2024年5月26日日曜日

探究力を育む理科の授業(4)

 

今回は「さらなる探究活動」ということで、「科学者の訪問」を考えます。

 『だれもが<科学者>になれる!(新評論・2020)では、第8章「さらなる探究活動」のなかに、「科学者の訪問」というトピックがあります。(同書179ページ)その冒頭の紹介です。

  科学的思考を重視する教師なら誰でも、本物の科学者が教室を訪れることを歓迎するでしょう。本物の科学者が、身の周りの疑問や問題に対してどのように行動するのかについて手本を示してくれることになります。科学者は、自らの研究や探究に関する素晴らしい物語をもっています。

  この原著の出版が今から25年前ということを考えると、現在では科学者のアウトリーチ活動★としての教室訪問は飛躍的に多くなっていると言えます。ただ、残念なことは、個々の授業に参加するというよりは、〇〇科学教室や実験教室といった名称のイベントに登場するほうが圧倒的に多いということです。『だれもが<科学者>になれる!』にあるような理科の授業に来てくれる科学者の数はそれほど多くないでしょう。しかし、各種学会が行っている大学教員や研究機関の研究者派遣という事業はあると思います。このような派遣のしくみをうまく利用することも大切です。理科関係の専門家を探すときは、各分野の学会ホームページなどを手がかりにすることも可能でしょう。

 かつて県立科学館に勤務しているときに、年に3回開催していた企画展を計画するときは知り合いの大学教員や学生時代の友人のつてをたどって、そうした専門家を探しました。大切なことはそうしてできた人間関係を1回きりで終わらせるのではなく、その後も定期的にコンタクトを取ることです。そうすると面白いことにネットワークが広がっていきます。するとまた新しい出会いがあり、そのネットワークがさらに広がります。結果として、新しい会合やイベントが増え、面白いことがますます増えていきます。「忙しいのに何を酔狂なことを」と考えるのはなく、忙しいからこそ、ワクワクすることを求めていくのです。

「教員の働き方改革」により、さまざまな取り組みが各地で行われていますが、依然として、教員の多忙感は現場の感覚では、それほど解消されていないようです。もちろん働き方改革は今後も進めていく必要がありますが、それと同時に、仕事に「やりがいを感じられる」という視点もぜひ忘れてもらいたくないものです。

 

また、ネットワークを広げる方法の一つとして、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)理数学習推進部が主体になっている「JST理数大好きNEWS」で、理数に関するイベントやプログラムの紹介などの情報を得ることもよいでしょう。その下部組織である日本科学未来館はわが国有数の科学館ですが、みなさんの住む近くにある科学館・博物館も理科に関する資料や模型、実験器具の宝庫です。これも私がかつて勤務した科学館での経験ですが、企画展などで製作した大型の実験器具・道具や解説パネルなどはイベント終了後に倉庫のなかに眠っていることが多いのです。ですから、学校ではなかなか手に入らない大型実験器具などはそうした施設に相談すると、うまくいけば借りることもできると思います。

 

最初の話に戻りますが、授業で専門家の助けを借りたいときは、これまで述べてきたような方法で、直接アプローチしてみることが大切です。専門家の方々は仕事の都合と時間さえ合えば、多くの場合協力してもらえると思います。また、直接出向くことは無理だとしても、オンラインで登場してもらうことも可能でしょう。ただ、校内において、自分一人でそうしたことを進めていくのは大変ですから、校内の仲間の力を借りることがとても大切だと思います。そうした仲間とまずは校内のネットワークを作ってみる。それがこうした専門家との連携を図った授業のスタートであると言えるかもしれません。特に、こうした人間関係づくりは若手・中堅の先生方に積極的に取り組んでもらえることを期待したいものです。それが子どもたちのよいモデルになります。関係づくりの苦手な子どもが増えていると思いますので、口先だけの指導ではなく、教師が自らモデルになって行動で示すこと、これが校内のさまざまな場面で求められているように思います。

 

★「国民の研究活動・科学技術への興味や関心を高め、かつ国民との双方向的な対話を通じて国民のニーズを研究者が共有するため、研究者自身が国民一般に対して行う双方向的なコミュニケーション活動」のことです。(文部科学省・「科学技術・学術審議会」学術分科会・学術研究推進部会(第10回)平成1767日資料より)

 

2024年5月19日日曜日

(若手)教師におすすめの本

 私が学校に関わり始めた1980年代の後半、校内研修の前に校長室で話していると、多くの校長は口を揃えて「学校で実験はできない」と言っていたのを鮮明に覚えています。(今も同じようなことを言い続けているでしょうか?)

