私は、学園ものドラマ全盛期の世代です。1960年代後半から1980年のころ。番組のタイトルには、たいてい「青春」の文字が入っていました。例えば、青春とはなんだ、これが青春だ、でっかい青春、青春をつっ走れ、泣くな青春、飛び出せ!青春、ーといった調子です。よくもまあこれだけ思いついたものだと関心しますが、当時の日本の状況がよく現れているような気がします。日本は、高度経済成長の真っ只中、明るい未来に向けて、列島全体が熱狂の中にいた。学校も青々しい若さの中で、はつらつとしていた。
私は、これらの番組のファンで、主人公である熱血教師にあこがれの気持ちを抱いていました。教員採用試験の面接なんかでは、もっともらしい志願理由を述べたと記憶していますが、今でこそ白状しますが、本音のところは、学園ドラマの主人公の先生のようになりたいと思っていたのです。
生徒たちと取っ組み合い、語り合い、情熱をもって、共に歩む、そんな教師になりたかった。
もちろん、情熱だけで何とかなるほど簡単なわけではないですが、学習者のモーチベーションに影響を与える重要な要因の一つが、「教師の情熱と学習への関わりの深さ」であるとことは多くの研究で示唆されています。★1
生徒たちが、夢中になって学び続けるためには、教師自身が自分の仕事に夢中になって取り組み、楽しんでいる必要がある。
一方で、このような情熱に任せた、猛烈な「働き方」が、決して健全とは言えない教師の働き方を生んできたのも事実でしょう。夜遅くまで学校に残って働き続けることや土日に部活動で仕事に行くことは、教師にとって当然のことという認識は、長らく共有されてきました。多くの教員がバーンアウトで苦しみ、精神疾患も抱える教員の数も増え続けています。★2
そのような働き方から外れることは、教師としてとても居心地の悪いことだったと感じてきた人は多い。私の友人も、早い時間が職場を出るときに、罪悪感を感じると言う人はたくさんいます。また、週末の部活があるために、家族へのサービスは二の次にしてきたと忸怩たる思いを語る友人も少なくありません。利他的と言えば聞こえは良いけれど、滅私奉公的なマインドセットが当然のことのように定着していると感じます。
働き方改革は、喫緊の課題です。しかし、働き方改革の取り組みは必ずしも上手くいっているようには見えません。時短、いわゆる勤務時間を機械的に削減しても、解決しない問題であることは、分かってきました。働きがいや業務の負担感、時間不足による焦り、手抜き可能な業務との関係など、勤務時間以外の要員も考えるべきという提案は興味深いものです。★3
教師が幸福(ウエルビーンぐ)を求めることは、「甘えでもわがままでもない。その回復力と素晴らしい授業実践のための重要な鍵に他ならない。」 ★1 (p.89)こういった考え方を、もっと多くの人が示し、実践すべきではないかと思います。
仕事への情熱を持ち続けるためには、少し肩の力を抜いて、何を捨て去るべきか、冷静に考えることは必要ではなないでしょうか。今、このタイミングで、思い切って教師にとって、本当のウエルビーイングとは、何なのか、考えてみたいものです。
★1 サラ・マーサー/ゾルタン・ドルニュイ(2022)『外国語学習者のエンゲージメント』アルク.
★2 うつ病などで休職した教員 初の7000人超 過去最多 文科省調査
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241220/k10014673801000.html
★3 露口 健司 「教員のウェルビーイングと働き方改革 —働きがいと信頼関係の観点から—」, https://ippjapan.org/archives/8386
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