2018年5月6日日曜日

「ゴールはどこだ?」

平成30年3月、「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」(スポーツ庁)が公表された。中学校での部活動に週2日の休養日を設けることなどが示されている。ようやく、学校教育の「アンタッチャブル」な領域に、国が指針を示した形となった。

このガイドラインに対する反応は様々なようだ。やっと前に進み始めたと歓迎する意見がある反面、「部活動の価値を理解していない!」とする怒りも聞こえる。「あんなものが出ても、無視してやり続けるだけだ。」という中学校教員もいた。部活指導で悩んでいた若手教員は、先輩から「中学校教員が、土日休んでどうするんだ。」とまで言われたそうだ。

このタイミングで、実に興味深い記事を目にした。 加部究という人が書いた「ドイツ人元Jリーグ監督が“部活”に抱いた違和感「練習が休みと言ったら全員喜ぶ」」(THE ANSWER,2018.02.06,https://the-ans.jp/column/16911/)である。

ドイツ人元Jリーグ監督とは、ゲルト・エンゲルスという人で、横浜フリューゲルスや浦和レッズなどの監督を務めたらしい。エンゲルス氏は、Jリーグの前に、兵庫・滝川二高のコーチをやっていた。その時に、サッカー部の活動が、上意下達で進められることや、100人近いサッカー部員がおり、卒業まで一度も公式戦に出ない生徒もいたことなど、数々の疑問を感じたという。

「たぶん生徒たちは、明日の練習が休みだと言ったら大喜びする。でもドイツの子供たちは、今日はサッカーが出来ないなんて言われたら、みんながっかりして落ち込むよ。もしかすると日本は義務と趣味のバランスが悪いのかもしれない。」

そこで、エンゲルス氏は、ミニゲーム行ったり、クラブ内ミニ大会を開催するなど、サッカーの楽しさを味わえるクラブ運営に努めたという。同校でサッカーを楽しんだ少年たちの中から、岡崎慎司(レスター)などの優秀なプロサッカー選手が数多く育っている。この記事は、エンゲルス氏の次の言葉を引用して結ばれている:

「トレーニングをして試合に勝つのも結果だけど、サッカーを好きになってもらうのも大切な結果だよ。僕は80人の部員全員を、しっかりと見たかった。プロになれる可能性のある子と同じように他の子も助けたかった。」

すべての部活動の指導者を、勝利至上主義という言葉で、くくってしまうことはできないが、ガイドラインがでた、この機会に、部活動のあり方を考え直してみてはどうだろうか。勝利に向けて、必死で努力することは、価値のあることに違いないが、そのゴールを、中学校在学中の最優先事項とするのか、もっと先の、生涯スポーツを楽しむための素地をつくることにおくのか。そのビジョンの違いは、子どもたちの人生に大きな影響を及ぼすはずだ。

みなさんの学校は、どのようなビジョンを描いていますか?「土日休んでどうするんだ。」と言われた先生の学校では、50代のベテラン体育教師が、「われわれももう一度考え直してみないといけないかもしれないね。」と提案したことで、空気が一変し、議論が始まったそうである。

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今回から、月に一回「PLC便り」を書くことになりました。いまは大学に勤務していますが、元は高校の英語教員です。学生時代から今の学校教育に疑問をもち、本当に学ぶ楽しさや醍醐味を実感できる学校や授業とはどのようなものか考えてきました。小中高の先生たちと、様々なプロジェクトを行い、共に学び続けることがライフワーク。彼ら、彼女らの日常や学校で起きていることを通して、教師が学校で成長していくとはどういうことなのか、一緒に考えていきたいと思います。

 [高知工科大学 長崎政浩]

2 件のコメント:

  1. 小学校教諭をしています。昨年度卒業した子どもたちは、部活動をはじめたところです。以前卒業させた先輩たちは、入ってきた後輩をとても大切にしてくれている様子を、新中学一年生から聞いています。緊張感をもちながらも、嬉々として部活動に向かう子どもの姿に触れると、子どもたち自身が声を上げる場がなければいけないのではないかと感じます。

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  2. コメントありがとうございました。部活動は、本当にかけがえのない経験と学びを残してくれるすばらしいものですよね。現在の学校で、最も主体的な学びを生み出しているのは、部活動かもしれないといった意見を言った人もいました。おもしろい見方だと思いました。今回のガイドラインが、子どもたちも含めた、多くの皆さんの良い議論につながることを期待したいと思います。内田良さんの『ブラック部活動ー子どもと先生の苦しみに向き合う』(2017,東洋館出版)に描かれているようなことが起こらないように。

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