 特に若手教師のことを考えた場合(ベテラン教師も、同じですが!)、実験をし続けないで、いったいどうやって学び続けられるのでしょうか?

 常に、学び続けているモデルを生徒たちに示し続けることが教師の大切な役割ではないでしょうか? 

そのためには実験というか、新しいことにチャレンジし続けることが不可欠です。

 知り合いの先生方に、(若手)教師におすすめの本を共有してもらいました。それは、紹介者を導き、彼らの教え方を形成し、彼らの見方やあり方を挑戦し、彼らを強く動機づけた本です。

 英語のオリジナル版では、14冊のタイトルに絞り込まれています(どういう基準で絞り込んだのかは、書かれていません!)が、日本版は回答してくれた先生方のリストをそのまま紹介します。なので、全部を読もうとしないでください(全部で何冊か、私ですら把握していません!)。また、味わう価値のある本が多いですが、これらを短期間で読もうなどとは思わないでください。長い教職の道を歩むなかで、ご自分の成長と共に読みたいと思ったものに手を伸ばしてみてください。

◆ 

 オリジナルのリストは、https://www.edutopia.org/article/essential-books-new-teachersでご覧ください。このなかで邦訳のあるのは、次の通りです。

・『世界最高の学級経営 : 成果を上げる教師になるために』ハリー・ウォン, ローズマリー・ウォン著、稲垣みどり訳、東洋館出版社

・『学ぶことは、とびこえること : 自由のためのフェミニズム教育』ベル・フックス著、朴和美ほか訳、ちくま学芸文庫

・『被抑圧者の教育学』パウロ・フレイレ著、三砂ちづる訳、亜紀書房

・『大学教師の自己改善 : 教える勇気』P. J. パーマー著、吉永契一郎訳、玉川大学出版部

 ベル・フックスの本は、フレイレの本に強く影響を受けた本です。サブタイトルに「フェミニズム教育」とありますが、私はまったくそれを意識せずに読めました。フレイレのよりもおすすめぐらいかもしれません。

 最後の本は、タイトルも訳も、いまいちです(『教える勇気』が原タイトルで、大学教師に絞っているわけではないです!)。アメリカでは、この本をベースにした研修プログラムに人気があるぐらいに普及しています。https://couragerenewal.org/

 これら4冊のリストからも、日米の大きな違いを感じます。

 14冊のリストの傾向としては、フレイレ関連の2冊の本に代表される抑圧された/虐げられた/弱い立場にある者たちや言語・文化・人種の異なる生徒への対応の仕方を扱った内容が多いこと、学級経営が2冊、読むことが2冊、そして算数・数学が1冊。最後の算数・数学については、すでに本ブログで紹介しています。https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/04/blog-post.html

 日本の先生方のリストは、以下の通りです(リストが長くなるので、今回は5人に限定して紹介します)。「(若手)教師におすすめの本は?」というシンプルな質問によって、これだけたくさんのいい本に出合えました。答えてくれた先生方に感謝です!!(皆さんも、ぜひ身近な先生たちに同じ質問をしてください。そして、いい本に出合ったらpro.workshop@gmail.com宛に紹介をお願いします。)

 

A先生(中学校国語)

・「イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室」

何よりも、この本です! その他は、以下の本かな・・・

 

・「てん」ピーターレイノルズ

 てん」は特別支援の子ども(情緒障がい、知的障がい)に好評でした。

 最後の場面でワシテが男の子に「サインして」と言うことを推測できた子もいました。

 

・「おにいちゃんとぼく」ローレンス・シメル/ファン・カミロ・マヨルガ

 お兄ちゃんは目が見えないのですが、目が見えないとはどこにも書かれないです。でもわかるという本です。

 

・「まめまめくん」デヴィット・カリ/セバスチャン・ムーラン

 からだの小さい子どもが自分の良さを見つけて生きていく本です。

 

・「特別支援教育が教えてくれた 発達が気になる子の育て方」 平熱(へいねつ)

