。そして教師は「持ち帰って使えるもの」を確実に得られます。

私は研修担当者や管理職と仕事をするとき、計画を始める前に次の文を埋めてもらうことが多いです。「この研修の終わりまでに、教師は__ができるようになる。」もしこの文が長く、複雑で、接続詞だらけになるなら、目標がまだ明確でない証拠です。

3.研修中に「実践」を組み込む

研修が感情面でも認知面でもうまく受講者の教師に届いたとしても、それが教室での実践につながらないことがよくあります。その理由はシンプルです。学んだことを実際に使ってみる時間がないまま、教師が研修を終えてしまうからです。

Learning Policy Institute の研究では、練習・計画・フィードバックのための時間をしっかり確保した研修は、新しい学びの実践度を大きく高めることを示しています(Darling-Hammond ほか, 2017)。学習科学もこれを支持しており、「実践」は記憶を定着させ、不安を軽減し、習慣形成の条件を整えます。

実践のために複雑な仕組みは必要ありません。教師は翌朝使える5分間のルーティンを書き出してみたり、新しい視点で生徒の作品を分析したり、ペアになって会話プロトコルをリハーサルしたり、学んだ方法を使って授業の一部を短く計画したりすることができます。意図的な10分間の実践だけでも、新しい学びが定着する可能性は大きく高まります。★★

 

教師の人間性を尊重する

教師には、人間性と専門性を大切にする研修が必要です。教師の専門性を尊重し、時間を大事にし、授業改善につながる研修は、一つの基本から始まります。それは「対象を知る」ことです。その場にいる人をきちんと理解しようと立ち止まることで、焦点が定まり、大人の学びの現実に根ざした、人にやさしい学びを設計できます★★★。到達目標を一つに絞り、実践の時間を組み込むことで★★、行動が変わる条件が整うのです。

 

出典:https://www.ascd.org/el/articles/why-most-pd-doesnt-work-and-what-actually-does

★私が教員研修に関わり始めた頃、オーストラリアから招いた講師がしっかりこれをやっていたのを思い出しました。

ちなみにこのことは、当然のことながら、生徒対象の授業でも同じです! あなたは、診断的評価、形成的評価、総括的評価の理想的なウェートづけはどのくらいずつだとお考えですか? このこと(=学ぶ対象に焦点を当てて築く学び方・教え方)について書かれているのが、『学びの中心はやっぱり生徒だ!』ですので参考にしてください。先ほどと逆で、これはそのまま教員研修に応用できます!

★★しかし、https://projectbetterschool.blogspot.com/2015/11/blog-post_29.htmlの二つ目の表を見ると分かるように、実践=練習を研修会でするだけでは、残念ながら、ほとんどの参加者は学校に戻っても、それがやれないことはすでに1984年ぐらいの段階で明らかにされています。何が必要かというと、研修後のフォローアップ(=継続的なサポート)です。それが、この文章の執筆者であるエリーナさんがやり続けているコーチングの柱と言えます。一度きりのイベントとしての研修会でいくら努力をしても、参加者の教室や学校レベルの実践が変わることはほとんど期待できません。研修会で関心をもってくれたことを学びのサイクルとして回し続ける形で(https://note.com/coachingletter/n/n6718ea3f0f29?magazine_key=ma24c24afc5bdを参照)、自分のものにしてもらう仕組みが大切です。それを助けるのがコーチです。

★★★『教師のためのアート・オブ・コーチング』のなかには、実践を変える6つのレンズが紹介されており、その一つが「大人の学び」=成人学習のレンズなので、ぜひ参照してください。

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