2022年6月19日日曜日

『一人ひとりを大切にする学校』デニス・リトキー著

訳者の一人の谷田美尾さん(広島県の公立高校で英語を教えています)が『一人ひとりを大切にする学校』の紹介文を書いてくれました。

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原著 “The Big Picture: Education Is Everyone's Business”をブッククラブ(グーグル・ドキュメントを用いたオンライン読書会)で読み始めたのは、2020年11月のことです。2019年4月に昼間定時制の高校に赴任し、それまでとは全く異なる学校でただただ一生懸命目の前のことに取り組んでいただけの時期を過ぎ、徐々にやりがいと課題を感じ始めていた時でした。

教育の真の目的とは何だろうか? 目の前の生徒たちにどんな大人へと成長して欲しいだろうか? 生徒たちが充実した幸せな人生を歩むことができるよう、必要なスキルを身につけるためには、どんな学校にしたらいいだろうか? 教師なら誰でも考えたことのあるこれらの問いを、デニス・リトキーという教師は誠実に問い続け、1996年にMET★と呼ばれる小規模な公立高校を(ロードアイランド州のプロビデンスで)立ち上げました。今では六つの公立高校のネットワークとなっており、全米および世界にある100校もの学校のモデルとなったビッグ・ピクチャー・ラーニング(https://www.bigpicture.org/)の基幹校でもあります。

METという学校がもっとも大切にしている「一人ひとりの生徒を大切にする(one student at a time)」という考え方が、教育そのもののはずだと、読み進めていくたびに強く感じるようになりました。学校教育の枠から多くの子どもたちがはみ出してしまっている状況に対して、子どもたちの学力がどんどん下がっているからだ、今の子どもたちはコミュニケーション能力が十分身についていないからだ・・・と以前の私は当然のように思っていたことに気づきました。不登校の生徒や退学を選んでしまう生徒を何とか学校に連れ戻し、他の生徒と同じように学校で過ごせるようになることが大事なことだと信じていました。この本を読んで、それは自分勝手な大人の(教師の)見方だと感じるようになりました。管理、統率、効率を重視した一斉授業が当たり前になっていた従来の教育の常識を脱ぎ捨てて、日本でも、もっと小規模で、生徒と教師、家庭と学校の距離が近い学校が必要です。

この本の中でもう一つ強く印象に残っている言葉は、「学びは個人的なことである(Learning is personal)」です。 外から押し付けられた目標に向かって、小さな教室の中で生徒同士が競いながら同じことをやっていく授業ではなく、一人ひとりの興味や関心を突きつめて、自分が設定した目標に向かってリアルな社会の中で自分だけのカリキュラムを学ぶ経験の方が重要です。生徒が自分の興味や関心を見つけることができるように、私自身は、「一人ひとりを見る」という人間的なやり方を取り戻したいと強く願っています。具体的には、METの実践の柱の一つであるアドバイザリー制度を日本の学校に取り入れることに今一番興味があります。生徒が一番であることはもちろんなのですが、METのやり方を見ていると、教師も保護者も地域の人々もみんながかけがえのない一人の人間として大事にされています。一人ひとりの教師を大事にするためにもアドバイザリーという方法は有効なのではないかと思います。

全体を通して、子どもに対する深い愛情と理解、そして、学びを第一に考える揺らぎのない姿勢を感じる本です。現状の学校に違和感や疑問、さらに、怒りや哀しみを感じている教師に寄り添ってくれるような著者デニス・リトキーの語り口も気に入りました。一方で、私自身、初読の際には、「じゃ、それって、今の学校で、どこから始めて、どうやってやったらいいの?」と途方に暮れたこともありました。だから、この本を手にとってくださる方々には、訳者の私たちがしたように、ぜひ、読書会(どんな形のものでも)を開いて、語り合える仲間を見つけていただきたいです。それが、大きな変化を生み出す初めの小さな一歩になると信じています。

★学校のフルネームは、The Metropolitan Regional Career and Technical Centerです。あえて、学校も、高校も使っていないのです! ここでも、時代を先取りしています。名前からは、職業訓練センター的なイメージをもつかもしれませんが、生徒の9割以上が4年制大学に進学しています(これは、アメリカの公立高校では、かなり突出した数字です!)。

★★この本には、「デニスの本棚」という著者が影響を受けた本の紹介が巻末についています。教育書でも、珍しいです。著者の本好きが表れています。これだけでも価値があります! それに上乗せして「訳者の本棚」で3人の訳者の影響を受けた本も紹介しています。


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