2023年3月19日日曜日

生徒の自己認識と、自分が必要とする支援を主張する(セルフ・アドヴォカシー)力を高める授業の実践に向けて

1月に出た『成績だけが評価じゃない ~ 感情と社会性を育む(SEL)ための評価』の著者のスター・サックシュタインさんは、「最終的には、生徒自身が必要とする支援の主張ができるようになってから学校を卒業してほしいと思っています」(98ページ)と、多くの教師が大切にしていることを代弁しています。

 この文章に後に、著者は、「この目標を達成するためには、まずは自分ができることと助けを必要とすることが何なのかについて、見極められるように教える必要があります。また、生徒との関係性を高めれば彼らの決断を支えられますし、彼らがより質の高い質問をすれば、自分が本当に必要としている手助けが得られるでしょう」と書き、さらに「評価とは、生徒が知っている事柄とできることを理解し、その情報を使って、生徒が成長を続けるためにカリキュラムの調節を行ったり、より的を絞った学習経験をつくりあげたりすることです。的確にセルフ・アドヴォカシー(=生徒自身が必要とする支援の主張・筆者補記)ができるようになれば、生徒自身が必要とするものを深く理解しますし、学習者としての自信がもてるような協力関係を教師との間で築けるようになります」(98~99ページ)と続けています。

 ここには、教えることと学ぶことの大事な要素が凝縮さる形で示されているのではないでしょうか? あなたの授業等は生徒のセルフ・アドヴォカシーを可能にする方向での実践になっていますか? それとも、逆方向になっていませんか? 教師が目標を達成するための助けとなるリソース(情報や人材)にはどんなものがありますか? それは、どうしたら得られるでしょうか?

 上で紹介した引用は、『成績だけが評価じゃない ~ 感情と社会性を育む(SEL)ための評価』の第2章「評価のなかで自己認識を育てる」に含まれているのですが、その「まとめ」の部分で、著者は次のようにも書いています(番号は、無視して読んでください。あとでコメントを付けたいので、便宜上付けています)。

人間としての、また学習者としての自分自身を知ることになる「自己認識」は、成長するにおいて欠かせない要素です。自分のことをよく知れば知るほど適切な判断ができるようになり、人生の方向性を決めるような困難な経験に対してもポジティブになれます。

生徒に自己認識のツールを提供し、彼らが言うことに耳を傾ければ、学習空間における公平性が高まります。③生徒の学習経験はそれぞれ異なっていますので、私たちは授業やそのほかの時間を使って、少しずつ違ったものを提供する必要があります。

④生徒が学習についてどのように感じているのか、どこで苦労しているのかを共有したり、彼らが必要とする支援の主張機会が多ければ多いほど、さらに上手な主張ができるようになるでしょう。自己認識を高められれば、今後の学習に対する取り組み方だけでなく、自己効力感を高めてくれることにもつながるのです。(103ページ)

 

 こういうことを踏まえた(あるいは、可能にする)授業を、日常的にできていますか?

①の部分は、アイデンティティーという言葉ないし概念に置き換えられると思いますが、日本の授業ではいったいどれくらい、個々の生徒のアイデンティティー★を意識した授業が展開されているでしょうか? 道徳の4本の柱の一つが「主として自分自身に関すること」なのですが、「善悪の判断,自律,自由と責任」、「正直,誠実」、「節度,節制」、「希望と勇気,努力と強い意志」などの(ほとんど「自立」とは反対概念といえる)「自律」がらみが中心で、「個性の伸長」が唯一挙がっています。しかし、「自分の特徴」に気づき伸ばすと言われても、残念ながら、大人だってピンときません・・・・★★

②のツールの部分は、SELの本が提供してくれますが、後者の「彼らが言うことに耳を傾ければ」の部分は、単にその方法に限らず、教師としての役割の見直しが必要になりそうです。それは、『私にも言いたいことがあります』『たった一つを変えるだけ』『一斉授業をハックする』そして、夏には出版予定の『聞くことから始めよう!― やる気を引き出し、意欲を高める評価(仮題)』マイロン・デューク著、さくら社などで方法についてたくさんの情報は得られますが、その根底にある教師の姿勢/スタンスというか、生徒との関係をどのように築きたいのかは方法と別次元の話です。

 さらに、③に至っては、すんなりと読めてしまうことと、それを日々の実践で行うことの間には大きなギャップがあります。 そもそも、あなたは「生徒の学習経験はそれぞれ異なっていますので、私たちは授業やそのほかの時間を使って、少しずつ違ったものを提供する必要があります」を受け入れますか? もし、受け入れるなら、日々の授業をどのように変えていきますか?(それとも、すでに、少しずつ違ったものを提供できていますか?) 変えるための情報やサポートはどのように入手しますか?

 ④は、ここまでのすべてを統合している文章と言えるかもしれません。自己認識を高め、セルフ・アドヴォカシーを繰り返しの練習をすることで徐々に上達することで、学習への取り組みも向上し、自己効力感が高まるという好循環が生まれるのです。日本で行われている多くの授業は、まさか、これとは逆の現象(つまり、悪循環)が起こっていませんよね? もしそうなら、早急に好循環に切り替える必要があります。

 

★アイデンティティーについては、SELのことを扱っている3冊の本(本書以外に、『感情と社会性を育む学び(SEL)』と『学びは、すべてSEL』)のほかに、言葉を選ぶ、授業が変わる! ピーター・H・ジョンストン(著/文) - ミネルヴァ書房 | 版元ドットコム (hanmoto.com)と、来月出る予定の学びの中心はやっぱり生徒だ! ベナ・カリック(著/文) - 新評論 | 版元ドットコム (hanmoto.com)が参考になります。

★★公式カリキュラムや隠れたカリキュラム等に関心のある方は、それらも含めて全部で5つのカリキュラムが紹介されている『学びは、すべてSEL』(特に、14~17ページ)がおすすめです。日本の道徳教育やSELの実践に関係なく、自己認識やアイデンティティー(あるいは、セルフ・アドヴォカシーも)を育めてしまう子どもはいるでしょう。しかし、一方にそうではない子どもたちもいますし、日本の道徳教育では難しい/無理という子どもたちもいるでしょう。しかし、そういう状態では、いけないはずで、誰もが身につけられるようにする必要があります!

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