2025年4月6日日曜日

エンゲージメントを実現するための教師の行動

これまで、数回にわたって学習者のエンゲージメントについて考えてきました。★1 今回は、そのまとめ。生徒たちのエンゲージメントを実現するために教師はどのように行動すべきかということを考えたいと思います。

先日、仲間の英語教員と、エンゲージメントに関する本のブック・クラブをやりました。参加者の一人、高校教員の振り返りです:

「エンゲージメントとは?という問いに戻って、もう一度1章を見直したことでした。生徒に何ができるようになってほしいか、何を考えてほしいか、を考えてゴールを設定しますが、夢中になっているか?満足しているか?を踏まえて授業を考えていたかと言われれば、Yesと言えません。教科書を進めること、単元末のゴールとなる活動をやりきることに必死になっていることの方が多いです。教科書の内容をどう進めるのか、評価や定期テストのためではなく、エンゲージメントのための授業づくりをする時間が欲しい。。。今、次年度の「論理・表現」★2 の授業を変えようと勤務校の英語科教員で話し合っています。定期テストはなくてもいいかも? 教科書は必要か?など、話し始めたところです。」

エンゲージメントという考え方の大切さは分かるけれど、自分自身の授業の中で、実現できているのか確信がもてないでいるようです。「今でもそれなりにがんばっている。この上にさらに何ができるんだろうか」といった声もありました。

これまで参照してきた、マーサーさんとドルニュイさんは、エンゲージメントを生み出すマインドセットを、生徒たちの中に創り出すために、教師が行動すべき5つのことを紹介しています。★3

行動1 コーチのように考え、行動する

 学習者が自らの力で、目標を達成できるように、パートナーして行動する。あくまで、目標達成の主体者は学習者本人。 

行動2  学習者の進歩を可視化する

 学習者に進歩を実感させること。それにより、満足感や有能感をもたせる。

行動3  信念について明示的 ★4 に話し合う

 学習についての、後ろ向きな考え方をやめさせ、前向きで健全な考え方を育む。

行動4  選択や意見を取り入れる

 学習のプロセスに、学習者自身の選択や意見を組み込むことで、学びへの自律性と積極性を育てる。

行動5  学び方を教える

 自分の学び方の特徴、学習課題の性質、効果的な学習ストラテジーへの意識を高める。

ここから、見えてくるのは、生徒たちが学びに対する主体者意識や当事者意識、あるいは、自らがコントロールしているといった感覚がもてるようにするために、生徒との対話を進めていく、そのような姿でしょうか。従来であれば、教師が生徒に伝えて(押し付けて)いたようなことを、生徒自身が自分自身で見出し、自分自身の学びの世界を切り開いていく。それを教師が後押ししていくといったイメージが浮かびます。

これらの行動を、授業の中でどうやって実現していけば良いのか、まずは探っていく必要がありそうです。

先に紹介したブッククラブのメンバーは、経験サンプリング★5 という方法を使って、授業中の生徒たちのエンゲージメントがどのような場面で高まり、どのような場面で低下するか、そのタイミングを探ってみることにしました。その結果をもとに、これからの授業づくりを考えていきたいと言っています。教師のエンゲージメントの探究の始まりです。

メンバーの一人は、エンゲージメントに関するブッククラブの振り返りで、次のように書いています:

「本当に授業が楽しかった時は、授業の後に、「今日の授業たのしかったぁ」と言ってくれる子がいます。また、年度末や異動で変わる時にメッセージで授業のことを書いてくれる子がいます。色々と工夫してがんばって授業をしていたことは子ども達は見てくれています。」

子供たちが夢中で授業に取り組む姿をみることが、教師のエンゲージメントにつながる。これは、いつの時代でも不変の真実のようです。

★1 PLC便り

2025年2月 「エンゲージメントの周辺」

https://projectbetterschool.blogspot.com/2025/02/blog-post.html

2025年3月 「エンゲージメントを決定づける要因」 https://projectbetterschool.blogspot.com/2025/03/blog-post.html

★2 現行の学習指導要領にある高等学校の英語の科目名。旧「英語表現」に代わって導入されたもの。

★3 サラ・マーサー/ゾルタン・ドルニュイ(2022)『外国語学習者のエンゲージメント』アルク, pp.61-75.

★4 直接、口に出して話し合うという意味で用いられているようです。原著では、”Discuss Beliefs Explicitly”となっています。

★5 授業中に10分ごとにチャイムのならし、その時点での認知エンゲージメントのレベルを生徒の自己評価させる方法。『インストラクショナル・コーチング』(ジム・ナイト著、図書文化、2025、近刊予定)第5章に紹介されています。