 この本は、特別支援学校にお勤めの現役教師がTwitterでつぶやいていた内容を端緒として、特別支援教育の考え方を平易に著したものです。

 著者の発するフレーズで、私が好きなものは「特別支援教育は全人類に有効です」です。

 気負わずに読める本です。今の若手はこれぐらいのものからでないと、学べないのではないかと思います。そういう意味でもおススメです。

 絵本をおススメする理由も同じです。

 ほぼ、生徒に近いと思っています。

 

B先生(小学校)

最初の質問 長田弘

ひとりで、考える 小島俊明

私たちは子どもに何ができるのか ポール・タフ

「みんなの学校」をつくるために 木村泰子✖️小国喜弘

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー ブレイディみか子

やさしく、つよく、おもしろく。 ながしまひろみ

11組せんせいあのね 鹿島和夫

WE HAVE A DREAM 201カ国202人の夢✖️SDGs 

ミライの授業 瀧本哲史

世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ くさばよしみ編 

いまを生きるあなたへ 贈る詩50 二瓶弘行編

灯し続けることば 大村はま

 

C先生(小学校、現在市内の社会教育施設に出向中)

『新編 教えるということ』 大村はま ちくま学芸文庫

『まるごと好きです』 工藤直子 ちくま文庫

『詩ってなんだろう』 谷川俊太郎 ちくま文庫

『遊びが学びに欠かせないわけ 自立した学び手を育てる』築地書館

『理解するってどういうこと?』 新曜社

『たった一つを変えるだけ クラスも教師も自立する「質問作り」』新評論

『マインドセット学級経営』アニー・ブロック/ヘザー・ハンドレー著 佐伯葉子 東洋館出版社

『ジェネレーター 学びと遊びの生成』市川力 井庭崇 学事出版

『独学大全』 読書猿 ダイヤモンド社

『てん』ピーター・レイノルズ 谷川俊太郎訳 あすなろ書房

『ウエズレーの国』ポール・フライシュマン/ケビン・ホークス 千葉茂樹訳 あすなろ書房

『クリエイティブの授業 : "君がつくるべきもの"をつくれるようになるために』オースティン・クレオン著 千葉敏生訳 実務教育出版

 

D先生(小学校、現在特別支援担当)~ 長い紹介文まで書いてくれました!!

『子どもにいちばん教えたいこと将来を大きく変える理想の教育』

2007年出版ですが、今でも瑞々しさを取り戻すことができるような本です。エスキス先生の教育実践本で、追試のために詳細に書かれているわけではないのですが、本当にこういう教室をつくることができたら、教師として幸せだろうなあと読み返しました。ロサンゼルスの貧困に苦しむ子どもたちの先生にであるエスキス先生は、シェークスピアを上演したり、ブッククラブをしたりして、子どもたちに豊かに生きる喜びを与えていきます。文章から『作家の時間』や『読書家の時間』を実践していることが読み取れます。

 

『シンプルな方法で学校は変わる―自分たちに合ったやり方を見つけて学校に変化を起こそう』

これの前身である『効果10倍の(学び)の技法』で、狭かった僕の教師の視野が一気に広がったように思います。逆説的ですが、「先生とはこうあるべきだ」という自分の認識に気がつくことが、まずは教師という仕事のスタートラインなのかもしれません。教師という仕事をつまらないものにしないで、もっと自由で豊かなものにするためのエッセンスが詰め込まれています。

 

『ありのままがあるところ』

人と深く関わる仕事は教師以外にもいろいろあります。仕事が違うと、人の見え方が大きく変わってくる。その視点の多様性を若いうちから知ることができたら、教師という仕事はまたひとつ違ったものになるかもしれません。この本の著者は知的障がい者施設で働いています。眼差しが心の底から優しい。その人の人生において、他者がどのように関わったら良いのか、根本から立ち戻って考えさせてくれる本です。人を幸せにできるのは、人だけなのかもしれません。

 

『やりすぎ教育: 商品化する子どもたち』

親や教師による不適切な教育ついて、強く警鐘を鳴らした本です。この本が『教室マルトリートメント』へと発展して行く基盤をつくったと思います。私たちは実は結構過酷な環境の中で仕事をしています。35人の人の学習、生活、社会性、体調管理、人生相談など、多種多様なケアを、たった一人で行うことが求められる仕事は、この社会には教師しかいません。カウンセラーも、高齢者介護も、スポーツトレーナーも、人数や職域を限定することで、仕事の品質を維持しています。そんな状況だと、やっぱり子どもたちを「商品化」させて管理しやすくすることになってしまいますよね。『〈叱る依存〉がとまらない』もおすすめです。

