2025年10月5日日曜日

教師と学習者の信頼関係の構築 原則2 共感的態度で応じる

生成AIは実にパワフルなツールです。多様な考え方を世界中から収集して、それを完全な文章でまとめてくれます。これまで我々が苦心してやっていたことを、瞬時に、こともなげにやってくれるのです。

AIが、秀逸で、完璧な答えを準備してくれるとなると、我々の知的営みのあり方が変わってきそうです。我々人間は、AIの出した回答を受けて、それに対する創造的で、独創的な発想が求められるようになるのかもしれません。人間の思考や考え方そのものを見つめ直すきっかけを与えてくれるのかもしれない。

そして、このようなAI時代においては、人間関係の構築といったテーマも、再び焦点が当たることになると思います。人間的な営みが、逆に焦点化される。

前月から、サラ・マーサーさんとゾルタン・ドルニュイさんの著書から、教師と学習者の信頼関係を構築するための6つの原則を紹介しています。★ 第2回めの今日は、原則2「共感的態度で応じる(原著では”Be Empathetic”)」です。

共感的というのは、よく使う言葉ですが、具体的にはどのような態度を指すのでしょうか。原語である “empathetic”という単語の定義は、”showing an ability to understand and share the feelings of another”(New Oxford American Dictionary)となっています。「他者の感情を理解し、共有する能力を示していること」となるでしょうか。

前掲書には、「つまり、共感とは、他者に同意することではなく、他者を理解しようとすることにほかならない」と書かれています。しかも、「理解しよう」の部分にはルビが振られています。理解しようとする態度を示そうというニュアンスが含まれていそうです。

次のような、共感的スキルを伸ばす方法も、紹介されています。

・ボディーランゲージやジェスチャを読み取ることを意識的に努力する。

・学習者の年齢層のことが書かれた文学作品を読む。

・判断留保的な態度で傾聴をする。

・コミュニケーションスキル向上に励む。

やはり、共感的であるには、それなりの努力をする必要があると言えそうです。

その重要な一つが傾聴でしょう。学習者の声に耳を傾ける努力をするということです。

同書では、傾聴する能力を高めるためには、「学習者の話をさえぎらないこと」と「教師が待つ時間をもつこと」の二つが必要であると述べています。

生徒の良き理解者でありたいと、いつも心に止め、真面目で、情熱あふれる先生はたくさんいると思いますが、一方で、そのような思いが強すぎるあまり、ついつい、話をきかせ、諭そうとしがちな先生は多いのかもしれません。

話を遮るつもりはなくても、生徒の話を聞いているうちに、アドバイスしたいこと、伝えておきたいことが、次から次に浮かんできて、気がついてみると、先生の独演会が始まっている。そんな場面を目にしたことのある人は多いのではないでしょうか。

共感的であるためには、子どもたちを、受動的に話を聞く存在、大人の言うことを素直に聞いて成長する存在といった捉え方を、根本から改める必要があるのかもしれません。

同書では、生徒を「双方向の対話に積極的に参加するパートナーとみなす(p.95)」べきでないかとの提言を紹介しています。日本社会の中で育った我々にとっては、ここまでの意識をもてるには、かなりの意識改革が必要なように感じます。


★ サラ・マーサー/ゾルタン・ドルニュイ(2022)『外国語学習者のエンゲージメント』アルク.(原著 Mercer, Sarah and Dörnyei, Zoltán (2020) Engaging Language Learners in Contemporary Classrooms,Cambridge Professional Learning.),p.78.

「教師と学習者の信頼関係を構築するための6つの原則」

原則1 近づきやすさ 

原則2 共感的態度で応じる

原則3 学習者の個性を尊重する

原則4 すべての学習者を信じる

原則5 学習者の自律(立)性を支援する

原則6 教師の情熱を示す

注)原則5の「自律性」は”autonomous”の訳語ですが、「自立性」を採用する方が本来の意味に近いと思われます。