2022年6月5日日曜日

「エビデンスに基づく教育」とどう向き合うか

 近年、「エビデンスに基づく教育」と言う言葉をよく目にするようになりました。デジタル化の進展や教育行政の透明性への要請などが背景にありそうです。元々は、医学界で「エビデンスに基づく医療」が唱えられはじめて、それをモデルとして、教育界にも応用しようとする動きが出てきたことによります。

教育への信頼を担保するためには、客観的で、裏付けのあるデータを用いることは、とても望ましいことだと思いますが、不安がないわけではありません。

まず、エビデンスそのものの信頼性の問題があります。データは取りやすいところから取ろうとする傾向が指摘されることがあります。本当に必要なデータではなく、研究や実験が容易なところか取得されてしまう危険性などです。また、エビデンスに振り回されてしまうと、教育において重要なものを見落としてしまう危険性もあります。教育において、すべてのものが、数値化され、測定できるものではないということは、誰しも了解できることでしょう。学力テストの点数を上げるためだけに、何らかの意思決定がなされるとしたら、本末転倒と言わざるを得ません。

医療における意思決定の考え方の中に、この問題を解決するためのヒントが隠されているかもしれません。医療の意思決定に影響する要因は「根拠」、「価値観」、「資源」の3つであるとしています。★1 この3つの要因は、次のように定義されています。

根拠=その治療が有効で安全とする理由

価値観=自分が解決したいことが望むこと

資源=利用できる費用・時間・労力

効果があるとされる方法でも、あまりに高額な治療費は払えないでしょうし、高い効果があっても副作用が強いという場合は、副作用を避けたいという希望で選択しないということもありうるでしょう。「エビデンス」のみに基づいて、意思決定をすることには危うさがつきまといます。「エビデンスに基づく教育」を考えるうえで、とても参考になる考え方と言えそうです。

教育コーチングの研究者であり実践家のジム・ナイト氏は、著書の中に「データ」という章を設けていて、データは、教員や学校の成長に中心的役割を果たしうると述べています。

同書で、ナイト氏は、教員や教育コーチがデータを活用すべき理由として、以下の4点をあげています:

1 データは、これまで見えなかったものを、見せてくれる。
 (例 形成的評価として集めたデータにより、より深い生徒理解が可能になる。)
2 データは達成可能な目標設定に役立つ。
 (例 達成すべきゴールラインを正確に設定できるようになる。)
3 データは目標達成に向けての進捗状況を示してくれる。
 (例 変容を分かりやすく把握することができる。)
4 データは教員が有用感を実感できる指標となる。
 (例 自分自身が講じた手立てが望ましい変容を生んでいることに気付くことができる。)

データを万能のものとして、それに振り回されるてしまっては、元も子もありません。だからといって、データを遠ざけてしまうことも、正しい意思決定を阻害することになるでしょう。

データは教育実践の質を高めるためのツールととらえて、生徒や教員の成長のために活用されてこそ意味が出てくるものだと言えます。

エビデンスに振り回されることなかれ。これが、「エビデンスに基づく教育」に対する、私たちの向き合い方になりそうです。


★1 「3. 「根拠に基づく医療」(EBM)を理解しよう」
 https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/hint2/c03.html

★2 出典をお知りになりたい方は、pro.workshop@gmail.comに連絡ください。

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