2020年9月13日日曜日

今こそ人権教育を「気持ちこそ全てのものごとの礎石」

今、人類は人権の危機にさらされています。

 

香港国家安全維持法により香港市民の民主的な権利が脅かされています。アメリカでは先月、警察官に背中を7発以上黒人が銃撃される事件も起こりました。日本国内では貧困や格差、身体的特徴からの問題、LGBTQA+、部落や朝鮮人への格差の問題が昔から根強く残っています。そして、このコロナ禍において学校内で新型コロナ感染症クラスターが発生と共に、感染者や医療従事者の家族へ新たな差別も起きています。すでに、大学生がアルバイト先から解雇され社会問題となりました。

 

今後、あなたの教室でもコロナ差別が起こりうることです。起こってからでは遅いのです。今こそ、これまで以上に人権教育に力をいれて、幼い頃から子どもたちが人権に触れて心を豊かにし、平和な社会となる礎石を育むことが求められています。


ERIC国際理解教育センターでは、今から30年も前にシドニー大学の世界的な人権教育の権威であるラルフ・ペットマンを招き、「オーストラリアの思いやり教育の実践に学ぶ」セミナーが開かれました。そのときのニュースレター「ERIC NEWS LETTER No.6」がとても参考になりましたので、紹介します★。

 

"こどもたちが他人との関わりの中で、相手の身になって感じたり、考えたりする感覚を育てていくこと、また、自分自身もかけがえのない存在であるという感覚を育むことです。この二つの心の持ちからこそが人権=「ひととして正しいこと」の最も基本となるものなのです。  
ERIC NEWS LETTER No.6 P.8より



 

人権教育というと、子どもの人権宣言やいじめ防止対策推進、SDGsなどの権利を知ることから話が始まることが多いのですが、オーストラリアの人権教育はその土台となる「気持ち」の部分を固めることがいかに重要かを説かれています。一方、私たちは道徳の教科科に伴って「教えたこと」が「理解している」とつい誤解しがちです。社会契約を人工的につくったとしても、子どもの心には「知っている」以上のものにはなかなかなりません。人権感覚は教えられ知ることで育っていくだけでは決してないのです。日常の関わりの中でこそ育まれていくものだといえるからです。

 

自分に対する信頼と、他人への共感という二つの気持ちが芽生えていれば、そこから人間としての価値観が生まれるはずです。この気持ちこそ全てのものごとの礎石です。他人にも自分自身にも価値を認められるない子どもたちに「人として正しいこと」を教えようとして、どうしてうまく伝わるのでしょうか?

 

“自分自身に価値を認めることと、他のひとたちの価値を尊重すること、この二つの気持ちはともにかかすことができない基本的な「二本の脚」です。片方は主体性に、もう一方は対人関係にかかせません。他人を全く理解しないまま自分自身であり続けようとすると傲慢になってしまいます。逆に外とのつながりを大事にしすぎると、自分を失い、他の人と共有できる自分らしさをなくしてしまいます。片方の「脚」がもう一方より長いと歩きにくいのです。” ERIC NEWS LETTER No.6 P.9より

 

この自分も相手も大切にすることを同時に行うことは対立を伴い、難しいもの。この二つの緊張関係は、人として自然なもの。私たち人間は、二つの気持ちを共に育て、どうバランスをとっていくかを考えなくてはなりません。そして、子どもは自らの経験を通してしか学ばないものです。自分の気持ちを振り返り、相手の立場を想像しようとすることで、先生の手を借りながらも、原因や背景などを子どもたち自身が考えて解決することこそ必要なのです。そこで、NEWS LETTERでは教室でできる人権意識を学べる具体的なアクティビティの紹介もされています。

 

  • 人を信頼する大切さ、人の立場を考える姿勢を培う「目隠し散歩」
  • 自分の意見を言える、聞く、自分と他人に価値を見い出す「輪になって」
  • 世界人権宣言に興味を持つ「ほしい・したい、必要、当然」
  • 人はみな異なる意見をもつことに気付く「部屋の四隅ーキミはどこ?」
  • 同じ点や異なる意見を聴き尊重できる「わたしのともだち」
  • 観察して箱に戻したジャガイモから自分のジャガイモを見つけ出すことで、その違いがあることに気付く「じゃがいもと友達になろう」

 

言葉だけの抽象的なやりとりとことなり実感を伴った活動には子どもたちの五感が触発されます。部分部分ではこれまであったような活動かもしれませんが、改めてこれらのアクティビティを人権の立場で捉え直してみると、そのよさが伝わってきます。そしてこれらは幼い子どものうちから経験するほど効果的だと思いませんか?

 

 

 

今後、コロナウィルスによる差別、経済格差による差別、外国籍の子どもへの差別、身体的特徴による差別などが、ますます子どもたちを取り巻きます。自分を大切にすること、相手を大切にすることを礎石とし、一人ひとりがかけがえのない存在であると教えることについて体験的に学ぶ。この短いニュースレターにはその実践と理論が詰め込まれていました。

 

私たち教師が今、自分自身の思いを大切にすること。子どもたち人として本当に必要だと思ったことを大切にすることから人権教育はすでに始まっています。学習の遅れを取り戻すカリキュラムに終始せず、本当に大切なこと、人権意識を体験的に育めるような学び、していきませんか。

 



ERICニュースレターNo.6「思いやりを育てよう」は、ERIC NEWS LETTER  ERIC通信に、PDFとして全ての号も公開されていますので、ご覧ください。全て無料で見られることが素晴らしい!

http://eric-net.org/project/newsletter/nl_no6.pdf

 

1990年台初頭にすでに人権意識を求める活動が展開されていたことに驚きと共に、今の現状を踏まえると人権教育を継続して取り組むことの世界的重要さがうかがえます。

 

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