2017年6月4日日曜日

学習指導における教師の役割とは?~新学習指導要領の移行措置から考えたこと~


 525日(木)の新聞報道によれば、2020年度に実施される次期学習指導要領では、「外国語活動」が小学校34年生から行われ(年間35コマ、週に1コマ:45分)、また、小学校56年で英語(年間70コマ、週に2コマ)が教科になることに伴い、文部科学省は、2018年度から2年間の移行期間において、授業時数確保のため、「総合的な学習の時間」の一部を外国語活動・外国語(英語)に振り替える措置を容認することに決めました。学校現場では「時間割は目いっぱい」の状況で、文科省は授業時数を増やせないと判断したようです。さらに、2020年度の英語の教科化後も、「総合的な学習の時間」の見直しを検討するとのことです。 

 私の知り合いの小学校の若い教員で、「総合的な学習」に熱心に取り組んでいる人が、次のように嘆いていました。 

「総合的な学習」が大切にしてきたのは、子どもたち自身の「問い(なぜだろうという疑問や取り組んでみたいと思う課題)」ですその「問い」を基本にして、総合的な学習のカリキュラムを、子どもたちと教師とが協同して創造してきました総合的な学習は、正に次期学習指導要領がねらっている「主体的・対話的で深い学び」を実現するための学習なのです。それなのに、総合的な学習の時間を外国語活動(英語)に振り替えることは、本末転倒ですよ。まったく困ったものです。 

 今年の331日に告示された新学習指導要領では、現在よりも年間の総授業時数が小学3年生~6年生で35コマ増え、週に1時間授業が多くなります。外国語活動が小学校3年生から始まり、小学校4年生では、先週のPLC便りでも話題になった「プログラミング教育」も行われます。「道徳」も特別の教科になります。あまりにも盛りだくさんの内容で、まったくと言ってよいほど「ゆとり」がありません。 

 穿った見方をすれば、国語教育、算数・数学教育、理科教育、…といった従来からの教科学習を担う学会・団体などの「授業時数の確保というせめぎ合い」と「政治的・社会的な要請」によって、授業時数もパンパンに膨らんだ状態、内容的にも「てんこ盛り」の状態というのが2020年度からの学習指導要領ではないでしょうか。 

 これまでも、学習指導要領の改訂において、子どもたち自身の「問い」を生かした主体的な学びを実現するために「選択教科(中学校)」や「総合的な学習の時間(小中学校)」が創設されてきました。 

しかし、選択教科も総合的な学習も、教科書をカバーする(教科書を使って、教科書の内容を教える)ことが学習指導・授業の中心になっている多くの学校・教師にとっては、「負担・お荷物」だったと思います。だって、選択教科や総合的な学習には、教科書がありませんから。子どもたちの「問い」を生かした主体的な学習、探究的な学習、プロジェクト学習を行うために、具体的に「何を」、「どのように」、「なぜ」進めていけばよいのか、よくわかっていなかったというのが、実態だと思います。★★ 

このような状況に陥っている学校の問題点は、「カリキュラム開発力」が乏しいということと、「形成的評価」がきちんと行われていないことだと思います。カリキュラムを創造するための道筋や手立てを知らない、あるいは教師によっては知ろうともしない。そんな面倒くさいことは、先進的な取組を行っている国立大学の附属の学校などでやればいい。私たちにはそんな余裕はない、といったところでしょうか。また、様々な貴重な情報を与えてくれる「形成的評価」を丁寧に行い、子どもたち一人一人の学びや教師の指導に生かすことに対して、エネルギーを注がずに、「教えること」だけに汲々としているのかもしれません。 

 今回の新学習指導要領の移行措置ということを契機に、私たちが本物の学習指導に回帰して、目の前にいる子どもたちの学習状況(興味関心、レディネス、学ぶスピード、学習スタイル、才能etc.)に応じたカリキュラムを開発し、学ぶことと教えることにとって重要な情報を提供してくれる形成的評価を行うという、教師本来の魅力的で創造的な役割に取り組むことが求められているのだと思います。 

 その際に役に立つのが、『たった一つを変えるだけ~クラスも教師も自立する「質問づくり」~』ダン・ロススタイン&ルース・サンタナ(著)[新評論]とようこそ,一人ひとりをいかす教室へ―「違い」を力に変える学び方・教え方―』C.A.トムリンソン(著)[北大路書房]です。 

『ようこそ,一人ひとりをいかす教室へ』には、5つの「一人ひとりをいかす教室の原則」が掲載されています(p.104の表6.1)。 

生徒を招き入れる学びの環境が,学力向上には極めて重要である。

質の高いカリキュラム★★★が,効果的に一人ひとりをいかす基礎をなす。

形成的評価が,教えることと学ぶことに情報を提供し続ける。

.指導は,形成的評価の情報や生徒たちのレディネス興味関心学習履歴に基づいて行われる。

教師のリーダーシップ柔軟なクラス運営が,一人ひとりをいかす環境における生徒の理解,参加,そして学力向上をもたらす。 

 教科の学習であれ、総合的な学習であれ、「主体的・対話的で深い学び」を実現するためには、教師同士が連携・協同して、目の前の子どもたちと一緒に「質の高いカリキュラム」を開発し、「形成的評価」を丁寧に行うことが重要になってくるのです 



★ この若い教師は、「ピンチは、チャンス!」と言いながら、総合的な学習の時間と外国語(英語)そして他の教科も含めて、教科の枠を取り払った、正に「総合的な」学習を行うためのカリキュラムを開発すると意気込んでいました。 

★★ 文科省や都道府県の教育委員会は、先進的な取組を行っている学校の実践を掲載した「事例集」などを各学校に配付しましたが、フォローアップがありませんから、各学校に普及・定着するわけはありません。「総合的な学習の時間」は、多くの小学校では熱心に取り組まれ、その学校独自のカリキュラムも開発されました。しかし、中学校では、キャリア教育や修学旅行などの学校行事の事前学習などに充てられています。

★★★ これは、与えられたカリキュラムではなくて、自分たちがつくり出すカリキュラムを指しています。教室内に存在する能力差に応じるために一人ひとりをいかす教え方を行う努力に限らず、よく教えようとするときは、教科書のような与えられたカリキュラムをこなすのではなく、目の前にいる生徒を中心に据えた自分たちでつくり出すカリキュラムが不可欠です(『ようこそ,一人ひとりをいかす教室へ』p.104の脚注より)。

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