新年度が走り出し、一年で一番忙しいこの4月。今年はどんな授業を大切にしようかな、子どもたちとどんなことをやってみたいかななど、想像していることだと思います。私は今年度、子どもたちと「考えること」を大切にしようとわくわくしているところです。
私たちは、子どもたちが考える力をもっていると本当に信じていますか? もしかして、ていねいに説明をして、こまかく指示をし、繰り返し練習したり、暗記することによってはじめて、子どもたちは考えられると思ってはいないでしょうか。
カナダにあるサイモン・フレーザー大学のピーター・リルジェダール教授は、算数・数学において"子どもたちは考えることができないか、考えないだろうという前提で成り立っている "と教師が子どもたちと低く見積もってしまっている点を批判し、“もし子どもたちが考えていないのなら、子どもたちは学んでいないのです”と、教え込み授業に対して痛烈に批判しています。
このような状況では、子どもたちが自発的に問題解決に取り組むことを期待するのはどだい無理な話。暗記ばかりしている子どもには、将来、難しい問題解決に立ち向かうための自尊心を育み、挑戦的で時には混乱するような課題にも取り組むことができません。
そこでリルジェダールは、10年以上にわたる研究や実験、400人以上の幼稚園から高校までの教師との協同研究により、教室が主体的に「考える教室」に生まれ変わるために必要なその変数・要素を見つけ出し、特定しました。それには課題の選び方、子どもたちの学び方や協力の仕方について、教室での活動の進め方などが提唱されています。ここにその一番効果的な最初に3つを紹介します。★
1. 考える教室では、考える問題から扱う
子どもたちに考えさせたいのであれば、問題解決のための優れた考える必要のある問題を用意することです。
6面体のサイコロを想像してみましょう。「1」は「6」の向かい側、「2」は「5」の向かい側、といった具合に反対側の面と合計が常に7であることに気づくはずです。では、この制約を受けない6面体のサイコロを自分で作るとします。何種類のダイスがつくれますか?
学年の初めには、子どもたちたちが解いてみたいと思えるような魅力的な問題を用意します。まずはカリキュラムとは関係の無い問題からはじめことで、考えるためのモチベーションを高め、自分自身に挑戦する意識を育てることが必要です。
これらの課題は慎重に順序立ててながら少しずつ難易度を上げていきます。教室の中に考える文化が育ち始めたら、問題を徐々に学習カリキュラムの課題におきかえ、ゆくゆくはカリキュラムの中でより多くのより長い時間を子どもたちが考えられるようにしていきます。つまり、最初に考えるおもしろさを味わえるようにするのは、深い学びにつなげるためこその回り道なのです。
2. 考える教室での共同グループの作り方
考える教室では、授業の最初にランダムな方法で授業中ずっと一緒に活動する3人ずつのグループをつくります。子どもたち同士のコラボレーションが機能すれば、学習に強力な影響を与えるからです。(Edwards & Jones, 2003; Hattie, 2009; Slavin, 1996)。
しかし、教師が意図的にグループを分けたとても(Dweck & Leggett, 1988; Hatano, 1988; Jansen, 2006)、子どもたち自身がグループをつくったとしても(Urdan & Maehr, 1995)、80%の子どもたちが「このグループでは、自分のやることは考えることではない」という意識を持ってしまうことが分かりました。
そこで、ランダムな3人グループ(そこでは役割がふられ、「記録係・発表係」「質問係」「司会」など)を作ったところ、それまで受動的だった学習空間を、学生が60分以上考え続ける能動的な思考空間へと変える大きな効果がありました。また、6週間以内に100%の子どもたちが「自分は考えるだけでなく、貢献する」という意識を持ってグループに入るようになりました。頻繁にランダムなグループ分けを行うことにより、教室内に生まれる社会的差別をも取り払い、知的な交流を高め、子どもたちの心理的ストレスも軽減し、算数・数学に対する熱意を高めることが示されたと報告されています。
3. 考える教室で子どもたちが活動する場所
伝統的な教室は、子どもたちが机について、ノートに書き込むスタイルです。この作業は、考えるためには最も不向きなやり方であることが判明しています。教室の壁面や黒板、窓などに垂直にホワイトボードを立てかけ、子どもたちが立って学習することが最適であることがわかりました。
しかもホワイトボードは消せるため(グループ内に確認しないと消すことはできないが)、
安心して発言もすることができます。教師や他のグループからも作業内容が見えるようにもなり意見が活発に交流されていき、子どもたちが学習から離脱するのを防いでくれる効果もあります。
また、調査の結果、直方体や前面に黒板のある教室配置は、受動的な学習を促進することがわかってきました。一方で、デフロンテッド・クラスルーム(子どもたちがあらゆる方向を向いて座る教室)は、子どもの思考を誘発するために最も効果的な方法であることが示されました。
リルジェダールは、これらの変数が合計14あり★★、順序立ててを取り入れていくことで、「考える教室」を構築するための最適な教育法を提供しています。
どうでしょうか。子どもたちがつい考えたくなる魅力的な課題、毎回ランダムなグループ、そして立って意見交流ができるホワイトボードの活用など、これは算数・数学だけに限らず全ての教科においても活用できると思えませんか? 年度の初め、教科書を読みながら、「本当にこれでいいのだろうか」と慌ただしさの中にも逡巡するもやもやをつかまえて、授業変革の一歩を踏み出してみませんか。
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2023年3月の記事
How to Turn Your Math Classroom Into a ‘Thinking Classroom’
https://www.edutopia.org/article/thinking-classroom-peter-liljedahl-math
※2017年のEdutopia記事にもありますが、14要素は昔のものとなっています。
★★
他には以下のものがあります。詳しくはピーター・リルジェダールのHPが参考になります。https://buildingthinkingclassrooms.com/14-practices/
4. 考える教室では、教室環境をどう並べるか
5. 考える教室で質問にどう答えるか
6. 考える教室では、いつ、どこで、どのように課題が与えられるか
7. 考える教室での宿題のあり方
8. 考える教室で生徒の自主性をどのように育むか
9. 考える教室でヒントと発展問題をどう使うか
10. 考える教室でどのように授業を集約していくか
11. 考える教室での生徒のノートの取り方
12. 考える教室で評価するために選ぶもの
13. 考える授業で形成的評価をどう使うか
14. 考える教室での評価方法
©ピーター・リルジェダール
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