人類は、その歴史の99.9%以上の時間(日本でも、たかだか、100年ぐらい前まで)は、大家族での子育てが当たり前でした。しかも、大多数の男親は子育てにはほとんどかかわっていないし、さらに最近20~30年はシングル(その多くは母親一人の)ペアレントも増えています。
それまでは、おばあちゃん、おじいちゃん、おばさん、おじさん、めいやおい、そして近所のおばさんやおじさん、さらにはちょっと上の子どもたちによって世話されていたのに、いまやひとり親がそれらすべての人たちが担っていた役割まで果たしているのですから、荷が重すぎます。
そこで本書で紹介しているのが、狩猟採集民のなかでは当たり前のアロ(「Allo(アロ)」はギリシャ語の「ほかの」という意味から来ています)ペアレントの存在です(『「しない」が子どもの自力を伸ばす: 叱らない・ほめない・コントロールしない、狩猟採集民の子育て術』の第15章)。
母親と父親以外で、子どもの世話を手伝ってくれる人なら誰でも、アロペアレントになることができます。親戚、隣人、友人、あるいはほかの子どもでさえ、素晴らしいアロペアレントになることができます。
人類学者サラ・ブラッファー・ハーディーは、こうした「多くの助け」ないし「追加の親」が人類の進化に不可欠だったと考えています。彼女はキャリアを通じて、この仮説を裏づける膨大な証拠を収集しました。サラは、人類が子育ての責任を集団で分担するように進化してきたと考えています。同時に、人間の子どもは、単に両親二人だけでなく、数人の人々と結びつき、絆を深め、一緒に育てられるように進化したと信じています。
私はかつて、このアロペアレントの家族が「愛の輪」と呼ばれているのを聞いたことがありますが、それはとても適切な表現だと思いました。(同上、353~4ページ)
現代の狩猟採集民の一例として、中央アフリカの熱帯雨林に何千年も住んでいるエフェ族の例を紹介してくれています。
母親が出産するとすぐに、ほかの女性たちが彼女の家を訪れて赤ちゃんの「SWATチーム(特殊部隊)」を編成し、赤ちゃんのすすり泣きや泣き声にいつでも対応できるように準備します。彼女たちは生まれたばかりの赤ちゃんを抱きしめ、寄り添い、揺らし、さらには授乳もします。人類学者のメル・コナーが書いているように、「ぐずる赤ちゃんへの対応は、集団の努力です」。数日後、母親は仕事に戻り、赤ちゃんをアロママに預けることができるのです。
新生児は生まれて最初の数週間、平均して15分ごとに一人の世話係から次の世話係へと移ります。赤ちゃんが生後3週間になるまでに、アロママによる世話は新生児の身体的な世話の40%を占めます。16週間までには、なんと60%を占めるようになります。さらに2年後には、その子どもは母親と過ごす時間よりも、ほかの人々と過ごす時間のほうが多くなります。(同上、354~5ページ)
まさに、「母親が赤ちゃんの人生で唯一の存在となり、赤ちゃんの世話に全力を注ぐ西洋の状況とは大きく異なります」(同上、355ページ)
また、アロペアレントは、他の母親たちだけが担っているわけではありません。子どもの年齢が大きくなるにつれ他の父親たちも、そして6歳~11歳ぐらいの子どもたちも担っています。
フィリピンの狩猟採集民のアグタ族を研究している人類学者アビゲイル・ペイジの報告によると、6歳から11歳のこのミニ・アロペアレンツは、幼い子どもたちのケアの約4分の1を担当していました。彼らは母親たちの手を空けさせ、女性たちは仕事に戻ったり、ただ休んでリラックスしたりすることができました。そして、これらのミニ・アロペアレンツは、単に子守りをしたわけではありません。それ以上のことをしていたのです。彼らはその役割を真剣に受け止め、乳幼児に対しての教育も行いました。
アビゲイルは、世話が必要な子どもより5歳ほど年上の幼い子どもこそが最高の教師になれると考えています。親よりもずっと優れた教師です。彼女が指摘するところによれば、若い子どもたちには私たち大人にはないいくつかの大きな利点があります。彼らは親よりもエネルギーにあふれています。遊びやごっこ遊びを自然に「教える活動」に取り入れるので、学びがより楽しくなります。そして、課題に対する彼らのスキル・レベルは、より幼い子どものレベルに近いのです。(同上、357ページ)
こうして世界中の狩猟採集民の経験から学んだ著者は、サンフランシスコに戻って次のような試みを早速し始めみたり、提案してくれています。
・子どもの人生における「補助的な母親」や「補助的な父親」を大切にする。
・ミニ・アロペアレントを育てる。
・おばさんとおじさんのネットワークをつくる。
・MAP(「多年齢プレイグループ(multi-age playgroup)」または「混合年齢プレイグループ(mixed -age playgroup)」の頭文字)をつくる。
・親戚を受け入れる(または彼らの貢献を大切にする)。
以上、アロペアレントは、本書でたくさん紹介されている子育てのヒントの一つです。子どもとの時間をこれまで以上にもつことになる夏休み中の親にとって必読の書となることでしょう。
一方でお子さんがいないか、すでに巣立ってしまった教育関係者にも役立つ内容が豊富に含まれています。その中には、先週紹介した「練習+モデル+承認=スキルの習得」という公式や、従来の子育て(と、会社や行政などの組織、さらには学校でも当たり前にやられ続けている)「叱る、ほめる、コントロールする」アプローチとは反対の「共に過ごすこと、励ますこと、自立、最低限の干渉」(4つの頭文字をとってTEAM)アプローチがあります。
そして、上で紹介したアロペアレントならぬアロエデュケーター(教師とは違う教え手)の可能性を考えることなどです。アロエデュケーターに教室やその他の場で活躍してもらうことで、教師は楽になるだけでなく、関わってもらうアロエデュケーターたちにとって大きな学びがあり、もちろん助けを受ける生徒たちは(時には教師から教わるよりも)はるかに効果的な学びを得ることになりますから、誰にとってもいいこと尽くめです。
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