 

『おやときどきこども』

この本に出てくるエピソードは、塾の進路相談のような状況が多いです。著者は一言言えば、塾の先生。この著者の視点から見ると、子どもも保護者も、悩み苦しんで、喜んで、一息ついて、みんな深く深く考えているんだということを、思い起こさせてくれます。子どもの気持ちがわかる先生というのは、こういう方のことなのだと思っています。そして、自分自身も中学生の子どもをもつ保護者として、保護者の立場に立って、親の気持ちにも寄り添えるような教師でありたいと思っています。『君は君の人生の主役になれ』も優しさに溢れる本です。

 

『先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち』

教室の子どもたちが「いい子症候群」か分かりませんが、教師としての自分自身が「いい子症候群」になっていないか、セルフチェックしてしまいます。著者は大学で心理学を教える先生です。著者の学生を大切にし、だからこそ、ちゃんと苦言を呈して伝えたいという強い思いに溢れています。これを読む方が若い方ならば自分を見つめるために、ベテランの方ならば不安な若者たちを励ますことができるように、著者の温かさを感じながら読んでほしいと思います。

 

E先生(高校・英語)

『モリー先生の火曜日』

14歳からの哲学』

『子どもの誇りに灯をともす』

『みんな羽ばたいて』

『考えるとはどういうことか』

『人を伸ばす力』

『教えるということ』

『授業を磨く』

だったのですが、edutopiaの記事を読んで、

『非抑圧者の教育学』

Teach Like A Champion』(これは2.0を読みました)

も確かにいい本だと思い出しました。フレイレは今読むともっと理解できるかもしれないと思いますので、読み直します。

 

他には、

UDL学びのユニバーサルデザイン』

『読んでわかるリフレクション』

『プレイフルラーニング』

『プレイフルシンキング』

『たった一つを変えるだけ』

『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』

です。

2024年5月12日日曜日

問題づくりは、子どもたちがセンスをつくりだす

 今朝、私たち「数学者の時間」の研究チームの会議で興味深い議論が持ち上がりました。テーマは「子どもが問題づくりをする行為にどんな意義があるか」というものです。学校教育の現場では、各学習単元が進むにつれて、終わりには必ずテストが設けられています。理想的には、子どもたちはテストのためではなく、知識を深めるために学ぶべきです。しかし、現実は少し異なります。多くの場合、良い成績を得るために学ぶという、評価手段が目的化してしまっているのです。この問題は多くの教室で共通して見られる現象ではないでしょうか。

この問題に対して、子どもたちが自ら問題をつくり出すプロセスは、学びの動機を再び彼ら自身の内に向ける手段となり得ます。問題をつくることで、子どもたちは自分たちが学んできた内容を深く理解し、それを自分の言葉で表現する能力を養うことができます。これは、評価の目的化を避け、真の学びへと導くための有効な手段といえるでしょう。

この点から考えると「教育における評価の役割とは何か」、という問いが浮かび上がります。私たち「数学者の時間」のプロジェクトでは、評価とは単に学びの成果を測るものではなく、子どもたち自身が意味ある学びを創造する手段であると位置づけました。私たちのプログラムでは、良質な問題(良問と呼んでいます)に取り組むことだけに留まらず、その問題の特性を捉え、問題文や条件を自分なりにアレンジすることで、子どもたち自身が独自の問題を設計します。この過程は、子どもたちにとってただの問題解決以上のものになります。

問題作成を通じて、子どもたちは単に問題を解くだけでなく、問題の構造を深く理解し、その構造を利用して新しい問題を作り出す技術を身につけます。また、自らつくった問題を友人に解いてもらうことで、コミュニケーションや協力の場が生まれ、学びの楽しさを共有することができます。このプロセスは、「解けた!」という単発の成功体験から一歩進んで、学ぶ楽しさや仲間とのつながりを深める動機付けにもなります。

