2019年9月8日日曜日

授業の中心は教師? 生徒全体? 生徒一人ひとり?


 いま、『教育のプロがすすめるイノベーション』(ジョージ・クーロス著)のブッククラブが少なくとも10ぐらい行われています。
 その中で、参加者から出されるコメントで多い箇所の一つが以下の部分(14~15ページ)です。

ある教師は、「革新的な教え方は、生徒の学びをより良くするための絶え間のない進化です」と述べています。
さらに、授業の中心は教師ではなく、生徒全体でもなく、生徒一人ひとりであると述べています。このような環境をつくり出すために毎日問われなければならない質問は、「この学習者にとって、何が一番よいのだろうか?」ということです。
教育の個別化と、私たちが「奉仕する★」生徒たちへの共感が、教え方・学び方のイノベーションのはじまりなのです。

 あなたは、上記の部分を読んで、どのようなことを考えましたか?

本文ではわずか6行ですが、日々の授業の捉え方について、核心的な部分がつかれているので、多くの参加者(教師)がコメントするのでしょう。たとえば、以下のような形でです。
①自分の授業や教え方は、生徒の学びをより良くするために絶え間なく進化しているだろうか?
②自分の授業は教師中心だろうか? クラスの生徒全体だろうか? 一人ひとりの生徒だろうか? それとも、そのいずれでもなく、教科書中心になってしまっているだろうか?
③自分は「この学習者にとってのベスト」という捉え方を授業でもったことがあるだろうか?
④自分の生徒への共感をもったことがあるだろうか? 「奉仕する」という言葉とも関係するが、共感するとはどういうことだろうか?

(この本は『理解するってどういうこと?』と争うぐらいに、本の中に質問形の文章が多いだけでなく、読んでいる間に自らの問いも生まれる本です。この2つの要素はいい本のバロメーターとして使えるのではないかと思っています。問いは思考を活性化させるだけでなく、実践の転換とイノベーションも起こしますから。それに対して、正解的な文章は、それらが弱い気がします。納得した気になって終わってしまい、あとに引きずる分量が少ないからでしょうか?)
上記の①~④は、さらなる疑問・質問も生み出します。
①絶え間なく進化させる必要など、そもそもあるのか? もし必要なら、それはどうやって可能なのか? どういう方法があるのか?
②自分や教科書中心ではなく、生徒全体と言いたいところだが、クラスの6~7割のレベルの(仮想の)生徒に焦点を当てることで、生徒全員が満足できないことは分かっていることだ。一人ひとりの生徒に焦点を当てる授業など可能なのか?★★ それは、③の質問そのものだが、自分自身「この生徒にとってのベスト」という捉え方自体をしたことがない! 教科書の指導書や研究授業の指導案が、この捉え方とは極にある存在ではないのか?
 たしかに教師の多くは、テストのために教科書の内容を全部カバーしなければならないという強迫観念にとらわれています。しかも、それは自分がカバーしてあげないと、生徒たちだけでは理解できない/学べないと。しかし、ある(高校の先生たちが対象の)ブッククラブで、「授業のどのくらいを生徒たちに委ねられますか?」と尋ねたところ、なんと7~9割という答えが暗記教科といわれている理科や社会でさえ出されたのです。
 結果的に、教師が一人でがんばり、生徒たちのほとんどが受け身的に学ばされる(この言葉を使うこと自体おかしく、より正確には「暗記させられる」)授業ではなく、テストの準備は全体の1~3割で十分で、残りは生徒たちの探究を中心にした学びができると結論づけたのです。
 自分の価値観とそれに基づく実践を大きく転換するきっかけが、ブッククラブから得られた瞬間でした! ぜひ、あなたも(可能ならブッククラブ形式で)読んでみてください。


★訳者注・日本の教育界で、「教師が生徒に奉仕する」という感覚はまだ希薄だと思いますが、単に「かかわる」や「接する」と訳してしまっては、教師自身が絶えず挑戦し、変わる必然性はなかなか見えてこないと思いますし、この言葉が原書のキーワードの一つであることからも、この聞きなれない言葉を使うことにします。
★★①に、従来の教員研修や研究授業は役立ちそうにはありません。本書および『「学び」で組織は成長する』と『シンプルな方法で学校は変わる』を参照してください。②と③の質問に興味をもたれた方は、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』(プラスhttps://sites.google.com/site/writingworkshopjp/teachers/osusume のリスト)が、④に興味をもたれた方は、『イン・ザ・ミドル』がおすすめです。


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