2021年5月16日日曜日

小学生でもデザイン思考でプロジェクト学習ができる!

 ――デイヴィッド・リー『教室におけるデザイン思考』を読む――

                             門倉正美

 「デザイン思考」とは、商品や都市などのデザインをするときにデザイナーが行う手順を、「共感・問題定義・創造・プロトタイプ・テスト」の5つの局面に定式化したものです。

IDEO(アイディオ)という商品デザインの会社が先駆的に打ち出して以来、ビジネスの世界ではアメリカから発して、日本を含む世界中の企業で取り組まれるようになっています。

 このデザイン思考というプロセスは単に商品開発に役立つだけではありません。教育の世界でも応用できるよう、デザイン思考の創始者によって、アメリカの名門大学スタンフォードに「デザインコースd.school」が開設され、数多くの学生が学んできています。教育界でデザイン思考を採り入れる動きもアメリカ発で、世界中で徐々に行われるようになっていますが、日本では、まだごく一部の大学において手探りで試行されている段階です。

【デザイン思考の5つのフェーズ(局面)】

スタンフォード大学「d.shool」資料(bootcamp bootleg)より引用

 こうした中、本場のスタンフォードの初等・中等教育へのデザイン思考応用コース(k12ラボ)で学んだデイヴィッド・リーは、韓国のインターナショナルスクール小学校課程の1年生から5年生までのクラスでデザイン思考を用いたプロジェクト学習を試みました。その成果をまとめた本、David Lee ”Design Thinking in the Classroom(教室の中のデザイン思考)2018年に公刊されました。

 この本を読むと、デザイン思考がプロジェクト学習を行ううえで、いかに効果的な方法かがよく分かります。また、著者によれば、デザイン思考は、単なる「方法」にとどまらず、デザイン思考がめざす「探究的な学び」(文科省の指導要領が言うところの、「主体的・対話的で深い学び」)の態度・行動様式を生徒の中に育てることもできるのです。

 では、リーのデザイン思考クラスの生徒たちがどのようなプロジェクト学習を行ったかを見てみましょう。 1年生は、クラスメートが家族のレクリエーションの際に使える用具をお互いに作りました。2年生は、自分たちの学校がある地域の「市街地計画」を立案しました。3年生は、世界の特定の地域を選んで、その地域の特徴に合った校舎のデザインを工夫しました。4年生は、各国のフェスティバルの山車のミニチュアを作って、それぞれのフェスティバルの意味を考えました。5年生は、エコトレード(生態系を顧慮した貿易)ショーに出品するための作品をデザインしました。

このように小学生でも、デザイン思考を活かしたプロジェクト学習ができるのです。2年生の「市街地計画」プロジェクトの中では、このような形でデザイン思考が行われました。

デザイン思考では、「共感」が非常に重視されます。デザインの根本は、デザインされたものを使う「ユーザー」のニーズにあると考えるからです。2年生たちは、地域で働く人、住む人にインタビューして、その人たちのニーズを掘り下げます。このプロセスでは、的確な「インタビュー」が行われる必要があり、著者はインタビューにおける問いのあり方やインタビューの仕方について生徒とともに考えています。

次に、地域の人々のニーズと問題点の所在への気づきをもとに、プロジェクトで解決すべき「問題」をはっきりと文章化します(問題定義のフェーズ)。

そして、その「問題」を解決するためのアイディアをできるだけ多様で数多く出すように「ブレインストーミング」を行い、その成果の大量のアイディアの中からすぐれたものをしぼっていきます(創造フェーズ)。

すぐれたアイディアは、実現可能なプランや試作品という形にされなければなりません。試作案や試作品をつくるときは、精度にこだわらずラフな形で手早く「見える化」する必要があります。そうした試作案・試作品を「プロトタイプ」と言います(プロトタイプのフェーズ)。

試作案は、ユーザーである地域で働く人・住む人からのフィードバックを得て、十分にその人たちのニーズを満たすものでなければ、何回もプロトタイプをつくり直すことになります(テストのフェーズ)。

このように、デザイン思考では、5つのフェーズは必ずしもすんなりと直線的に進行していくわけではなく、それぞれのフェーズ間で何回も試行錯誤的に反復されます。こうした「反復」は忌避されることではなく、デザインをみがくために歓迎されるべきことなのです。

 2年生の「市街地計画」プロジェクトでは、地域の人々のレクリエーション施設の不足への解決策と地域の地形的構造からくる浸食問題への対応策をまとめあげ、それらの成果を都市計画の専門家にアピールする手紙を書くことになりました。

 このプロジェクトの例からもうかがえるように、この本には、デザイン思考をプロジェクト学習で用いる際に役立つアイディアや、練習のワーク、実施の際の注意点、生徒たちに伝えたい事例やエピソードが豊富に盛り込まれています。

 この本については、吉田新一郎さんと私で全体を共訳した試訳稿があります。プロジェクト学習にデザイン思考を組み込むことに関心がある方々に、この試訳稿を無償で配布し、今後のプロジェクト学習の進展に少しでも寄与することができたらと考えています。試訳稿入手希望の方は、門倉のメールアドレス:masamikadokuraアットマークhotmail.com

メールタイトルに「試訳稿入手希望」、本文に「試訳稿入手希望・お名前」を書いて送信してくだされば、折り返し、試訳稿を送付いたします。


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