このように、自分で問題をつくる活動は、教室内での一方通行的な学びから脱却し、子どもたちが自分の学びに主体性を持ち、自信を深めるためのキーポイントとなります。算数・数学が、単なる知識の習得から子どもたち自身のものとして認識される変化、オーナーシップの獲得というパラダイム転換を促すことができるのです。問題づくりは、その可能性を広げる力を持っています。

発達心理学と教育心理学の分野で活躍したロシアの心理学者ヴィゴツキー(Lev Vygotsky)は、言語と思考の関係性を探求する中で「ミーニング」と「センス」の概念を重視しています。

「ミーニング」とは語義のことであり、言葉や表現が持つ一般的または辞書的な意味を指します。これは言葉が社会的にどのように理解されているかに依存します。例えば「ネコ」という言葉の語義は、四足歩行の哺乳類を指すことを社会的な共通認識としています。

一方で、「センス」とは、その言葉が個々の使用者にとって持つ具体的な意味や感覚を指します。これは個人の経験、文脈、感情的な状態によって変わります。例えば、ある人にとっての「ネコ」という言葉は、その人が育った家庭の愛猫を想起させるかもしれません。

学校文化の中では、語義を伝える事が多く、子どもたちにとって自分自身の意味をつくり上げるような「センス・意味づくり」の時間が少ないと感じています。もちろん、語義と呼ばれる知識を積み上げることは大切です。しかし一方で使いもしない知識をたくさん仕入れたり、受験のためだけの知識を子ども時代を犠牲にしてまでみにつけることに一度立ち止まって考えてほしいのです。

最近、重苦しい空気がただよっている教育現場。私たち現場の教育実践者から自由な実践に挑戦しながら、子どもたちに意味のある子ども時間を過ごせるよう、数学者の時間の実践は続いていきます。

2024年5月5日日曜日

熱意と謙虚さのバランス

リーダーシップは、学校にとって常に重要なテーマでした。

変わらない学校からの脱却を目指す学校リーダーへの提案として、2021年、『学校のリーダーシップをハックする』という翻訳書が出版されています。同書の訳者まえがきには、「あなたが原動力となり、リーダーシップをとる気概さえあれば、学校は変わります。校長や教頭、教師一人ひとりがイノベーションを起こせる存在なのです。」★1 リーダーの存在は、学校をいかなる組織にも変えうるものとも言えます。

教育現場を経験した人であれば、誰でも、学校におけるリーダーのあり方について、何らかの意見や見解をもっていることと思います。さまざまなタイプのリーダーがいます。強烈な個性と情熱をもったリーダーもいれば、沈着冷静で揺るがないビジョンを示し続けるリーダーもいます。時には、大きな疑問符がつくようなリーダーに出会ったこともあるのではないでしょうか。誰しも、経験に基づいた、何らかのリーダー像をもっているとはずです。

『インストラクショナル・コーチング』の著者ジム・ナイト氏は、「効果的なリーダーは感情的な知性があり、人間関係構築のスキルを駆使して、チームを共有された目標に向かわせることに秀でています。また、彼らは優れた聴き手であり、部下たちを本当に気にかけています。彼らのエゴよりも、彼らの行動を駆り立てる大きな目的の方が重要なのです。彼らは組織文化を理解し、それぞれの相手を個別に扱います。そして、効果的なリーダーは偽善者ではなく、有言実行の人なのです。」と述べています。

特に興味深いのが、効果的なリーダーであるための条件の一つとして、「熱意と謙虚さのバランスが取れていること」をあげている点です。

氏が収集したコーチングの事例では、対象となる教員にうまく働きかけたとしても、あまり強く押し付けず、控えめな姿勢を取り続けた場合、あまり期待するような成果があげられていません。あまりに謙虚で、控えめ過ぎて、秘めたる熱意が届かなかったのでしょうか。

一方で、「教師たちと協力的なアプローチをとりながらも、同時に変革に導くために意欲的で、計画的で、目標志向的」だった場合、その学校は目覚ましい変容を遂げたといいいます。

「個人としての謙虚さ」と「職業人としての意志の強さ」という一見矛盾したようにみえる組み合わせをバランスよく両立させているところに、人を動かす極意があるのかもしれません。


★1 ジョー・サンフォリポ&トニー・シナシス (2021) 『学校のリーダーシップをハックするー変えるのはあなた』新評論.

★2『インストラクショナル・コーチング』(ジム・ナイト著、図書文化、2024)まもなく発刊予定です。